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どんづまりの街 30 ―強欲な彼は―



 シルヴィアたちが街の復興作業をしている同時刻。ホァンのアパートの一室でエルナはベッドに腰掛け休んでいた。


 昨夜、ホーキンスの側近に襲われた時の怪我はたいしたことは無く、本来ならシルヴィアらと共に街へ出て怪我人の治療などやりたいことはあった。

 しかしホァンから部屋から出るなと言いつけられ、そして今現在エルナにしがみつく様に寄り添うヒカリにも同じように安静にしているように言われ結局エルナは昨日までと同じようにベッドの中にいることになった。


 と言っても今までずっと眠っていたため眠くもなく、少し出歩こうとしようものならヒカリに「ダメー!えるえる動いちゃダメー!」と駄々をこねられてしまい、最終的にベッドに腰掛け所在無さげにしていた。


 雨戸の隙間から真っ直ぐに光が差し込んでくる。この時間に光が差し込むということはもう昼過ぎなのかとエルナは一息ついた。


「えるえる、大丈夫? どこも痛くない?」


 そんなエルナの様子を見てヒカリが心配そうに語りかけた。

 表情も非常に逼迫していて、まるで死んでしまいそうな人間を見ているかのようだった。

 エルナは無理矢理笑顔を作ってヒカリに笑いかけた。


「大丈夫よ。昨日だって血はいっぱい出たけどもう全然痛くないし。ほら、腫れてもないわよ?」

「むー! そうだよ! こんなカワイイえるえるのお顔殴るなんてホンットヒドいんだからー! もし腫れてたら人類の大損失だよ!」


 ヒカリは終始この調子で常にエルナの怪我を気にしていた。

 当のエルナはヒカリのこの勢いに嬉しさ半分恥ずかしさ半分だった。しかしそれを差し引いてもヒカリの献身ぶりは並外れていた。


 昨晩冷たい石畳に横たわっていたエルナを優しく抱き寄せ涙ながらに呟いた「一人にしてごめんね」がエルナの中で思い出された。その言葉に報いるようにヒカリはこうしてエルナについていてくれる。


 この少女は何故こうも人の心に寄り添おうとするのか。何故あんなふうに懺悔したのか。

 様々な疑問が浮かぶがエルナはすぐにそれを打ち消した。


 そんなことは考えたところで答えが出るわけでもないし、実際エルナにはヒカリの存在による安心感は言うまでもなかった。エルナはヒカリのことについて考えることをやめた。

 しかしそうなると今度は別件のことで気が重くなり、無意識のうちに深い息を吐いた。


「えるえる……」

「あ、違うの。どこか痛いとかじゃなくて。その……、ホァン先生に怒られたことが今になってすごい凹んじゃって……」

「あはは。確かにすっごい怒ってたね。せんせー」


 ヒカリがそう言って優しく笑ったがエルナはそのことを思い出すと未だに気が重くなった。


 というのも、昨夜エルナがギムレットに抱えられホァンのアパート近くまで戻ると、アパートの外に髪を乱し、汗だくになったホァンと鉢合わせになった。

 エルナが部屋にいないことに気がついたホァンは、考える間も無く体を動かし普段の運動不足の体に鞭を打ってアパートの周りを這いずりまわりながらエルナを探していたのだ。


 そんな見たこともない状態のホァンを見て言葉を失ったエルナに対しホァンはエルナを見つけた途端に凄まじい剣幕になった。


「どこをほっつき歩いていたんだ!!!このバカモンがっ!!!」


 今までぼそぼそとしか喋らないホァンが飛び上がるような大声を出し、恥も外聞も捨ててエルナを叱った。


 ホァンのことを他人に対して無関心なように見えていたエルナは、感情を剥き出しにして怒る姿を見て驚いた。しかしそれ以上に、ホァンにこれほどまでに怒らせてしまったことに衝撃を受けた。

 極めつけにホァンが力なく言った「頼むから勝手にどこかに行くな」という言葉でエルナは自分のしたことの重大さに気がついた。


 それに報いようとホァンの手伝いを申し出たら、逆にまた怒られエルナは終始落ち込んでいた。


「でもあれは、せんせーにとってえるえるが大事だからあんなに怒ったんだよ?」

「そう……、なのかな?」


 ヒカリは慰めるようにエルナにそう言ったが、当のエルナ本人はあまり釈然としなかった。

 事実ホァンはエルナとは必要以上に関わりを持とうとはしなかったし、ロキとでさえ親しくしようとはしない。喫茶店のドンが実はホァンと旧知の間柄だというのもついさっき聞いたことだった。

 それだけホァンは人と関わろうとしないし、それが納得できるほど人付き合いはなかった。


 そんなところでエルナが心配だと言われてもあまり信じることはできなかった。怒ったことでさえ余計な労力を使わせるなという意味だと思っていた。


「そうだよー! どーでもいい人のために走ったり怒るのってすっごいしんどいんだよ? あの面倒臭がりっぽいせんせーなら特にそうだって!」

「そっか……。でもなんか申し訳ないな。あたしなんかのためにホァン先生があんなにぇ!?」


 相変わらず自信が持てないエルナは息をするように自虐をこぼそうとしたら、言葉を無理矢理遮るようにヒカリがエルナの両頬を小さな手で挟んだ。


「えるえる、『なんか』って言っちゃダメ。しーちゃんが言ったこと全然わかってない」


 ヒカリの顔はいつもの無邪気な表情ではなく、エルナが見たこともない相手を非難するような顔だった。

 しかしだからこそヒカリの真剣さが身に染みた。

 ヒカリは、エルナが自分勝手な行動をしたことよりもエルナが自分自身を傷つけることを咎めた。


「うん、ごめん。ごめんね。もう言わないから」


 エルナがそう慌てて言うとヒカリはいつもの笑顔になりそのままエルナの頬を引っ張って遊んだ。


「えるえるのーほっぺはーもっちもちー」

「もう、やめてってば。ほっぺた伸びっちゃう」


 そんな風にじゃれあっていたらエルナも自然と笑顔になっていた。

 突然雰囲気が変わるヒカリに戸惑うことはあっても、こうして振り回せれるのはエルナにとって悪い気はしなかった。むしろ心地よさすらある。


 ひとしきりじゃれあうとヒカリはエルナの膝に座り体を預けた。


「なんにしたって、もうえるえるが怖がることはないよ。ギル君としーちゃんが悪い奴らやっつけたし、ロキ坊が相手の親分追っ払ったし。やっぱりロキ坊はやれば出来る子だったねー!」

「そうね、ホントそう。ロキは普段面倒くさがってるけど、ホントはなんでも出来る。私のことだって、あいつがいなかったら私、今頃どうなってたかわからないわ」


 エルナはヒカリに同調しそういった。その言葉には感謝と後ろめたさのような気持ちも含まれていた。


「あいつ、自分勝手なように見えて他人のことばっか気にしてるの。気にしなきゃいいのに。嫌なら見なきゃいいのに。なんであんなに人の事ばっか考えてんだろ……」

「……知ってるかもしんないけど、ロキ坊ってすっごい記憶力いいのね?」


 エルナの独り言のような疑問に答えるようにヒカリが何かを語りだした。


「もうどんっなにどうでもいいことでも細かく覚えてて、むしろ忘れらんないんだって。で、その反動なのかロキ坊すっごい独占欲強いの。自分のモノ盗られると鬱陶しいくらい怒るんだよ!」


 経験があるのかヒカリはそのことを語りながら苛立っている風だった。

 しかし未だにヒカリが何を言いたいのか、エルナには理解できなかった。


「ロキ坊はね、きっとえるえるのこと自分のモノだって思ってるんだよ。えるえるっていう存在も過去も、ぜーんぶ自分のものだって。ロキ坊が怒っているのはそういう事なんだよ。とにかくあの子自分のモノを人に触られたくないんだよ。だからロキ坊はえるえるのこと考えてるんじゃなくて自分のことしか考えてないの。ちょージコチューなの!」


 ヒカリが語ったことに少しだけ呆気に取られ、そしてそのあと少しだけ笑った。


「なによそれ……。欲張りにも程があるじゃない……」

「ね! でもその分、ロキ坊ちゃんと自分のモノ大事にするよ? それに自分のモノっていうのは夢とか目標もそうなの。実際ロキ坊欲しいものは何が何でも手に入れるし。言ったことはちゃんと実現するよ」


 ロキのことを語るヒカリはとても楽しそうだった。

 まるで我が子を呆れながらも嬉しさを隠しきれず自慢する母親のように。


「そのために必要なことはしっかりやるし、努力だって一生懸命するの。もうどんな汚い手を使っても、どんな惨めな目にあっても」


 そこで一旦言葉を区切りヒカリはエルナの方へ振り返った。


「だからロキ坊はカッコイイんだよ!」


 ヒカリは満面の笑みでエルナに言った。その笑顔は皮肉ではなく本心からの言葉だということを裏付けた。


 ヒカリのそんな屈託のない笑顔に釣られエルナも笑みをこぼしていた。

 そして心の内に、ぶっきらぼうで小憎たらしいロキの顔を浮かべると心臓の辺りがきゅうと締め付けられるような感覚が起こった。

 しかしそれは決して嫌な感覚ではなかった。


「うん……。そうね……」


 切ないとも、もどかしいともいえないその感覚を言葉にすることは、エルナにはまだできなかった。



       *



「いやぁ~、これはこれは『暴皇』様ではありませんか~。御大自らご苦労様です~」

「……ああ。そっちはどうだ? 何か収穫はあったか?」

「いえいえいえ! 私なんぞ大した収穫もございません! 『暴皇』様のように華々しい結果を出せるような崇高な存在ではございません! ただの卑しい俗物でございます!」


 中央広場、住民たちが各々作業を一旦打ち止め休憩を挟んでいる中でロキが不自然な調子と気持ちの悪いご機嫌取りをギルバートにしていた。


 ロキは終始笑顔でまるで貴族にまとわりつく小者のようだったが、醸し出す雰囲気で明らかに嫌味だということは少し離れて聞いているシルヴィアとギムレットには理解できた。


 昨晩の騒動が収まり、ホーキンスの下へ向かったロキと広場の暴徒たちを鎮圧したギルバートが合流してからお互いに結果報告をしている最中に、ギルバートがザナルの亜人種殲滅戦にて生まれた『暴皇』の可能性があると聞いてからロキはこの調子なのだ。


 そのことをギムレットが話したとき、ロキは少しの時間の間に数え切れないほどの感情をさらけ出した。

はじめに呆然。そして絶句。驚嘆。からの絶叫。ギルバートへの恫喝。かと思えば失意。そして突然の憤慨。

 感情の見本市のようだった。


 初めて出会った頃から、シニカルな面が多いがどこか冷めたような印象を持っていたギムレットにとってはロキのその様子は驚きを通り越し、軽い失望すら覚えさせた。

 しかしそれが逆にロキに抱いていた印象の反動でギムレットには親しみやすさを感じさせた。


「もうその気持ち悪い機嫌取りはいい。そもそも俺が天下七皇だという確証はないんだ」

「ざけんなよテメェギルコラ。俺の持つ天下七皇情報に照らし合わせたらテメェだってこたぁ火を見るより明らかなんだよ」

「はあ……。まだそんなもの追いかけているのか。いい加減現実を見ろ。そんなものはただ民衆に持て囃されただけの薄っぺらい存在だ」

「あ゛ぁん!? テメェそのセリフ『救世の三皇』様にも言えんのかオイ。その三人に比べたらテメェなんざちっぽけな存在なんだザマーミロ!」

「当たり前だ、そんな大物と比較するな。俺は大した力もないただの野良の剣士だ」

「オッホッホッホー! ご謙遜とはご立派ですなー! ザナルの十万の兵隊蹴散らしといてそのセリフはでねぇってー!」

「お前自分が何を言っているのかわかってるのか? さっきと言っていることが違うぞ。……そもそも何だ『暴皇』という呼び名は。品が無さすぎる。そんな肩書き押し付けられたところで風評被害もいいところだ」

「テメェ天下七皇なんだと思ってんだっっっ!!!」


 ロキは叫びと共にギルバートに掴みかかり激しく体を揺さぶった。しかし当のギルバートはどこ吹く風で全く意に介していなかった。


 周りの白い目も気にせず二人は相変わらず言い争いを続けた。というよりロキが一方的に怒鳴りつけているだけなのだが。


「もう、一体何が何だか……」


 突如として始まった二人の漫才についていけずシルヴィアは呆気に取られながらそんなことを呟いた。


「なんだかなぁ、ロキの奴は年甲斐もなく天下七皇に憧れておるらしくてな。確かこの街にきたのも、その『暴皇』の足跡を追ってのことらしい」

「そ、そうなんですか……!?」


 シルヴィアに説明するように横にいたブロンズがそう言った。それにおっかなびっくりとシルヴィアは返した。

 しかしそんな態度になってしまったのは、ロキのことよりもシナロアカンパニーの総帥であるブロンズ・シナロアに話しかけられたからというのが大きかった。


 正直この一日二日でシルヴィアの中でシナロアカンパニーの評価は地に落ちていたのだが、今日になって見ると浮浪者然としていたドンがいきなり身なりの整った姿に変貌し、実は自分はシナロアカンパニーの総帥だと言ってくるものだから衝撃どころではなかった。


 しかしブロンズは自分がしたことではないにも関わらず、部下の不始末は自分の責任だとシルヴィアらはもちろん住民たちに頭を下げた。

 そして総帥の権限でシナロアのビルの荷物を解放することを許可し、街の復興に大いに貢献している。

 ここまでされて今までの恨みをぶちまけようとするものはいなかった。


 さらにブロンズの年相応に落ち着いた雰囲気と紳士的な態度に飲み込まれ、シルヴィアすらも萎縮してしまっていた。

 今日も何度か復興についていろいろと話していてもシルヴィアから緊張は抜けなかった。


「あ、あの……。重ね重ねありがとうございます。事情はどうあれ商品である荷物を提供していただけるなんて……」

「ん? ああ、気にせんでくれ。それこそ何度も言っているがあいつの責任は儂の責任だ。むしろこんなことでしか償えないのが申し訳ないくらいだ……」

「とんでもありません! おかげで住民の皆さん全員に食事を振る舞えましたし、怪我の治療だって医療品があったから大事には至りませんでした!」

「はっはっは! お嬢さんは善い人だ。あんたはここの住民ですらないんだろう? それなのにそこまで親身になれるのはすごいことだ」

「そんな、私なんて……」

「それに比べて……。普通は儂と話すとこうなるんだぞ、ロキ?」

「うるせぇ!!! こっちは大事な話してんだ!!! 黙ってろ!!!」

「呆れてものも言えんわ」


 ブロンズの侮蔑の言葉はそれ以上のロキの怒号でかき消された。



       *



「と、いうわけでシナロアとの一件も片付き、ロキは正式に私たちの仲間となりました!」


 ロキとギルバートの言い争いが落ち着き、人目に付かないところに移動してからシルヴィアはそう言った。

 それに続きギムレットがぞんざいに拍手した。


「いや……、マジでここまで長かったなぁ」


 そう言うギムレットの目の端には涙が滲んでいた。そして感慨深そうに天を仰いだ。


「ジジくせェな、おっさん。そんなんでこれから大丈夫かよ?」

「おっさん言うな、誰のせいだと思ってんだ。……つーかこれからもねぇよ。前にも言ったけど俺は厳密に言えばお嬢の仲間ってわけじゃねぇぞ? 期間限定の護衛だって」

「もういいじゃん。おっさんも仲間になっちまえよ、メンドくせぇな」


 言葉通り面倒臭そうに頭を掻きながらロキはそう言った。

 あまりにもさらりと言われたのでギムレットは理解するのに時間がかかった。


「はっ!? いや、簡単に言うなって……。こちとら王宮騎士団の中隊長だぞ?いろいろとしがらみとかあんだよ」

「知らねぇよそんなん。なぁギル、お前もそう思うよな?」

「馬鹿を言うな。ギムレットさんはお前にみたいに適当じゃないんだ」


 ロキの戯言に乗らずに相変わらずギルバートは真面目に正論を言ってくれた。ギルバートの誠実さはこういう時に助かる。


 がしかし、ギルバートの続けて出た言葉はギムレットの意思とは真逆だった。


「ですが、ロキの言葉も一理あります。俺は初めて出会った時からギムレットさんが仲間になってくれたらどれだけいいだろうと思っていました」

「おいおい……。気持ちは嬉しいが、ギルバートまで何言ってんだよ。なあお嬢?」


 助け舟を求めてシルヴィアに振ったが、しかしシルヴィアからは思惑とは違う言葉が出てくることとなった。


「そのことですが。ギムレットさんさえよければ私たちにこれからも力を貸して頂けないでしょうか?」


 シルヴィアは普段の調子ではなく、初めてロキに勧誘の話をした時のように真摯に向き合っていた。

 その真っ直ぐな眼と姿勢に驚きの声も出なかった。


「正直私は女王陛下から勅命を受けてから不安でいっぱいでした。ですがギムレットさんが同行してくださったおかげで気が楽になったというか、必要以上に気負わなくて良くなったんです。変な言い方、無茶をしてもギムレットさんがいればカバーしてもらえるって思えるんです」

「んな、勝手な……」

「ですね。それにこの二人を纏めるのは私じゃちょっと荷が重いんです。できればギムレットさんにも手伝ってもらいたいなぁって。ダメ、ですか……?」


 シルヴィアは少し照れくさそうに言って上目遣いでギムレットを見上げた。

 その仕草は年相応に可愛らしかった。


 そうだ、目の前の少女は自分より年下の少女なのだ。

 他を圧倒できる剣術と大勢の人間を奮起させたカリスマで忘れていたが、本来なら人並みに着飾り、恋をしていてもおかしくない女の子なのだとギムレットはようやく気がついた。


 どうだろうか。肩書きも立場も一度忘れてギムレットは考えてみる。

 身の丈に会わない重責を背負っている少女を見て自分はどうするだろうか。


 答えは考える間もなく出てきた。


「しゃあねぇな。ここまで言われちゃ断るにも断れねぇぜ」

「よかった……。断られたらどうしようかと思いました」


 そう言って安堵の息を吐いてシルヴィアは笑った。

 そんな笑顔を見ていたらやはり放っておけないなとギムレットは内心嘆息した。


「つってもどうなるかはわかんねぇぞ? 団長とかにも頭下げねぇといかねぇしな……」

「そんなモン、お嬢の権限使えばどうってことねぇだろ」

「お前はちったあボスを立てろ、ロキ」


 そう言いながらギムレットはロキの肩に腕を回した。

 それをきっかけにロキはギムレットに悪態をつき始めた。しかし言葉の内容はよそにどこか楽しそうだったのはロキがギムレットを認めているからだろう。その様子を隣で見るギルバートも自然と笑顔になっていた。


「では、そろそろ復興作業に戻りましょう。ブリティアに戻るのはせめてこの街が軌道に乗るまで見届けてからでないと」


 シルヴィアが手を叩き男性陣にそう促した。それを合図にギルバートとギムレットは広場に戻っていった。

 しかしロキはその場から動こうとせず、なにか考えるように上を見上げていた。


「何? どうかしたの?」

「……なぁ、お嬢。一個だけ頼みがあんだけどよ」


 空を見上げたままロキは珍しく真剣な面持ちでそう言った。



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