どんづまりの街 29 ―災禍の果てに―
スモッドで起こった暴動から一夜明け、日が昇った街では住民たちが復興作業に従事していた。
暴徒たちが行った破壊活動は街の機能を著しく下げたが、住民たちは絶望することなく老若男女、そして種族すら問わず助け合って作業を行っていた。
もちろん長い間刻まれ続けた種族間の溝は簡単には埋まらず、最初はお互いぎくしゃくとしていたが、不器用なりにも声を掛け合い、異種族同士で大きな荷物や瓦礫を運び合い彼らなりに距離を縮めようと努力していた。
そんなふうにお互いが歩み寄ろうと思えたのも昨夜の暴動のおかげとも言えるだろう。
己の命を危ぶまれた状況でとっさに助け合ったことでお互いを隔てていた壁がいとも簡単に砕け散ってしまった。
自分たちはこんなにも簡単なことを諦めていたのかと、住民たちは内心笑い合っていた。
そしてそんな簡単なことを気づかせてくれた存在。
そして自分たちを救ってくれた存在が彼らにとって何よりもありがたかった。
その救世主とも呼べる存在、シルヴィアは中央広場にて住民たちに指示を飛ばしていた。
「手の空いた方は二番街の方へ手伝いに行ってください。人手が不足しています」
「シルヴィアさん! 怪我人に使う包帯が切れてしまいました!」
「はい。今シナロアのビルに物資を取りに行っている人がいます。他に怪我を負っている方を出来るだけ一つの場所に集めてください」
「はい!」
「シルヴィアさん! お腹を空かせた子供たちが大勢……!」
「今女性陣が簡単に料理を作っています。この中央広場に老人子供を集めてください」
「はい!」
シルヴィアは昨夜の暴動から街の被害の甚大さを感じ、率先して街の復興作業を手伝っていた。
しかし今まで他人に干渉することをしてこなかった住民たちはいざ街の復興といっても何をしたらいいかわからず各々が見当違いのことをしていた。
いてもたってもいられず、シルヴィアは少人数をまとめて怪我人の搬送、瓦礫で塞がれた道の確保といったことを行っていた。
それを見た住民たちは、昨夜の救世主が住民を率いる姿を見て自然とシルヴィアを手伝うようになっていった。
そうして大所帯となり、かえって身動きが取りづらくなったシルヴィアは中央広場に陣取って住民全員に指示を送る司令塔となった。
手際よく住民に指示を送るシルヴィアの元にタンクトップ姿のギムレットが汗を拭いながら現れた。
「よう、お嬢! 五番街の方は終わりだ! あっちはほとんど被害がなかったみたいだからな!」
「お疲れ様です、ギムレットさん。少し休憩してください」
「なぁに、こんなもんでへばったりしねえよ!」
厚い胸をどんと叩いてギムレットは頼もしく言い放った。
「でも、ずっと動いてばかりでしょう?」
「いいんだって。昨日の夜は何にもできなかったんだ、せめてこういう力仕事で役に立たねぇとな!」
鼻息を荒くして胸を張るギムレットにシルヴィアは少し呆れつつも笑みをこぼした。
「わかりました……。では、シナロアのビルから物資を運んで来てください。まだまだ食糧や医療品が足りないので」
「おう! 任せとけ!」
そう言ってギムレット意気揚々と去っていった。
そんなギムレットと入れ替わるように今度はギルバートがシルヴィアの元にやってきた。
「シルヴィア。怪我人の状況を確認してきた。重傷者は多いようだが、幸い死者はいないらしい。といっても現状は、だが……」
「そう……。でも現状でも死者がいないことは不幸中の幸いだったわ。生きていればどうとでもなるもの」
「ああ、そうだな」
二人は安堵のため息を漏らした。
ギルバートはギムレットのように他の場所に赴き復興作業を手伝わず、シルヴィアの傍らに付き添い、近くの場所への指示の伝達や情報の整理を手伝っていた。
本来だったら闘気も使える分力仕事に携わって貰いたいところだが、シルヴィアはあえて自分の傍にいることを命じた。
というのも、街の住人がギルバートの存在に萎縮し、どうしても意思疎通が滞ってしまうのだった。
しかしその理由は明白だった。
昨夜のギルバートの戦闘はまさに圧巻だった。
あれだけの暴徒をものの数分で炎と電気を撒き散らし鎮圧したこと。人一人簡単に押しつぶせる氷塊を瞬く間に消し去ったこと。
このことは住民たちに頼もしさを通り越して畏怖の念すら覚えさせた。
後にシルヴィアはギムレットからギルバートが『暴皇』である可能性があることを聞いた。
最初はもちろん驚いたが、言うほど意外でもなかった。
あれだけの戦闘能力を見せつけられて納得するなというのも無理な話だ。
世界四大国ブリティア王国王宮騎士団であり、大剣闘舞で結果を残したシルヴィアでもあの戦いぶりは異常だった。
だからこそ、住民たちが恐怖するのも理解できた。
シルヴィアはふとギルバートの横顔を見た。
ギルバートは住民から復興状況について報告を受けていた。
住民は平静を装っているが、ギルバートに対して緊張しているのが明らかに分かった。
もしかしたら、自分はとんでもない存在を招き入れてしまったのではないか。そう思わざるを得なかった。
自分はこの斬れすぎる剣を扱えるのだろうか。
そう思いもしたが、直様心の中でその疑問を打ち消した。
扱えるだろうか、ではない。扱わなければならない。
剣とは何を斬るかによってその意味を大きく変える。
シルヴィアはギルバートを凶刃にするつもりはない。
誇り高き騎士の剣であることを求めるし、自分がそうさせるのだと心に決めた。
――というのが建前であって、シルヴィアがギルバートを目の届く場所に置いておくことには真の意味があった。
「あ、あの! 食事の準備が出来ました!」
「本当ですか? よかった、ありがとうございます」
食事の用意をしていたであろう少女が指揮を取るシルヴィアではなく、あからさまにギルバートにそう報告した。
「はい! で、あの……もしよろしかったら、味見でもしていただけないでしょうか……?」
少女は顔を伏せてギルバートに椀に注がれたシチューを差し出した。その顔は仄かに紅潮している。
「ええ、もちろん。いただきます」
ギルバートは少女の様子など気にもせず、素直に椀を取りシチューを口にした。
「……うん、とても美味しいです」
非常にあっさりとした感想だったが、優しい笑顔が添えられたその言葉を受けた少女は弾けんばかりの笑顔を咲かせた。まるで背景に花畑でも広がっているかのようだった。
「ほ、本当ですか……!? やった……!」
小さな声で喜びの声を漏らし、少女は小さく拳を胸の前で握って喜んだ。
――へぇ~……。嬉しそうですねぇ~……。その顔、まるで恋する乙女みたいですねぇ~……。
遠巻きにその様子を見ていたシルヴィアは口こそ出さなかったが、その尋常ではないほどの負のオーラは周囲の住民たちに悪寒を走らせていた。
「あ、その……。今お忙しくなかったら、一緒に……」
「ギル~? 食事の準備が出来たって~? それなら、皆さんに教えて差し上げて~」
少女の囁くような声を塗りつぶすように、負のオーラはそのままにシルヴィアはギルバートに指示を飛ばした。
「ああ、わかった。すみません、このことを皆さんに教えてきます。こんなに美味しい料理なら皆さんご満足いただけると思います」
「は、はい……。ありがとうございます……」
シルヴィアの心情など知りもしないギルバートは素直に支持に従い、爽やかな笑顔を残してその場をあとにした。
一人取り残された少女は先程の舞い上がるような表情から一転、一気に絶望の淵に立たされたような顔をしていた。
果たして昨夜の恐怖の表情と今とではどちらが悲愴感に満ちていたのだろうか。
そう。シルヴィア自身はそんなことは思いもしないが、ギルバートを自分のそばに置いているのは街の女性陣たちからの羨望の視線を必要以上に向けさせないためだった。
昨夜の大立ち回りの畏怖よりもギルバートの溢れんばかりの眉目秀麗さが全てを塗り替えてしまったのだ。
そしていざ話しかけてみると、ギルバートの持つ生来の紳士さと愛想の良さで大概の女性は心奪われてしまうのだ。
そんなこともあり街の女性たちはギルバートの修羅のような戦いぶりが、頭の中でまるで白馬の王子が颯爽と悪者を打ち負かした映像に捏造されていったのだ。
そのためギルバートの存在はどこへ行こうと様々な意味で注目の的になり本格的に作業に支障をきたすようになってしまい、ここ中央広場でシルヴィアが見張ることになった。
というよりもシルヴィア自身がギルバートを目の届く場所に置いておきたいというのが全てだった。
――ふふ、ふふふ……。これでいいのよ……。ギルは私がしっかり見張っておかないとね……。
紛れもなく公私混同だが、大義名分を得たとばかりにシルヴィアは内心悦に入っていた。しかしその想いはあっさりと顔に出て、周囲に異様な笑みをばらまいていた。
「大丈夫かよ、ウチのボスは……」
物資を運んできたギムレットはその様子を見て呆れ果てた。
*
シルヴィアが邪な想いと共に復興作業を進めている同時刻。ロキはシナロアのビルの最上階、ホーキンスの書斎で部屋の物色を行っていた。
そこでロキは麻薬の流通または製造ルートの確証、そして『黒い逆十字』にまつわる情報がないかを念入りに探し回っていた。
しかしいくら探しても出てくるのはシナロアの物流ルートや顧客リストといったものばかりで麻薬の情報はもちろん『黒い逆十字』に関するものは欠片も見つからなかった。
探しているうちにロキはホーキンスの徹底さに改めて舌を巻いた。そもそも昨夜の事件がなければ麻薬の件はともかく『黒い逆十字』に関わっていたことすら判明することはなかったのだ。
――まあ、わざわざ証拠残すようなヘマするような野郎じゃねぇとは思ってたがな……。
ロキはそう思い息を吐いた。もうこの部屋から有力な情報は得られないだろうと捜索を打ち切ろうとしたその時、開け放っていた扉をわざわざノックする音が聞こえた。
「ご苦労さん。何かめぼしいものは見つかったか?」
ノックをしたのはブロンズだった。
ブロンズはこれまでの浮浪者のような格好ではなくホーキンスのようにシワ一つないスーツを身に付けこれまた高そうなコートを肩からかけていた。
帽子と付け髭を取った際の雰囲気の変化にも驚いたが、いざこうして衣装まで替えるともはや気のいい老人ドンの面影は完全に消え去っていた。
それはまさに百戦錬磨の経営者、もしくは酸いも甘いも味わった老紳士と言った風情になっていた。
「ダメだな……。あの野郎、確かに仕事ぶりは完璧だ。テメェのシッポ掴まされるようなもんは何一つありゃしねぇよ」
「ふぅむ、流石だな……。まあこの儂が仕事を叩き込んだんだ、それくらいは当然だろう」
「マジで腹立つぜ。爺さんのその自慢もな」
ロキがため息と共にそう言うとブロンズは愉快そうに笑った。
「しかしあれだな。余計な気を遣わせまいと変装をしては見たんだが。お前さんは一切態度を変えんな。まあ今更変えられても気色悪いが……」
「たりめぇだろ。俺を媚びへつらえさせたかったらカミサマでも連れて来いってんだ」
「無神論者が何を言うか」
そう言ってブロンズはまた笑ったが、不意に笑うのを止め、大きく息を吐いた。
「しかしまあ、あれだな……。まさかアルベルトがあんなことをしておるとは思いもしなかった。儂の前ではあんなことおくびにもださんかったんだがな」
「実際俺もギリギリまで騙されてたぜ。あの野郎、仕事だけじゃなくて演技も完璧だ。その辺の舞台役者よりも名演技カマしてくれたぜ」
「……あいつは、アルベルトはな。親を亜人に殺さたんだ」
突然ブロンズはそんなことを言い出した。ロキは何も言わずに話の続きを聞いた。
「あいつの親は有名な資産家でな、その仕事の中で亜人種保護団体も援助していた。熱心な奴でな、儂もよく知っておった。ちょいとお人好しだが、熱意のあるいい人間だった。しかしある日、奴の屋敷に強盗が入ってな、奴とその女房が無惨に殺され、屋敷の金品が根こそぎ奪われた。その時アルベルトはまだ七つだった。たまたま家にはおらんで助かっておったんだ。そしてそのあとすぐ強盗は捕まった。……今考えたら捕まえんほうがよかったのかもしれん。強盗は、あろうことかあいつが庇い続けた亜人だったんだ」
ブロンズは自分の頭を支えて悲痛な声でそう言った。まるで自分自身も怒りを押さえ込んでいるような声だった。
「アルベルトは昔から頭が良かった。だからこそ事件の全てを七つにしてわかっちまった。今まで守り続けた存在に親を殺されたってことをな。そんなアルベルトのことがどうしても心配になってな。あいつの親が友人だったってのもあって放っておけんかった。だから儂は直ぐにあいつの後見人になった。そして色んなことを教えた。知識や遊び、仕事もその一つだ。どうにか過去のことを忘れてくれまいかと願ってな。そんなことをしているうちにあいつのことを心から気に入ってしまった。それこそ本当の息子のようにな。だからこそ、わしはこの街をあいつに任せた。あいつなら過去を乗り越えてくれると信じてな。だが結局はこんな始末だ。何が息子だ。儂はただの、勝手に父親気取りしとったボケジジイだ」
声はどんどん小さくなり、自分を責めるような口調になっていた。
「家族だと思っておったのは、儂だけだったみたいだ……」
「んなことねぇだろ」
ブロンズの言葉に間髪いれずそうロキが言った。
顔を上げロキを見ると背を向け事務机の方と歩み寄る。机の引き出しを開けて何か紙切れのようなものを取り出し、それをブロンズに差し出した。
「部屋漁ってたとき見つけた。すげぇ大事そうに置いてあったぜ?」
差し出されたのは一枚の写真だった。そこには今よりだいぶ若いブロンズと利発そうな少年が二人で写っていた。
「おお、懐かしいな。これはさっき言ったアルベルトを孤児院から引っ張ってきた時にアルベルトと一緒に撮ったんだ。いやあ懐かしい。この頃の写真は撮るのに時間がかかってな」
急に明るく話を始めたブロンズにロキはため息を吐いてその話はいいと手を振った。そして身振り手振りで写真を裏返すように促した。
訳もわからず言う通り写真を裏返してブロンズは目を見張った。
そしてだんだんと眼が潤んでいった。涙を溜めて我慢しているようだった。
写真の裏には短い文章が書かれていた。
『親愛なる、二人目の親父と――』
「大の大人が、ニセモノの親との写真に小っ恥ずかしいこと書いて大事にとっとくとは思えねぇけど……?」
「……何が親愛なる、だ。そんなこと一言も言われたことないぞ、バカ息子め……」
うつむき絞り出すような声でブロンズはそう言った。そして肩を小刻みに揺らして笑った。しかしロキには嗚咽を誤魔化しているようにしか聞こえなかった。
「けどまぁ、だからってあの野郎がしたことを許す気にはならねぇけどな。どんだけ迷惑かけられたと思ってんだ」
「はっはっは……。そりゃそうだ。やはり奴はこっぴどく叱ってやらんとな」
力なく笑った後にブロンズは天を仰ぐように仰け反った。その表情は先ほどと比べてかなり清々しかった。
「しかしまいった。この街はほとんどアルベルトに一任しておったからな。儂もこの街にかかりっきりになるわけには行かん。どこかにこの街をよく知ってる有能なやつがおらんかのう……」
突然話を変えてそんなことをブロンズは言い出した。そして仕切りにロキをチラチラと目線を送ってくる。
ブロンズのー思惑が嫌でもわかってしまうロキは「ウッゼェ……」と呟き、心底億劫そうな顔をした。
「勘弁してくれよ……。俺はそんなガラじゃねぇんだよ……」
「何だ。まだ何も行っとらんぞ? まだな」
「ざけんな、押し付ける気満々じゃねぇかよ。いや、マジでやんねぇぞ俺ァ」
「押し付けるとは人聞きが悪い。しばらくの間この街の立て直しを手伝ってもらいたいんだ。今回の件で儂は後始末に追われる。だからといってこの街を放っておくわけにもいかん。別の人間を送るにしろ、それまでの間もたせておいて欲しいんだ。それにはこの街をよく知っていて、アルベルトと渡り合ったお前さんが適任なんだ」
つらつらと淀みなく理由を語るブロンズだったが、その表情、眼差しは真剣そのものだった。それだけでブロンズはロキを評価し、信頼して任せようとしているのは伝わってきた。
しかしそれでも終始不機嫌そうに聞いていたロキに対してブロンズが続けた。
「それに、お前さんにはアルベルトを連れ戻すことを手伝ってもらいたい。儂のシナロアカンパニーの情報網を使えばありとあらゆることが知れるし、足だって確保できる。お前さん、『黒い逆十字』を潰したいんだろ? だったら利害は一致しとると思うがな……」
最後に餌をまき、どうだ断れないだろうと言わんばかりにブロンズは手を差し伸べた。
ロキはブロンズの手を眺めた後に素っ気なく手を振った。
「悪いがよぉ、もう先約入ってんだ。最悪この街の後始末程度ならいいが、あんたの下で働く気はねぇよ」
にべもなく断られ肩を竦めながらブロンズは手を引いた。
「先約ってのはあのシルヴィアってお嬢ちゃんのことか? ふむ……、確かにブリティアの騎士ってのには驚いたが、それこそお前さんのガラじゃないだろう?」
ブロンズの言葉にロキは驚き呆れたような表情をした。
「何だよ。マジで言ってんのか、爺さん?」
その言葉の意味がわからずブロンズは訝しげに眉を歪めた。
するとロキはふわりと優しく、それでいて悪戯っぽく微笑んだ。
「あんなイイ女に誘われといて断っちまったとあれば、男の名折れだろうがよ」
それはごく普通のことのように、美味い飯があったら食らいつくのは当然だと言うような言い方だった。
ロキの言葉にブロンズは思わず言葉を失い、それから息を漏らして次第に大きな声で笑った。
「そうだな、そりゃそうだ。こいつは野暮なこと言っちまったな」
断られたにも関わらずブロンズは清々しく笑っていた。もうブロンズ顔に迷いはなかった。
「全くだぜ。歳ばっか食って枯れちまったんじゃねのか?」
ブロンズに嫌味を言いながらロキは部屋を出て行く。その後を追うようにブロンズが付いてくる。
「いやいや、そこは負けとらんぞ? 今でも愛人を何人か囲っとるくらいだからな」
「愛人って、爺さん女房いねぇのかよ?」
「はっは。女房なんぞつくってみろ。おちおち他の女と寝ておれんだろう?」
「ああ、なるほどな。あんた見て育ったんならホーキンスがクソ野郎なのもうなずけるぜ」
「手厳しいな……。だが確かに、あいつは儂に似てよくモテたな。お前さんと違って」
「だあってろ、色ボケジジイ」
ロキとブロンズはそんなふうに話をしながらシナロアのビルを後にした。
無駄話を続けるうちに二人は中央広場に近づいていた。すると何やら広場がやたらと活気に満ちているのを感じた。
復興作業に熱が入り喧嘩でも始まったのかと目を向けると。
「シルヴィア様! 怪我人の搬送完了しました!死者はおりません!」
「シルヴィア様! 二番街、三番街の復興に目処が経ちました!人員はどうしましょう!?」
「はい! はい! わかりましたから、いっぺんに言わないでください!」
騒ぎの中心には壮麗な銀髪を忙しなく揺らすシルヴィアがいた。
何故か住民たちから様付けをされ、さながら人気の大道芸人のような扱いだった。
「シルヴィア様!」
「シルヴィア様!!」
「シルヴィア様!!!」
「うぅ~! わかったから! わかったから~~!!!」
大勢の人間、亜人種に群がられ、涙目になりながらも必死に指示を飛ばすシルヴィアの姿がそこにはあった。
「……俺よりお嬢の方がいいんじゃねぇか? リーダー役」
「ふむ……」
ロキの言葉にまんざらでもなさそうにブロンズが頷いた。




