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どんづまりの街 3 ―日常と仲間たち―



「ごめんください。あ、いたいた」


 ロキがエルナの料理に舌鼓をうち食後のコーヒーで一息ついていた頃、喫茶店のドアから聞き覚えのある声がした。


「んだよ、ジュリィじゃねえか」


 扉の前にいたのは木箱を両手に抱えた獣人種の青年だった。

 ジュリィと呼ばれた青年は危なっかしい足取りでカウンターに近づいた。


「毎度。部屋に行く前に寄って良かった。この木箱持って階段を上がるのは骨が折れるからね」

「そりゃ良かったな。にしてもまた随分と仕入れたな」


 そういいながらロキはジュリィのもつ木箱を覗き込む。

 中には不可解な装飾や文様が施された道具で溢れていた。

 それらは短い杖のようなもの、手甲や額当て防具等多岐にわたった。


 その一つ一つは魔道具と呼ばれるものだ。


 魔道具にはそれぞれ模様のような文字列と物によっては淡い色を放つ鉱石があしらわれている。

 それは魔鉱石と呼ばれるもので、生物以外で魔素を生み出すと言われる物質だ。

 魔鉱石をエネルギー源とし文字化された魔法詠唱文であらゆる“奇跡”を起こすことができる代物だ。


「ホント、すごい量ね」

 

 カウンター越しに覗き込んだエルナも木箱の中の魔道具の数に驚嘆した。


「やあ、エルナ。今日もロキのお世話かい?」


 ジュリィが皮肉混じりに笑うとエルナは肩をすくめて「そんなとこ」と答えた。


「オイオイ、誰が誰のお世話してるって? むしろ俺が世話してやってる方だろ」

「ハイハイそうだね。わかったからいつもの頼むよ」


 ジュリィがいい加減に答えるとロキは舌打ちしながらも木箱を漁り始めた。


「あれ全部買い取り品?」

「いや、他所から来た行商人からまとめて買ったんだ。大量に安く手に入ったのはいいけど、安すぎて心配でさ」


 木箱を漁るロキを眺めながら問い掛けるエルナにジュリィはそう答えた。

 そうしている間にロキが小さな木箱を乱暴に手首で振り回す。


「あ、ちょっと丁寧に扱ってくれよ!」

「そんな怪しいものまで仕入れる必要あるの?」

「そうは言っても、今のご時世で魔道具を売ってくれる人なんていないからね。店に人を入れるためにも目新し商品は常に入れておかないとね」

「たかがジャンクショップが大層なこと言ってんじゃないわよ」

「失礼だな、ウチは大戦時代から続く由緒ある骨董屋なんだよ?」

「その由緒ある骨董屋が行商人からガラクタ買ってんだから世話ないわ」


 エルナのそんな言葉にジュリィは残念そうにため息をつく。

 そんな二人の会話に割り込むようにロキが声をかけた。


「何コントやってんだよ。ホレ、全部見終わったぞ」


 ロキは言いながらカウンターに木箱を置く。

 わざとらしく肩を回して疲れた素振りを見せる。


「お、相変わらず早いね」

「こんなもん一目見りゃ判断付くっての。でだ、ほとんどのブツは問題なく使える。ただこの呪文入りの手甲はかなり燃費悪ぃな。もし売る時は実用向きじゃねえってことだけは伝えとけよ。あと……」


 ロキは淀みなく木箱の中の魔道具の説明を始めた。

 その内容のほとんどは多少魔法の知識のあるエルナでも全てを理解できるものではなかった。

 説明を受けているジュリィもそうなのだろう、ほとんど聞き流しているふうで、重要そうなところだけをメモに書き写していた。


「了解。ありがとう、大助かりだ」

「礼はいいから報酬よこせや」


 ロキが催促するように「ホレホレ」と手をひらひらさせるとジュリィはやれやれといったふうに肩から掛けていたバッグから二冊の本を取り出した。


「はい。これも行商人から買ったものなんだ。こういう街じゃ本の需要なんてほとんど無いから、こっちはタダ同然で買えたんだ」


 そう言ってロキに渡した本は比較的新し目の本と、背表紙が取れて太い紐で綴じられた本だった。


「どうせ僕は字が読めないし、その二冊を今回の報酬として譲るよ」

「ジュリィもロキから読み書き教わったら? 本読むのだって面白いし、今後役に立つかも知れないわよ?」

「そんな余裕ないよ。どう、気に入ったかい?」


 ジュリィの言葉にも答えずにロキは二冊の本を適当にパラパラとめくった。

 二冊の本をそうして眺めてから、ふうと短く息を吐いた。


「この新しいのは最近の小説だな。サンキュ、ありがたく貰っとくぜ。で、こっちの古ぃのはもう目ェ通してんな」


 その言葉を聞いたジュリィは残念そうに「ありゃ」と呟いた。


「その古い本はなんなの? 魔法の本?」

「いや、戦史だな。大戦時代のスカーディアの」


 戦史どころか、一般的な歴史の知識もないエルナとジュリィの二人はどうでもよさそうに「ふーん」といった感じで聞いていた。


「まあ、この一冊で十分だ。どうせ大した仕事じゃねぇし」

「言ってくれるね。これでも僕の生命線なんだから。とにかくありがとう」


 挨拶もほどほどにジュリィは木箱を抱えてそそくさと帰ろうとする。


「あれ、もう帰るの? コーヒーくらい飲んでいったらいいじゃない」

「店開けっ放しなんだ。小銭一枚でも稼いでおきたいしね」


 エルナの「忙しないわね」という小言も聞き流し、ジュリィは店の扉に手を掛けた時、ロキが口を開いた。


「何でもいいけど、そんなやつれる程働かなくてもいいだろ?」


 ロキは何の気なしに言った言葉だったが、ジュリィは動きを止め背中に冷水でも入れられたかのような顔で振り向いた。


「……そう? そんな風に見える?」

「あ? どう見たって顔痩けてんだろ。ゲッソリだぜ? 目の下までクマ作ってよぉ」


 ロキはそういうが、エルナ自身にはジュリィの変化は感じられなかった。

 そもそもジュリィはかなりの痩せ型だったし、そもそもこの街では贅沢に肥えた人間は少ない。


「そう? あんたの見間違えじゃないの?」

「んなわきゃねぇだろ、この俺様が!」


 エルナの言葉に憤慨したロキだったがそんな様子をただ黙って聞いていたジュリィは、突然電灯が光りだすように表情を変えた。


「ははは! いやあ、最近どんどんお客が減るもんだからさ、営業とかいろいろしててね。実は今日もほとんど寝てないんだ!」

「オイオイ、欲の深い奴ァ身を滅ぼすんだぜ?」

「君には言われたくないね! じゃあまた。コーヒーはまたいつか飲みに来るよ」


 ジュリィは明るい調子のまま、しかしどこか逃げるように店を後にした。

 店内は扉についた小さい鐘の音だけが残った。


「ったく、そんなに金が必要なのかねぇ……」

「そりゃ、まあそうでしょ。皆あんたみたいにフラフラ生きてるわけじゃないんだから」

「俺が考えなしみたいに言うんじゃねえっつの」


 そう文句を言いながらロキはエルナにコーヒーのおかわりを催促をした。

 エルナは流れる所作でロキの差し出したカップにコーヒーを注いだ。


「そういえばロキさ、あんたまたどっかで恨み買ったの?」


 コーヒーを注ぎながらエルナが脈絡なく、そう聞いた。


「なんだ急に、そんなもん日常茶飯事だっつの」


 自信満々にそう言ってのけたロキにエルナが苛立ちと軽蔑の混じったような眼差しを向けてきたが、諦めの息を吐き話を続けた。


「あんたが薬の配達に言ってる間に常連のお客さんが話してたのよ。ロキのことを探してる余所者がいるって」


 スモッドの町はかなり閉鎖的な街であり、それゆえに余所者が来ればすぐに目に付く。

 ロキは不審そうに頭を傾げた。


「妙だな。この街以外に営業を掛けた覚えはねぇぞ?」

「あんた喧嘩商売でもしてるの? どっちにしろ心当たりとかあるの?」

「あー……。心当たりしかねぇな」

「だろうね、言うと思った」


 何でも屋まがいの生活をしているロキはチンピラや暴力組織との諍いが絶えない。


 仕事で街の『お偉いさん』から娼婦のボディーガードの仕事をすることも珍しくない。

 その際に相手取るのがそう言った堅気ではない連中だ。


 報酬で多額の謝礼を貰えるのはいいことだが、代わりにガラの悪い連中から恨みを買ってしまうため、あまりこの手の仕事はロキは好きではない。


「ちなみに、どんな連中だったんだ?」

「えーっと……、黒髪で隙がない感じの男の人と銀髪の品の良さそうな女の人に大柄で髪を編んだ男の人、あと小さな女の子の四人組だって」

「……大道芸人か何かか?」

「さぁ……?」


 組み合わせが異質すぎる。まるでまとまりがない。

 男二人に女だったらまだ許容できたが、少女が付いてきたとなれば予想のつきようがない。


「そんなの方々とは……?」

「お知り合いなわけねぇだろ、んな愉快な集団」


 吐き捨てるように言いながらロキは音を立ててコーヒーを啜った。


「あ、あとその人たち黒髪の男の人と女の人、帯剣してたって」


 エルナの言葉にロキは口に含んだコーヒーを吹き出した。


「うわっ、ちょっと汚いわよ」

「いやいやいや、んだよ帯剣って! 面倒臭さ跳ね上がったじゃねぇか、ざけんじゃねぇ!」


 今の時代、剣を所持する人間は極めて少ない。


 それを咎める法律は無いが、平和な世になってわざわざ剣を持つ必要も意味もない。


 それこそ国に所属する兵士や騎士、傭兵ギルドや冒険者ギルドに所属する剣士。

 あとはチンピラや盗賊と言ったならず者ばかりだ。


 そういった認識のため、剣を差している者には基本的に近づかないのが鉄則だ。

 どちらにせよ面倒なことには変わりはない。


「おい、エルナ! もしその連中が来てもオレのこと絶対に話すんじゃねぇぞ! むしろこの街にはいねぇっつっとけ!」

「どんだけ必死なのよ……。はいはい、わかりましたよー」


 洗い物が終わり、エプロンを片付けながらエルナはため息混じりに返事をする。

 店主にキッチンを使わせてもらった礼をしっかりと言い、代わりにと店主が淹れたコーヒーを受け取りロキの隣に腰掛ける。


「ありがとうございます。無理言ってキッチン借りたのに、コーヒーまで」

「いやなに、ランチタイムに手伝ってもらったんだ。これぐらいの報酬がなくちゃこっちが申し訳ない」


 店主はそう言いながら朗らかに微笑んだ。


「何だ、店の手伝いもしてたのかよ?」

「そりゃそうよ、タダで使わせてくれなんて図々しい真似できないわよ」


 エルナはさも当然と言わんばかりに肩を竦めた。

 淹れたばかりのコーヒーのカップを両手で持ち、恐る恐る口をつける。

 小さい声で「あちち」と呟きながらコーヒーを啜る姿がしっかりとした性格の普段のエルナとは違って幼く見えるのが面白い。


「あんま口出すつもりはねぇが、他人の世話焼きすぎだぜ? 少しはテメェの幸せってモンを考えろよ」

「生活能力のないロキに言われたくありませーん」


 それを言われたらぐうの音も出ないのだが、それでもやはりエルナは少々お節介が過ぎる気がする。

 大方ロキの食事のことも、ランチタイムで賑わっていたこの店を見かねて強引に手伝うための言い訳に使ったのだろう。


 エルナには自分の幸せというものをちゃんと考えて欲しい。

 自分のことを考えろと言ったのは紛れもないロキの本心だった。


 しかしこの言い合いも一度や二度ではない。

 これ以上言っても水掛け論になると踏んだロキは、やや冷めた残り少ないコーヒーをカップを回して渦を作って眺めていた。


 そんな昼下がりの店の外から甲高い声が近づいてくるのに気がつく。


「ロキさんロキさんロキさーん! お客さんだぜ!」


 その声は店の入口を通りすぎ、ロキの部屋につながる階段をけたたましい音を響かせながら駆け上がっていく。


「ロキさーん毎度でーっす! ご無沙汰してまーっす! ってあれっ、いねぇっ! ロキさんどこだー? 仕事かー?」


 あまり気持ちのいい仕事ではなかったが、今日エルナが仕事を寄越してきて本当に良かったと思った。


 たった一人で三人分位の騒がしさで、がやがやという擬音を背負って生きているような存在が部屋で寛いでいる時に突撃されていたら、その日一日が最悪な気分で終わっていただろう。


 その声の主は騒音を止ますことなく階段を駆け降り今度はこの店に突撃してきた。


「ちわーっす! サーセン、マスター! ロキさんいませんか? あ、いた! ラッキィー!」


 扉を破壊するのではないこというほどの勢いで開け放ったのは、褐色の肌の少年だった。

 その少年はロキを見つけるやいなや、カウンターに駆け寄ってきた。


 こいつは犬に似てるよな、と思いながらロキは褐色肌の少年を見下ろした。


「いやぁーここにいたんスね! 仕事だったら面倒くせェなぁって思ってたんで良かったっす!

 あ、ご無沙汰してます、ボボです! ってあだだだだ! なんすかなんすか? 俺なんかしました?」


 目の前まで来て全く声のボリュームを下げようとしない少年に腹が立ち、

 ロキはボボと名乗った少年の頭を掴み左右のこめかみを絞めあげた。


「ボボ、テメェに黙れとはもう言わねぇ。けど流石に程度ってもんを覚えろや。テメェのキンキンした声頭に響くんだよ」


 以前に軽い二日酔いで部屋で惰眠を貪っていた際、今回のように騒がしい訪問をしたときは一瞬にしてロキの堪忍袋の緒が切れ、気がついたときにはボボを階段から叩き落としていた。


「えー? んなこと言ったって人には出来ることと出来ないことがあるんすよ! そうゆう意味ではおれがこのテンションを下げるのは無理という話なんす! 逆に言えば凄くないすか? いつでもこのテンション維持できるんですよ? これはもはや才能と言っても過言じゃないっすよ!」


 確かにボボのやかましさはある種の才能を感じる。

 ここまで人の神経を逆撫でさせるのは天賦の才をもってしないと無理だろうとロキは締め上げる手に力を入れて思っていた。


「テメェそんなナリだが、十六だろ? 少しは大人の落ち着きってもんを覚えろよ」


 ボボは見た目こそは少年にしか見えないが、正真正銘十六年間生きて成人した男性だ。

 それでも彼が少年の姿にしか見えないのは小人族の血がさせることだった。


 ボボはこの街のにたまたま流れ着いた小人族の女性が産んだ子供で、以来十六年間この街で暮らしている。

 成人しても少年にしか見えない姿は小人族の典型的な外見だ。


 小人族はどれだけ大きくても普通の成人男性の三分の二程度までしか成長しない。


「はい! 恥ずかしながら今年で十七になります!」

「頼むからもっと恥ずかしがれや……」


 まるで反省の色が見えないボボに対しロキは頭を抱える。

 そんなロキに「なんかわかんないすけど、お疲れっす」とボボは全く空気を読まない発言をしてロキはとうとうボボの頭から手を離し、代わりに自分の頭を抱えた。


「ねぇ、ボボ。さっきお客さんとか言ってたけど……?」

「あ、エルナさん! ちわーっす! そうなんス!街でロキさんを探してるっていう旅の人がいたんで連れてきたんス!」


 ボボの発言にロキは一気に嫌な予感が胸に押し寄せてきた。


「おいボボ、それは黒髪の男と銀髪の女と大柄の男にガキの四人組か……?」

「ええっ! なんでわかったんすか!? ロキさん未来が見えるんすか? もしかしてそうゆう魔法覚えたんすか? いいなぁ〜、今度おれの未来見てくださいよぉ〜」


 とんでもないことをしてくれた。


 ロキはとうとう本格的に頭を抱えてカウンターに突っ伏した。

 横のエルナも先程のロキとボボのやり取りを他人事に眺めていたが、流石に「うわぁ……」と同情の声を絞り出していた。


 はっきり言ってボボは頭が悪い。


 深く物事は考えられないし、十聞いてせいぜい二か三位しか理解できない。

 そのくせやたらと素直で、頼まれたことは二つ返事で了承してしまう。


 今は簡単な運び屋のような仕事をしているが、というよりそれくらいの仕事しかできないのだが、

 以前は依頼主にはぐらかされ料金を簡単に踏み倒されたりというのはしょっちゅうで違法薬物の配達も中身をごまかされて運んだこともあった。


 このようにトラブルをトラブルと理解せずに、性懲りもなく面倒事を呼び込む性質を持つ少年なのだ。

 ロキもそういったトラブルの対処もされてきたのである程度の事は覚悟してボボと付き合っている。


 しかしとうとうロキ本人にトラブルを運んできてしまった。

 いつからお前はそんな荷物まで扱うようになったんだと内心毒づきながらゆったりとカウンターから顔を上げた。


「お前よぉ、そいつらが怪しいとか思わなかったのか……?」

「まぁ、剣持ってて珍しいなーとは思ったスけど、でも銀髪の女の人とかめっちゃ美人なんすよ! しかもめっっちゃ巨乳っす! この街の娼婦でもあれだけのおっぱい持ってる人なかなかいねぇーっすよ!」


 ボボも見た目と違って思春期真っ盛りなのだ、ボボの話を聞きながらだったらこいつはホイホイ言うこと聞くだろうなと思った。


「それに小さい女の子に手握られて『お願い』なんて言われたら断れねぇっすよ……」

「ガキに欲情してんじゃねぇよ!」


 頬を淡く染めながら恥ずかしそうにしているボボの頭にロキは拳を叩き落とした。


 いつからこのガキは純情少年になったんだ。

 この街で生活していれば娼婦とすれ違うことは多いし、ボロボロの布切れを纏った裸同然の少女を見ることだって少なくない。

 そんな中でこんな清い感情を持っているとは思いもしなかった。


「いっでぇえ〜……。いやいや、可愛い女の子にお願いされたら別にいいかってなっちゃったんすよぉ。ロキさんもあるでしょ、そうゆうこと?」

「ねぇよ! テメェと一緒にすんな!」

「あのさぁ……、どうでもいいけど待たせてるんじゃないの? いいの行かなくて?」

「テメェ、エルナ。人ごとだと思いやがって……」


 いい加減飽きたのだろう横からエルナが話を進めようと言葉を挟んできた。

 ロキはいつの間にかボボのペースに乗ってしまっていたことに気が付き余計に腹が立った。


「そうだ、ロキさん行きましょう! 大丈夫っす、きっと悪い人たちじゃねぇっす!」


 ロキはボボのその認識が信じられず、どうにか逃げられないかと算段をつけていた。

 すると店の扉がおもむろに開き、幼くてボボのとは少し違う姦しい声が聞こえてくる。


「もー! いつまで待たせるのー! マーチークータービーレーター!」


 まさか向こうから攻め込んでくるとは。


 こうなったら早々に話をつけよう。

 例え本当にお礼参りだったとしてもそれはそれで話が早い。


 しかしこの店で立ち回るのは気が引ける。

 どうにかこの店から移動してもらうかと考えてロキは入口に顔を向けた。


「ちょ、ちょっとヒカリちゃん。ダメでしょ、お店の人にご迷惑が掛かるわよ……」


 入口には七、八歳程の黒い髪を腰まで伸ばした少女と、後ろに保護者のように少女を諌める銀髪の女性がいた。


 銀髪の女性はまるで絹糸のような細くしなやかな髪を翻し、この街では到底手に入らない上質な生地の服を来た お嬢様という言葉が似合う美しい女性だった。その分腰から下げたロングソードがやけに浮いて見えた。

 そしてボボの言った通りの艶かしい体型の持ち主だった。


 これはボボじゃなくてもヤられるなと思い銀髪の女性を眺めていると、二人の後ろから細身の剣を腰に差した長身の男性が現れた。


 その男を見てロキは固まった。


 その青年は見覚えがあった。

 黒い短髪。

 鋭い眼差しの奥から覗き込む血の色の瞳。


 自分の記憶の中より成長しているが、特徴的な見た目と研いだ刃物のような雰囲気は全く変わらない。


「テメェ、……ギルバート、か?」

「久しぶりだな、ロキ」


 むき出しの剣そのもののような雰囲気を持つ青年の名をロキが呟き、青年も口の端を少し上げ答えた。




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