新たな場所へ
「……なんとかなったな」
レンディア軍の部隊が居なくなるとやっと一息付けるようになった、ついでに二人の文句も無くなった
「みなさん大丈夫ですか?」
いつの間にかエリアさんが傍に居た、きっと音が静かになったから出て来たのだろう
「ちょ…エリア、もし敵がいたらどうするのよ」
麗奈がエリアさんの心配をする、確かにもうここには敵はいないだろうけど、仮に敵がいたら危ない所だ
「大丈夫ですよ~みなさんがいますから」
そう言いながらエリアさんは微笑んだ、今さっきまで命の奪い合いをしていたというのに、この人の顔を見るだけで落ち着いてくる、やっぱり平和が一番だ
「というより、英樹さん大丈夫ですか?服ボロボロですよ?」
そういえば、吹き飛ばされた時に服がボロボロになっていたのだった、完全に忘れていた、というかあの時はそんな余裕なかった
「あー…うん、大丈夫…気にしないで」
そう言うと、エリアさんは若干納得のいかない表情をしながら頷いた
「では、一旦私の家に戻りましょう…争いは疲れたり傷ついたりしますから」
そう言われて俺達はエリアさんの家に戻った
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家に戻ると、四人は崩れるようにソファーや椅子にもたれた、やはり相当疲労が溜まっていたのだろう、彼らはこの村とはなんの関係も無いのにこの村を守るために戦い傷ついたりした、四人は死ぬかもしれないというのに相手の命を奪うことはなく兵士達みんなを生かした、私より若いのにすごい人達だ
「……エリア…おなか減ったよー」
麗奈がぐったりしながら言った、私はクスクスと笑うと感謝と労いもかねていつもより豪華な料理を作ってあげた
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全員が食べ終わった皿を片付けるといつの間にか英樹さんだけが部屋に残っていた
「あれ?他のみなさんは?」
「麗奈は風呂、諒と有希は一足先に客間で休んでるよ」
あれだけの兵士を相手にしていたのでもう休むのは当たり前だろう、逆に休んでない英樹さんとお風呂に入っている麗奈はすごい
「英樹さんは休まないのですか?」
私がそう聞くと、英樹さんは苦笑いを浮かべながら
「いや…正直これからのことを考えないとね……いつまでもここで立ち止まっているわけにはいけないから」
そう言い、テーブルに広げてある地図を再び見た
これはこの世界の地図で英樹さん達四人は別の世界から来たということらしい
さすがに最初はびっくりしたが、嘘をついているようには見えなかった
「…そしたら、隣のルティアナ国に行ってみたらどうです?」
私は彼の隣に座って地図をのぞき込んだ、そして、ルティアナと呼ばれる国がある所に指を当てた
「ルティアナ?」
「はい、この世界は5つの大国があって、争いを好むレンディア、バハムートの2国、平和を願うルティアナ、ハルメードの2国、両方に属さないレアルークの1国の5大国があるのです」
「両方に属さないって?」
「レアルークのことは私もよく分からないのです、世界の中心にあるのですが…ルティアナやハルメードが救援要請をしても動かないし、レンディアやバハムートとも手を結んでない……一応中立国という感じなんです」
「なるほどね……じゃあ、そのルティアナに諒と麗奈を向かわせよう」
「…?…えっと、英樹さんと有希ちゃんは?」
「有希はこの村に残しておく、もし何かあったら大変だからな」
「そしたら、英樹さんは一体…?」
そう聞くと彼は私の目の前の国を指さしながら
「このバハムート国に行ってみる」
さも当たり前のように言った、あり得ない、この人は話を聞いていたのだろうか、レンディアと同じように争いを好み人を殺すことにためらいの無い人々が住んでいる国だ、いくらなんでも死んでしまう
「冗談言わないでください!!英樹さん死ぬ気ですか!?」
「…エリアさん、この世界の戦争を止めるには、必ず行かないといけない場所なんだ、なら、行くなら俺だけでいい」
私の目の前にある彼の顔は真剣で、そして、揺るぎない意思があった
「……ダメですよ…他の人達はどうするのですか……英樹さんが死んだら……」
「俺は死なない……ううん…死ねないから、元の世界に戻るために」
「……英樹さん…」
彼にはもう私の意見は届かなかった、私に彼を止める権利は無い、そして、彼を止められるほどの力は無い……逃げたり隠れたりする私達とは違い、目の前のことに一生懸命抗い、自分達の力で乗り越えていく、私は彼の言葉を信じるしかない
「…絶対に…死なないでくださいね……」
「あぁ…死なないよ」
私は彼を見つめた、まるで戦場に行く彼氏を心配するかのように、彼も私を見つめた、私達は黙って見つめ合っていた
「……ん、んんっ!!」
すると後ろから咳払いが聞こえた、私達は少し焦りながら距離を取った
「ごめんなさいね?お邪魔して…英樹くん、お風呂!空いたから!入って良いわよ!!」
そこにいたのは目が笑っていない笑みを浮かべた麗奈が立っていた、何やら禍々しいオーラが見えるのは私の気のせいだろうか
「あ……あぁ…すまないな麗奈…」
若干苦笑いを浮かべながら彼はお風呂場に向かった
「……そうだ、何か飲みます?」
隣に座った彼女に私は飲み物を持ってこようと立ち上がった
「えぇ……ありがとう、エリア」
彼女は頷きながら応えた、しかし、今さっきとは違う表情をしていた
「はい、どうぞ……麗奈、どうしました?」
「……別に…」
あからさまに元気がなくなっている、心配だ
「…あっ!だ…大丈夫ですよ、キスとかしてませんから!!」
「……は?別にエリアと英樹がキスしようがイチャイチャしようが私には関係ないわよ…」
「で…でも、いつもの元気がない気が……」
「気にしないでよ!別に普通だか……っ!?」
彼女は声を荒げながら言うと、いきなり彼女の頭の上に手が置かれた
「麗奈、エリアさんに当たるな」
「ひ…英樹…」
麗奈の顔が一気に真っ赤になった、恥じらいなのかそれとも別の何かなのだろうか
「あ…当たってないわよ、それより…あの話、本当なの?」
「あの話?」
「これよ、これ」
彼女は地図を指差した、もしかして、元気が無かった理由は、それだったのだろうか
「あぁ、そうだよ…麗奈と諒はルティアナに有希は村の守りを、俺はバハムートに行く」
私と話して決めたことを麗奈に言った、彼女はため息交じりで
「バカじゃないの?普通自分達がいた世界じゃないのに……こんな危険な世界で一人危ない所に行くなんて…」
「危ないから一人で行くんだよ」
「なによそれ…私達が足手まといだから?」
彼女は涙目で英樹さんの顔を見ていた、本当に心配しているのだろう、彼の決めたことは正直危険すぎる、だが、彼は普段と同じ優しい声で
「違う、こんな危険な所に麗奈達を連れていくわけには行かないから」
そう言った、危険な所に行くのは俺だけでいい、彼はそう言っていた、足手まといとかではなく、他の三人を守るために一人で戦うという感じだ
「それなら、私も行く…危険じゃないなら諒一人でも……」
「ダメだ、諒を引っ張っていく人が必要だ、あいつは頭は良いけど、一人でなんでも背負いこむ癖がある」
「でも…」
「それとも、麗奈は俺が信用出来ないのか?」
「……ううん」
私は完全に蚊帳の外だった、しかし、最後の質問はせこい気がする、あんなこと言われたら頷けない、というより、一人で背負いこむ癖は英樹さんも一緒だと思う
「大丈夫ですよ、英樹さんは」
「あぁ、こんなことで死んでられないからな」
私と彼は笑顔で麗奈を見た
「……なによ、二人して………分かったわよ、諒のことは任せといて、でも、しばらく会えないのよね?」
「まぁ、反対方向だしな」
ルティアナとバハムートは正反対の場所にある、バハムートに行くにはレンディア大陸を横断するしかない、もし、また奴らにあったら戦闘になるだろう
「じゃあ…少しだけ……」
麗奈はそう言うと、私の前で英樹さんに抱き付いた、本当に私は蚊帳の外なのかな……人の目を気にしないのかな?
「エリアさんが見てる」
「いいの……だってエリアだって英樹と見つめ合ってた」
なんだろう、元気なムードメーカーというイメージが180度回転して甘えん坊の少女になってしまっている、いや、麗奈も女の子だもんね、けど、なんか悔しい
「私お邪魔なら向こうに行ってますが?」
「あはは……大丈夫だよ、すぐ離れると思うから」
「…エリア、独り占め…させないから」
その言葉にさすがの私もなにかに触発された、麗奈がその気なら私だって負けるわけにはいかない
「むぅ…麗奈だって独り占めしてるじゃないですか」
そう言って私は反対側から英樹さんに抱き付いた
「ちょ……エリアさん!?」
「なっ!?エリア!!」
英樹さんと麗奈が焦ってる、私だってやるときはやるんです、攻めるときは攻めますもの
「こうすれば、両方独り占めしてないですよね」
「いやいや、これは……」
「……そうね、やっぱりエリアは良いライバルになりそうね」
「どういう意味なんだよ……」
そうしてしばらくこの状態が続いたのであった
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「……やっぱりこうなるわけですね」
昨日に引き続き俺の両腕には少女が一人ずつ抱き付いている、今回は両方発育の良い少女達です
結局あの後寝るまで離してもらえず、寝てからも離してもらえなかった、辛い…動けないのは非常に辛い
「英樹…」
右の少女…麗奈がモゾモゾしながら寝言を言っている、あまり動かないでほしい、身体に良くない感触があるから、というか、両方からその感触があるのは本当に身体に良くない
『コンコン』
「入りますよー……って、やっぱりか」
扉が開くとデジャブがおきる、諒が溜息をつきながら入ってくる
「英樹…今度はエリアさんまでも…いや、いいと思うよ」
「おい…納得して出ようとするな、頼むから助けてくれ」
「いやだ、そんな天国は今しか味わえ…」
「アホか、そんな暇あるか」
そんな冗談をいいながら諒は二人を起こした、二人は目を擦りながら起きた
「もう…せっかく寝てたのに」
「ん…んん~……おはようございます」
一人は文句を言いながら、もう一人は天使のような笑みを浮かべながらベッドの上に座っていた、まぁ、どちらがどちらかはご想像にお任せします
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そして、朝食を食べると昨日考えたことをみんなに話した
エリアさんと麗奈は昨日話したから特に何も言わなかった、有希も少し考えて納得したように頷いた、諒もしばらく考えて、それがベストだと言い賛成してくれた、そうして俺達は別々の道を進むことになった、お互いがお互いを信じながら