絶体絶命
後半八分経過、残り6名。
各チーム獲得点数。
1位チーム風紀14点(内訳:相手選手4人撃破+相手球5個撃破=1点×4+2点×5)
2位チーム壇ノ浦12点(内訳:相手選手2人撃破+相手球5個撃破=1点×2+2点×5)
3位チーム九十九10点(内訳:相手選手4人撃破+相手球3個撃破=1点×4+2点×3)
4位チーム上妃4点(内訳:相手選手4人撃破=1点×4)
漆治大亜駆は、チーム戦が嫌いだ。理由は勿論、自分がどれだけ点を取っても、味方が弱ければ勝つことができないから。
だがそれでも、漆治が未だにチーム戦に出続けているのは、どうしても倒したい選手がいるからだ。
それにチーム戦でろくな成績も残せずに個人戦一本に絞ってしまったら、それは逃げだ。自分が納得できない。
だから今年――もしくは春の選抜、九十九学園のオールスターチームで全国大会に出場し、好結果を残すのだ。なに、荒晚や聖マドレーヌに勝てる実力があれば、全国でも決勝戦まで勝ち進めるだろうと、漆治は考える。
「ハァ……」
漆治はその兜の下で喜悦の笑みを浮かべる。屋島と勇美の攻撃を受けて戦死が確定した状況でも、その戦意は衰えるどころかむしろ増幅していた。
屋島の制御を離れた球を剛羽より多く割り、剛羽を道連れにする。
先程戦死させた銃使いの少女の弾丸を受けたからか、《心力》を練ることができない。が、銃撃される前に出力していた《心力》があれば、戦死するまで十分戦い抜ける。
漆治は落下してきた緑鳥に襲い掛かった。
『チーム風紀、ここで全滅!! 現在のスコアでは首位ですが、残り二分でどうなるか!? あとは神に祈るしかない!!』
落下してきた緑鳥は全部で四〇羽。その内、一〇羽は偽球だ。
どれが本物でどれが偽物なのか、残念ながら剛羽と漆治には判別することができない。しかし、そんな必要はない。
お互い、競争相手が自分と同じく感知系の能力者でないことは分かっている。
であれば、相手より一秒でも速く!! 一個でも多く!! 狩るだけだ!!
屋島が退場しているため、球に付与された《心力》打ち消し能力は解除されているので、恐れることは何もない。
それぞれの武器を最速で振り、乱獲していく剛羽と漆治。
球を壊していく速度はほぼ同じ。そして狩りが始まってから1、2秒経過したところで、両チームの得点が動く。
――チーム上妃、2得点(内訳:相手球1個破壊=2点×1)合計、6点
――チーム九十九、2得点(内訳:相手球1個破壊=2点×1)合計、12点
しかし、本物を十羽ずつ仕留めた剛羽と漆治が次の球に手を出した瞬間、鋭く空を引き裂く音とともに、二人の下半身を強烈な痛みが駆け抜けた。
《心力》を打ち消す無数のニードルが緑鳥のはらわたから飛び出し、ハンターたちを撃ち抜いたのだ……!?
『炸裂弾!! 屋島選手の置き土産だ!!』
『本物の中に仕掛けてたかぁ~。ヤクシーは、自分たちが全滅する展開も予想してたんだね』
『しかし、一歩及ばず!! 蓮選手と漆治選手を戦死させるまでには至らなかった!!』
『マッシーとだーちゃんの反応がよかったからね――でも、二人とも脚をやられた。これで動きが鈍るよ。チーム風紀は、このまま逃げ切りを狙うつもりだね』
『蓮選手、漆治選手、太腿や膝周りに爆発によって飛び散った無数の針が突き刺さっている!! 続行できるか!?』
「関係ない!!」「関係ねーよ!!」
無数の針弾を食らっても痛がる素振りすら見せない二人は、鬼の形相で残りの緑鳥たちを駆り尽くす。そして、得点は――
『――同数!! 蓮選手、漆治選手、仲良く一五羽ずつ壊しました!! この場合は……?』
『ヤクシーは球一個を一〇分割してたから、普通は一〇個壊して初めて得点として認められるんだけど、五個ずつ壊し合ったなら両チームに一点ずつだね』
――チーム上妃、1得点(内訳:相手球1/2個破壊=2点×1/2)合計、7点
――チーム九十九、1得点(内訳:相手球1/2個破壊=2点×1/2)合計、13点
「蓮ぉおおおおお!!」
そして球割りが終わって息付く暇もなく、次の戦闘が始まった。
剛羽と漆治は至近距離で激しく斬り結ぶ。
短く明滅を繰り返す黒白の閃光。裂帛の気合いと、耳をつんざく斬撃音。
押しているのは漆治だ。
制限時間が迫っているためやや強引だが、後先を考えない無茶苦茶な出力をバスターソードに乗せ、ガンガン押し込んでくる。
対して、剛羽は逃げることなく撃ち合いに身を委ねる。屋島のトラップで脚をやられて満足に動けないから――ではない。
チームのエースとして、ここで相手に背を向けるわけにはいかないからだ。
(出力強化(クレスト=ブースト)!!)
《心核》の《心力》供給速度を上げ、両手の小刀に莫大な《心力》を送り込む。
そして、瞬間的な力の高まりにより白い光を迸らせた小刀を、剛羽は漆治に叩き込んだ!!
剛羽の中で最大威力の攻撃。正々堂々と真正面から相手を叩き伏せる斬撃。
しかし、振り抜かれた小刀は、漆治の鎧を斬り砕いたところで勢いと威力を失う。
(三倍減速(クレスト=トリプル)!!)
しかし、剛羽はそこで止まらない。
最大威力がダメなら《速度合成》だと、今度は漆治の動きを減速させようとする。が、間一髪のところで避けられてしまう。漆治はこの状況でも冷静沈着そのものだ。
しかし、剛羽はまだ止まらない。
相手を減速させられないのなら、自分が加速すればいい!!
(二倍加速(クレスト=ダブル)!!)
剛羽は一瞬で漆治の背後を取った。
視界に映ったのは、鎧にすら覆われていないがら空きの――勇美の《貫槍》によって穴の開いた――背中。
玲の《封殺弾》を受けて《心力》を練れなくなった漆治は、剛羽に出力強化された小刀で鎧を砕かれたため、もう鎧で全身を満遍なく守ることはできないのだ。
急所を見抜いていた剛羽は、容赦なく小刀を突き立てる。が、
「ッ!?」「もう忘れちまったのか? てめーの個心技はオレに通用しねーんだよ!!」
浅く刺さったところで、それ以上押し込むことができなくなった。
原因は、漆治の装着している黒鎧。
一瞬前まで身体の前面に展開されていたそれを、漆治は剛羽が掻き消えた瞬間に背後に移動させたのだ。
剛羽は鎧に突き刺さって抜けなくなった小刀を放棄し、すぐさま離脱しようとするが、
「――てめーの影、頂くぜ」
漆治がバスターソードを剛羽の影に突き立てると、剛羽から斬り離された影が漆治の足元を這い上って全身を覆う鎧となる。
玲の《封殺弾》では、漆治が体内で《心力》を練ることは封じることができても、影を《心力》に置換する能力は封じることはできないのだ。
しまったと顔を歪める剛羽。それは決して相手に《心力》を充填されたからではない。問題なのは自分の影を奪われたことだ。
剛羽は小刀を錬成し直し、すぐさま斬り掛かる。が、漆治の鎧に触れた瞬間、小刀はぴたりとその動きを止めた。まるで衝撃を完全に吸収されたような感覚。だが、剛羽はまったく驚く素振りを見せない。
「おい、オレの個心技、忘れたわけじゃねーだろ?」
「ああ……一応試してみただけだ」
闘王学園時代、何度も漆治の個心技を観てきたのだ。忘れるはずがない。
そう、漆治に影を取られた剛羽は――もう漆治にダメージを与えることができないのだ。
より正確には、奪った影でつくったものを奪われた本人は傷付けることができない、だが。
とはいえ、結局は同じこと。
漆治は剛羽から奪った影で鎧をつくった。剛羽にその鎧を壊す手立てがない以上、漆治にダメージを与えることはできない。
剛羽にできることがあるとすれば、それは漆治が戦死するまで逃げ回ることだ。
「さあ、次はオレの番だぜ」
漆治は兜の下で、にやりと笑った。




