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砕球!! G2  作者: 河越横町
97/108

激動


(混ぜたな……!!)


 噴水を囲む石垣に叩き付けられた剛羽は、急変した漆治を見やる。

 元チームメイトの全身から噴き出している《心力》は基本四型のどれにも当てはまらないもの。つまり、漆治も剛羽と同じ異型なのだ。


 しかし、今の漆治から剛羽は二種類の《心力》を感じ取ることができた。

 一つは影から集めたもの、もう一つは漆治自身のものだ。

 

 放たれているのは、この試合中最大の出力。しかし、それは無理をしている証左でもあった。

 影を《心力》に変換できる能力をもつ漆治だが、本来、彼はそれを自分自身で練った《心力》と融合させて使うことができない。二つの力を合わせて武器などを錬成することはできないのだ。

 だから漆治がこの不安定な力を使うということは……。


(お前、ここで倒れるつもりか……!?)


 しかし、それは残った仲間に後を託すというわけではない。

 漆治はここで剛羽たち敵四選手と球三個を自分の力で粉砕し、試合を決めようとしているのだ。


 成功すれば一〇得点。

 そんな無茶を、勇美の《貫槍》を食らい戦死確実になった漆治は、本気でできると思っている。

 漆治大亜駆。ポジションは動手だが、彼の性質は生粋の点取り屋そのものだ。


(漆治……)


 敵ながらその覚悟に尊敬の念すら覚える剛羽だったが、闘王学園時代からまったく変わっていない元チームメイトに何とも言えない気持ちになる。

 とそこで、彼の無線通信機に着信があった。


【ここはあたしに任せな!!】


 相手の賛同し難いが恐ろしく強い信念に戦慄していた剛羽は、すぐ近くで片膝を付いたまま息を荒げていた玲に視線を送る。

 被弾は少ないが、《心力》を消耗し過ぎたことにより戦用復体中に亀裂が入った茶髪の少女は、にやりと笑った。





 守屋玲は練習をしないやつが嫌いだ。練習してないのに強い奴はもっと嫌い。そしてそんな腑抜けに勝てないのはもっともっと嫌だ。

 

 才能への嫉妬はある。が、才能がないなら、それを補うくらいに努力するだけだ。それが簡単じゃないことは分かっている。それでも、それしかないのなら、やるしかない。

 だから、玲は練習し続ける。自分がスーパースターではないことは分かっているから。

 

 とはいえ、砕球はチーム戦だ。最悪個人で勝てなくても、格上相手に粘って時間を稼ぐことでチームを勝たせられる。それができるくらいには強くなろう……と思っていたが、今は少し違う。

 

 ――才能ある選手にも勝ちたい。

 一対一に拘るわけではないが、自分で仕留めるつもりで戦う。そういう気持ちをもつことで、練習の質がぐっと上がるのだ、

 これも初心者同然の耀や《最弱》と蔑称された誠人のおかげだと、玲は思う。彼らの姿に感化されたのだ。

 

 久しぶりの追われる感覚。耀にはもう追い抜かれてしまったかもしれないが、自分も負けていられないと強く思った。

 

 思えば、チーム九十九を追われてから約一年間、自分はあの優し過ぎる先輩を心配させまいという気持ちも抱えて練習していた。九十九学園に残ったことに後悔はないと、心配なんかしてくれなくていいと、示すために。


 しかし、多分あの先輩は自分のそういう選手として停滞しかねない考えを心配していたのかもしれない。春の入部試験で九十九に言われたことは、的を射ていた。

 いつもにこにこしている先輩。

 無理して笑っているのがすぐに分かるくらい、嘘の下手な先輩。

 年上なのに結構我が儘なところもある先輩。

 自分はそんな先輩のために練習してきた。が、今はそれだけではないと言い切れる。


 この一年と三ヶ月、。最初はあの先輩のために、途中からはもっと強くなるために、積んで積んで積んできたのだ。

 九十九学園に残って正解だったのかは分からない。余所に移っていたら、もっと成長できていたかもしれない。

 しかし、ここに残ったことで、自分の力であの先輩を喜ばせるチャンスを得たのだ。チーム上妃の一員として成長することができたのだ。

 

 ――だから今は結果が欲しい。練習しただけで満足などできない。


(ゆうさん、みんな、まずは九十九学園ここの天辺取ろうぜ!!)


【ここはあたしに任せな!!】





【……勇美さん】


【はい、私もそのつもりです】


【では、行きましょうか】


 一方、チーム風紀の二人も、玲と剛羽が動き出すと同時に突撃した。勇美も屋島も、自分がもう戦死することを分かっているからだ。

 ここで何もせずに逃げて戦死するよりも、玉砕覚悟で点を獲りに行く。

 二人は仕留められる可能性が高い玲を狙った。


「守矢!?」「行かせるものかッ!!」


 勇美を迎撃しながら叫ぶ剛羽。

 玲に迫る屋島を後退させようとするが、決死の覚悟で向かってきた勇美に足止めされてしまう。

 

 しかし、緑鳥を従えた屋島がすぐそこまで来ている中、玲は漆治だけを観ていた。

 ありったけの《心力》を構えた突撃銃に集める。

 そして力の立ち上がりを感じた瞬間――緑鳥が主の盾となったマイヤーズを食い殺した瞬間――突撃銃の銃口が紫炎を噴いた。


「《封殺弾フォースアウト》!!」


《封殺弾》。銃撃された相手は《心力》を練れなくなる。

 剛羽の《速度合成》によって加速した弾丸が、チーム風紀の二人と同様に突撃してきた漆治に直撃。

 それを確認した玲は、マイヤーズを粉砕した屋島をすぐさま迎撃しようとするが、


「こちらの方が速いです!!」


 もの凄い勢いで飛来してきた緑鳥たちに、銃ごと穿たれる。

 しかし戦死する直前、玲は止めを刺しに接近してきた屋島に一矢報いる!!


「――ぁ」


「へへ……女子がスカート穿いてたら、なにか隠してあるもんすよ、屋島先輩!!」


「勉強になります」


 玲が太腿に巻いてあったベルトから抜いたサバイバルナイフに《心核》を貫かれ、爆砕する屋島。


 ――チーム上妃、1得点(内訳:相手選手1人撃破=1点×1)合計3点


【あと、は……頼んだ……ぜ、こう……は】


 続けざまに、突進してきた漆治に吹き飛ばされた玲が、剛羽に斬り伏せられた勇美が爆砕する。


 ――チーム九十九、1得点(内訳:相手選手1人撃破=1点×1)合計10点


 ――チーム上妃、1得点(内訳:相手選手1人撃破=1点×1)合計4点


 そしてこれは俺のものだと、屋島が戦死したことで地面に落下してきた球に、剛羽と漆治が食い付いた……!!


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