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砕球!! G2  作者: 河越横町
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削り合い


 どうやら都市部のほうでも戦いが始まったらしい。

 勇美が橋を通過するまで身を隠し、今さっき橋を渡り終えたばかりの誠人は身体を引き摺るようにしながら歩を進めていた。その足取りには、どこか焦りがあるように見受けられる。


(……持ってくれよ)


 戦用復体に目を落とす誠人。それが急ぐ理由の一つ。

《心素》の漏出こそ治まったが、猪勢の大槌を破壊するために補助武器庫に引き出させていた《心力》――体内の八割以上の《心力》――をほとんど使ってしまったため、いつ戦死するか分からない状態だ。

 この場合の八割というのはあくまで誠人でも引き出せる範囲内のことであって、普段使われていない《心力》は含まれていない。が、奥底に眠る《心力》など転身系でもなければ特殊な個心技使いでもない誠人には関係のない話だ。

 

 そして誠人が急ぐもう一つの理由は、チーム上妃の生命線とも言える残り一個の球のためだ。優那を失ったチーム上妃には球操手をできる選手はいない。一応誠人と玲には適性があるが、どちらも初心者レベルだ。

 現在優那に代わって球を守っているのは、このチームで最も信頼されている剛羽だが、乱戦になれば何が起きるか分からない。偶然でも球を割られてしまったら、その瞬間チームに上妃の敗退は決定的なものとなってしまうのだ。

 まさか今頃になって他三チームに不正があったなどという展開にはならないだろう。


(動け、動け……ッ!!)


 そう強く念じた誠人は家壁を伝うようにしながら街中を進んでいく。が、


【誠人先輩!!】


【……蓮妹、大丈夫だ。ちゃんと見えてる。目を疑ってる】


「ふ、ふふふ……何でこんな時に」


 自分を取り囲むように現れたメタリックな体表をもつ山伏の分身たちを前に、誠人は苦笑した。

 このまま自然と戦死すればチーム風紀に得点が入るが、首位とこれ以上離されるのは避けたい。かと言って、ここで山伏分身に簡単にやられるわけにもいかない。自分が即死すれば、剛羽たちがさらに苦しい状況になるから。

 できるだけ粘って少しでも時間を稼ぐ。それがチームの勝利に繋がるのだ。

 生存本能を刺激されたのか、元気を取り戻した身体を目一杯動かす。

誠人の次の戦いが始まった。





 五人と二体による密集戦。

 剛羽が、玲が、マイヤーズが、ギャレットが、漆治が、勇美が、屋島が、それぞれの得物を存分に振るって争う。


 剛羽は漆治と斬り結んでいたが、数合刃を交えたところでふいに身体を捻った。目の前に現れる槍の矛先。相対していた漆治も緑鳥に襲われる。


 しかし、奇襲を仕掛けた勇美と屋島にも、すぐに銃弾の嵐が襲い掛かった。それをかわすと、今度は剛羽と漆治がお返しとばかりに挟撃してくる。


 噴水に陣取った玲、マイヤーズ、ギャレットの一人と二体は、それぞれの背中を合わせる形で陣を組み、剛羽の背中を、その腰に下げた球を狙う不届き者に弾丸を浴びせる。

 そんな邪魔な狙撃手たちを逸早く片付けようとする漆治やチーム風紀を、剛羽が横から飛び込んで牽制。所謂掃除屋を担う剛羽を狙った選手を、玲たちが銃撃する。

 

 カバーし合う剛羽と玲。目まぐるしく変化する選手の動向。

 剣戟と銃声、羽音、叫び声が連続する広場の石畳や、広場を囲むように建っている民家の壁に、もの凄い勢いで斬痕や銃痕が刻まれていく。

 小さくも落ち着きのある美しい広場は見る影もなく、目の前の敵だけに集中していたら、いきなり背中を斬り付けられるような戦場へとすっかり様変わりしていた。

 そんな一ミリの油断もできない緊迫した状況の中で、最初に崩れたのはチーム上妃だ。


【玲先ぱ――】


【――玲ちゃん先輩、後ろっす!!】


 その声に弾かれるように振り向くと、玲はギャレットの銃撃が温くなっていることに気付いた。分け与えた《心力》が枯渇してきたのだ。

 

 そしてその隙を見逃してくれるほど、相手は優しくない。

 弾幕が弱くなった側面から勇美が一気に噴水までの距離を詰め、棒高跳びでもするように槍を使って宙を舞い、槍を逆手に握り直して玲を串刺しにせんと落下してくる。が、


「ギャレット!?」


 盛大に上がった水柱の中で爆砕したのは、寸でのところで玲を突き飛ばし、主の身代わりとなったギャレットだ。


「――おい槍女、屋島のお世話はいーのかよ!!」


 と、玲を仕留めそこなった勇美を煽った漆治が、屋島に襲い掛かる。


「二羽!! 五羽!! 八羽!!」


『チーム九十九、漆治選手ぅ!! チーム風紀の球を次々と斬り落としていく!! しかし、これは一体どういうことだ!? ウイカさん、なぜ漆治選手のバスターソードは屋島選手に打ち消されないのでしょうか?』


 本来、屋島の操作する球には《心力》を打ち消す効果が付与されているため、彼女と同じ《心力》を打ち消す能力を持っていなければ球にダメージを与えることはできないが、


『ヤクシーも少しバテてきたね。ちょいちょい温存してるのかな』


 九十九との一対一での削り合い。レヴィアタンをぶつけるまでの間の巨人の捕縛。剛羽、漆治とのエース対決。

 その他の小さな被弾なども数えれば、ガス欠も止むを得ない。


『前半と後半の半分くらいまではずっと小鳥さんたちに《心力》使ってたけど、今はインターバルがあるみたいだね。だーちゃんはその休憩時間を見抜いたのかも』


「九羽!! 一〇羽――二点もらったぜ!!」


 緑鳥一〇羽を屠った漆治。

 ウイカの言う通り、漆治は屋島の《心力》が枯渇してきているのを、彼女の出力低下から見破っていた。そしてどのタイミングで緑鳥から打ち消し能力が消えるのかも。


 完全に出し抜いてやった。ざまあみろ――そして漆治はその目を見張った。

 点数が動いていない……!?


「――若いですね、漆治くん」


 割らせたのは偽球。こちらのインタバールを見破った相手を嵌めるための罠。そして、


「は……メス狐、がッ!?」「こんこん」


《心力》を打ち消す緑鳥が、影でつくられた鎧を食い破る。

 漆治は瞬時に多量の《心力》を鎧に流し込み防御力を上げたことで即死を免れたが、甚大なダメージを受けてしまったことに変わりない。

 漆治はすぐさま個心技を行使し、建物やその残骸から影を集め出す。地面を這いずる影が、漆治の足元に集まり吸い上げられていく。

 一刻も早く、《心力》を集めて回復しなければ戦死して――


「――《貫槍ゲイ・ボルグ》!!」


 瞬間、ぞぶっという生々しい音とともに、漆治の胸部を紫竜が貫通した。

 見れば、少し前まで玲に襲い掛かっていた勇美が槍を撃ち出したポーズを取っている。


「漆治、これはチーム戦だ――一人でなんでもできると思ったら死ぬぞ」


 言いながら、剛羽は勇美を袈裟掛けに斬り、玲とマイヤーズは今度こそ休憩時間に入った屋島に銃撃を浴びせ掛ける。

 漁夫の利。剛羽と玲が一瞬のチャンスをものにし、直接的にしろ間接的にしろ、相手三選手から直撃を奪った。

 ここで一気に決めると、剛羽と玲は負傷した相手に追い打ちを掛ける。が、


「まーしーろぉおおおおおおおおおおお!!」


 瞬間、漆治から放たれる漆黒の《心力オーラ》に、剛羽と玲、マイヤーズは吹っ飛ばされた。

 

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