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砕球!! G2  作者: 河越横町
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弱点

 後半五分経過、謁見の間にて。


「来るな来るな来るなぁあああああ!!」


 九十九は自身と海豚球ドルフィンボールを包み込むように大蛇の剣を展開し、黒いシェルターのような防壁に引き籠った。

 外からは耀の剣撃が、玲の弾丸の嵐が、勇美の槍突きが、間断なく襲い掛かる。


「竜胆さん、話が違うぞ!? ボクを裏切ったのか!?」


「……すいません」


「……ははは」九十九は黒繭の中で引きつった笑みを浮かべる。「いいのかい、竜胆さん? ボクの力がなきゃあ、あのじゃじゃ馬たちの飼育なんて――」


「――今までありがとうございました」


「……本気かい?」


「はい、今日からは私がマオとアズキを守ります。話はこの辺で切り上げましょう」


【あん、球の位置を教えてくれ】


 勇美はオペレーターの少女と連絡を取る。

 個心技《自克再生》を持つ九十九は、前半に屋島が試したように《心力》を打ち消す能力では倒し切ることができない。おそらく、《心力》を食らい、その流れを阻害する《槍弾幕ゲイ・ボルガ》でも仕留めることは不可能だろう。

 以上のことから、九十九義経を倒すことは自分にはできない。が、相手がただ引き籠っているだけなら打つ手はある。

 勇美は一旦攻撃を中止して半身になった。手にした白色の槍に蔓のように絡み付いた赤線が血管のように脈打つ。

《槍弾幕》を広範囲への攻撃と位置付けるなら、これから撃ち出すのは一点を狙う高威力の一撃。

 狙うは九十九自身ではなく、自律行動型の球――海豚球だ!!


「行くぞ、ゲイ・ボル――ッ!?」


 しかし、個心技を撃つ前に潰された。

 勇美は降り注いだ銃弾の雨から身を守るために後退する。室内中央部のぽっかりと開いた穴に落ちないように気を付ける。


 勇美の攻撃を寸前で摘み取ったのは玲だ。崩れ落ちた壁の残骸に陣取って、このフィールドを俯瞰している――勇美からすれば、この上なく邪魔な存在。

 だから、勇美は九十九への攻撃を中断したこのタイミングで玲を獲りに行く。

 先程巨人を倒したときと今とでは状況が違う。協調して九十九を倒す、3対1の関係ではない。1対1対2の状況だ。遠慮する理由はない。


 勇美は《心力》でつくった円盾に身を隠しながら、銃撃してくる玲に突っ込んでいく。

 対して、玲は勇美を十分に引き付けたところで、通常弾の威力を上げた。こちらの通常弾の威力が上がっていることは既に知られているかもしれないが、分かっていてもかわせない距離まで呼び込めば問題ない!! 盾で防ごうとしてもぶち抜ける!!


「なッ!?」「助かった、あん!!」


 しかし、渾身の一撃は勇美の背後へと消えていった。勇美がとんでもない反応速度で横にステップし、かわしてみせたのだ。

 両者の距離が一気に詰まる。勇美が玲を射程に捉える。


「「ッ!!」」


 勇美が突き出した槍を、玲はハンドガードで撥ね上げるようにして受け流す。が、そのまま踏み込んできた勇美に腹を蹴られて吹っ飛ばされる。

 ここで退場させてやると勇美は追撃しようとしたが、側面から九十九を攻撃していたはずの耀が斬り掛かってきた。振り下ろされた大剣に、円盾を斬り砕かれる。そして今度は、


【ひかり、目、閉じとけよ!!】【閉じたわ!!】


 玲が閃光弾を使い、謁見の間が白い光に埋め尽くされた。

 それに紛れて、発射された無数の銃弾が勇美の身体を穿つ。

 

 しかし、銃撃がヒットしたことに歓喜している場合ではない。

 耀、玲、勇美の三人は地面を這うように迫ってきた蛇のような剣を間一髪で回避する。


「ちょっと……今ので戦死してくれよ」


「やっと出てきやがったな、この引き籠り野郎」





 城館と都市部を繋ぐ橋の前にて。


「おらぁあああああ!!」


 猪勢は大槌を絶え間なく振り続ける。手数の多さで攻める。

 パワー自慢の彼がポリシーを曲げたのだ。

 しかしそれは同時に、猪勢が誠人相手に油断していないことを意味していた。


(手前が硬いってことはよく分かってんだよ……)


 誠人の戦用復体の頑丈さは入部試験で戦ったときに身を以って体験した。

本当はその鎧を砕くほどの絶大な威力のある攻撃をぶつけたいところだが、そんな攻撃が当たるほど相手は鈍間ではない。


 映像でも観たが、実際に戦ってみてはっきりと感じた。この眼鏡の少年の成長を。

 身体つきが春の入部試験のときと明らかに変わっている。こうして自分と近接戦闘ができるくらいには動きもよくなっている。

 相当な練習を積んできたのだろう――だが、それがどうした。積んできたのは、眼鏡の少年だけではない。


(手前の成長は認めてやるよ。でもな、それでも俺は勝つぜ。こんなところで足踏みなんかしてらんねえんだよ!!)


 対して、誠人は猪勢の攻撃を冷静に捌き、その大槌を弾き上げて相手に隙ができたところで反撃していた。


(手数は多いけど、攻撃は軽いな……)


 誠人は猪勢の大槌に注目する。そのサイズが、いつもより一回り小さい。

 手数を優先するために軽量化したということか。しかし、軽く速い攻撃は何度も当てなければ意味がない。

 そう何度も食らうものか――


「――ッ!?」


 瞬間、誠人は片手剣で大槌をガードするのを止めて、大きく後退する。

 得物を合わせてはいけないと、本能が叫んだのだ。


「どうなってんだよ、その勘のよさは?」


 誠人は再び猪勢の大槌を注視した。その得物から発せられる力の波――《心力》が強まっている。

 十分な《心力》を得物に流し込めば、それだけ威力が上がるのは当然のことだが――猪勢の大槌は何か違う。

 この違和感は何だと誠人は確かめようとするが、相手はそれを待ってくれない。

 誠人は鋭く振り抜かれた大槌を片手剣で受けようとせずに回避する。しかし、猪勢の攻撃はとにかく速い。体捌きだけでは連続回避など到底できず、数度目の回避で体勢が崩れたところで、誠人はやむを得ず片手剣で受け流そうとしたが――


「――ミスったな、達花。お前の長所ぶきは、ちゃんと理解してんだよ」


 猪勢が大槌で狙ったのは誠人――ではない。防御しようと差し出された片手剣の柄。補助武器庫そのものだ!!

 ビキビキビキと、耳障りな音が響く。


「なっ……!?」


「いくらお前の《心力》が硬くても、そのオモチャはちげぇだろ?」


 瞬間、誠人の手の内にあった補助武器庫が、バラバラに砕け散った……!?


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