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砕球!! G2  作者: 河越横町
88/108

分岐点


『ヒカリン!!』


『神動選手、チーム上妃の神動選手です!! 今年から九十九学園にやってきた神動耀選手がチーム壇ノ浦の巨人を、野望を斬り伏せたぁあああああ!! なんという破壊力!! 第一闘技場に衝撃走るぅううううう!!』


 まるで花火でも打ち上げているかのように、巨人の身体から《心素》が撒き散らされる。身体の形を維持できなくなり、剥落すように肉塊が落ちてくる。

 そして巨人という機体を失ったチーム壇ノ浦の選手たちが、肉の雨に混じって空中に投げ出された。

 その身体はシャボン玉程度の強度。少し突かれただけでも戦死してしまう。ここまでかと、チーム壇ノ浦の選手たちが悔しそうな表情を浮かべる。が、


【あきらめるなぁあああああ!!】


 耳元の無線通信機に届いたのはチーム壇ノ浦の主将、壇ノ浦闘吾の野太い声だ。


「壇ノ浦さん……」「……主将」「壇さん……」「闘吾さん……」


『はい!!』


 戦場にいる限り、最期まで戦い続ける。

 気持ちを新たにしたチーム壇ノ浦の選手四人が固まり、空中で迎撃態勢を取った。


「行くぜ、まこと!!」「ああ!!」


 一方で、玲と誠人がチーム壇ノ浦の選手を獲ろうと肉塊を足場に跳び上がろうとする――が、瞬間、緑鳥の大群が二人に襲い掛かった。


「「ッ!?」」「行かせませんよ」

 

 屋島にしっかりとマークされていたのだ。

 決して仕事をさせない。躍動する緑鳥からは、彼女の強い気持ちが伝わってくる。

 この試合の鍵を握るのは、巨人撃破後の点取り合戦。どのチームが最もチーム壇ノ浦から点を奪えるか。

 だからこそ、屋島はしっかりとポイントを押さえていた。自分と、味方と、他チームの選手の動きも含めて!!

 レヴィアタンが返り撃ちにされるというイレギュラーが発生したが、そんなことはもうどうでもいい。点さえ獲れればそれでいい。


「猪勢くん、勇美さん!! お願いします!!」


「俺に任せてくださいよ!!」「竜胆勇美、出ます!!」


 そして、チーム風紀はこの場面にしっかりと人数を揃えてきた!!

 屋島が玲と誠人の飛び出しを抑えている間に、勇美と猪勢が点を獲りにいく。


「ぶっ潰れろ!!」「《槍弾幕ゲイ・ボルガ》!!」


 猪勢が近くにあったチーム壇ノ浦の犬球を二個破壊し、


 ――チーム風紀、4得点(内訳:相手球二個撃破=2点×2)合計7点


 勇美の撃ち放った紫蜂がチーム壇ノ浦の選手たち三人を刺殺し、爆砕させる。


 ――チーム風紀、3得点(内訳:相手選手三人撃破=3点×1)合計10点


衣河球氏ころもがわ きゅうじ選手、持仏堂排外じぶつどう はいど選手、富士原籠ふじわら ろう選手、戦死ぉ!! 球も二個割られている!! チーム風紀、一気に七得点!! 猪勢選手と竜胆選手がしっかりとチャンスを活かした!! 一位まであと二点!!』


『まだ、ダンノッチのチームは死んでな――ッ!?』


 このまま一気に逆転だと、勇美と猪勢がチーム壇ノ浦の残党を狩りに行こうとする。が、


「まだ終わってないぞ、この野――」


 チーム壇ノ浦、最後の生き残りである誉田翼ほんだ つばさの頭部がスパーンと斬り上げられて宙を舞う。


「――ろ、う……?」


 勇美と猪勢をあっという間に置き去りにして、漆黒の旋風が誉田と残りの球三個を狩り取ったのだ。

 後半四分、ここにチーム壇ノ浦の選手、球が絶滅する。


 ――チーム壇ノ浦、合計12点。


『だ、誰だ!? 誰だ!? 誰だぁ!?』


『……ダーちゃんはタフボーイだね』


 果たして、纏った黒風を周囲に撒き散らして姿を現したのは、無骨なバスターソードを肩に担いだ、漆治打亜駆だった。

 

 ――チーム九十九、7得点(内訳:相手選手1撃破+相手球3個撃破=1点×1+2点×3)合計9点


『な、なんとレヴィアタンに轢かれた漆治選手がカムバック!! チーム風紀から七点分掻っ攫っていったぁ!! 後半初めての得点。これでチーム九十九はトータル九点、上位二チームを射程に捉えたぁ!!』


『うわ~、結果的にヒカリンは上手いこと使われてポイされたね』


「っ、耀……」


 剛羽は身体を引き摺るように歩きながら、膝を付いてぜえぜえと荒い息を吐いている耀のもとに辿り着く。

 完全に出遅れた、と剛羽は悔しそうに舌打ちした。一緒に轢かれた漆治には《心力》を補充する個心技があるとはいえ、あれだけの活躍を見せつけられると途轍もない敗北感に襲われる。

 

 そもそも、この展開を招いてしまったのは、自分のポジショニングの悪さによるものだ。

 レヴィアタンに真っ先に轢かれた剛羽は大きな放物線を描きながら都市の中心部付近にあった建物に直撃し、そのショックで目覚めて動けるようになるまで多大な時間を浪費してしまった。


 レヴィアタンを加速させて巨人にぶつけることはできたが、それは最低限の仕事だ。せっかく耀が巨人を倒してくれたというのに、チーム壇ノ浦の選手と球を獲りに行くことができなかった。

 

 屋島に押さえられていた玲と誠人も含めて、チーム上妃の面々は程度の差こそあれ、疲労感が滲んでいる。

 当然だ。チーム上妃は今――たった一瞬の攻防で、他チームに大きく引き離されてしまったのだから。優勝戦線から離脱したと言われても仕方ないほどに、差を付けられた。


(違うだろ……後悔してる場合じゃないだろ!!)


 守手だというのに、優那すら守れなかった。

 味方がつくってくれたチャンスを活かすことができなかった。

 確かにその通りだ。そこには何の間違いもない。しかし、今はそんなことどうでもいい。

 大事なのは失敗してからどうするかだ。


(獲り返す、絶対に!!)


「――みんな!!」


 と、剛羽――ではなく、耀が声を張り上げる。

 台詞を食われた剛羽と、屋島の執拗なマークに後退させられた誠人と玲が少女に視線を集める。


「勝とう!!」


 出てきたのは、たったの一言。

 だが、剛羽たちにはそれで十分だった。


「「「おう!!」」」と三人が力強い声で応える。反撃が始まった。


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