攻めろ!!
「俺たちの天下だぁあああああ!!」「ざまあみやがれ、九十九義経!!」「レヴィアタン、討ち取ったどぉ!!」「よし、よしっ!! っ、お前ら落ち着け!! 止めを刺すのは死んだと思ってからだ!!」
【山伏先輩、木礎先輩、逃げてください!!】
【猪勢くん、大丈夫ですか!?】
【耀先輩、逃げて!!】
各チームが撤退行動へ移ろうとする中、勝鬨を上げるように叫んだ巨人はその鉄槌を、巨足を振り下ろす。
身の竦むような大音響。圧倒的な、一方的な破壊の嵐。
大聖堂のあった都市の中心部はすっかり更地と化していた。そこには隠れる場所がない。
「木礎!?」
「あと、頼んだぜ」
そして、山伏の分身と戦馬が巨人に貪られ、既に力を使い尽していた木礎が、為す術もなく巨大な足に押し潰された。
――チーム壇ノ浦、1得点(内訳:相手選手一人撃破=1点×1)合計5点
そして次にターゲットにされたのは、こちらも大量の《心力》を消費した優那だ。
巨人によって蹴り上げられた建物が、その残骸が、ふらふらと覚束ない足取りで逃げようとする優那に雨のように降り注ぐ。
『木礎選手に続いて上妃選手も戦死ぉおおおおお!!』
『いや、まだ生きてるよ!!』
間一髪のところで、耀は優那を救出した。しかし、球までは守り切ることはできず、落下してきた建物に残り四個中三個の球が押し潰される。
――チーム壇ノ浦、6得点(内訳:相手球3個撃破=2点×3)合計11点
『チーム壇ノ浦、二位以下を大きく突き放して首位独走!! 一方、チーム上妃、球が残り一個しかないぞ!! あと一個割られてしまった場合、全選手退場――このままのスコアでいくと最下位決定になります!!』
『これはハードモードだね……』
耀は優那をお姫様抱っこしたまま、一先ず巨人から距離を取る。山伏や猪勢、屋島が狙われていたため、比較的楽に撤退できた。
「ごめん、耀ちゃん……」
石畳の上に下ろされた優那が、申し訳なさそうに目をぎゅっと閉じる。その戦用復体はあちこちに亀裂が入っていた。
耀は優那にそれ以上謝罪をさせないように言う。
「優那先輩のせいじゃないです。私が絶対に取り返します!!」
「……耀ちゃん」
身体を起こした優那が、耀を優しく抱きしめる。
耀は鼻のあたりにつんとくる感覚を覚えた。これが最後になるかもしれない。そんな感情が湧き上がってきたからだ。
「ゆうさん!!」「上妃先輩!!」
とそこで、残り一個の犬球を保護した玲と誠人が合流する。
「ッ、ゆうさん……!?」
その目を大きく見開く玲。
玲は瀕死の優那の手を取り、何かを堪えるように唇を噛む。
「れいちゃん……残ってくれてありがとね」
結局、玲以外の選手たちはそれぞれの道を進んだけれど、チーム九十九は元の形に戻らなかったけれど、
「私、嬉しかったよ」
「なに……なにこれで終わりみたいなこと言ってんだよ、ゆうさん!!」
玲は優那の両肩をがしっと掴む。
「まだ負けてねえじゃん!! この試合に勝って、予選も勝ち抜いて、チーム上妃は全国まで行くんだよ!!」
「……うん、うん」
顔をくしゃくしゃにしながら、優那がこくこくと頷く。
「それに、あたしはちっとも後悔なんてしてねえんだ。だから、ありがとうなんて言わないでくれよ。そんな顔しないでくれよ」
玲が優那を抱きしめる。優那が玲を抱きしめ返す。
間もなく別れを告げるように、ビキビキッと優那の戦用復体に入っていた亀裂が広がり始めた。
戦死の気配を悟った優那が玲から身体を離し、三人に視線を送る。
「あとどれくらい残ってるか分からないけど、受け取って……!!」
瞬間、耀たちは自身の体に《心力》が流れ込んでくるのを感じだ。
個心技《加護》。自身の《心力》を他者へ譲渡する能力。
「ちゃんと見ててくれよな、ゆうさん」
「みんな、あとは……任せた、よ」
小規模な爆発とともに優那が《闘技場》の外へと転送された。
――チーム壇ノ浦、1得点(内訳:相手選手1人撃破=1点×1)合計12点
『チーム上妃、主将、上妃選手が戦死ぉ!! 上妃選手は巨人を倒すために《心力》を多大に消費したため、標的にされたチーム壇ノ浦に得点が入ります!! これで現在二位のチーム風紀との差が九点に広がったぁ!!』
『これは……ハードモードだね』
最下位に沈むチーム上妃の現在の獲得点数は一点のみ。トップとは11点差だ。
しかも最悪なことに、首位を走るのはチーム壇ノ浦。
レヴィアタンを使っても倒せなかった巨人。
他のチームから得点して巻き返そうとしても、巨人に邪魔されるだろう。最悪、巨人一体に三チームが全滅する可能性だってある。
「ひかり……ッ!?」「神動!?」
しかし、
「ちょっと倒してくる!!」
玲と誠人の制止を振り切り、耀が駆け出した。その行き先は勿論、暴れ回っている巨人だ。
大剣の剣先を引き摺るように構えながら、耀は巨人の足を駆け上っていく。が、巨人はすぐさま耀を振り落とした。恐るべき捕捉・反応速度。すぐさま掌底を、足を撃ち出す。
「ひかり!?」「神動!?」
そんな二人の叫びが掻き消されるほどの破壊音。
しかし、玲と誠人は振り下ろされる鉄槌を回避し続ける少女の姿を捉えた。
チームメイトを援護しようと二人も巨人に向かって駆け出す。少しでも相手の意識を散らせようと動き回る。
「くそッ、こっち向けよデカ能無し!!」「大きければいいってもんじゃないんだからな!!」
だが、巨人は足元をうろちょろする二人を意に介さない。脅威にならないと判断したのだ。自然、攻撃は耀に集中する。
巨人の注意を再び一身に引き受けた耀は、反撃の機会を窺う。が、正直反撃どころではない。潰されないように回避し続けるのが精一杯だ。
「――耀、攻めろ!!」
そのとき、耳慣れた少年の声が耀の耳に届く。
瞬間、耀は自身の身体が軽くなったのを感じた。それは、チーム上妃の入団試験で一度体験したことのある感覚。
間もなく巨足が投下され、粉塵が巻き上げられる。が、その煙の中から耀は飛び出し、大木のような巨人の足をもの凄い速度が駆け上がっていく。
「う、うわぁ、なんか来たぁ!?」「こいつゴキブリの血族か!?」「消えたぞ!!」「オペレーターなにやってる、捕捉急げ!!」
しかし、わざわざ探すことなどなかったと、チーム壇ノ浦の選手たちは思い知らされる。
なぜなら、それはフィールド上空に浮かぶ太陽よりも悪目立ちしていたから。
「……さっさと目立ってこい、耀」
突如巨人の頭上に現れたのは、見る者を気絶させるほどの《心力》を放つ、獄炎の柱。
勿論、炎柱の根元――柄を握っているのは耀だ。
その華奢な身体から想像も付かないほどの莫大な《心力》を以って、フィールド全体を赤く染め上げている。この世界の支配者は自分だと言わんばかりに!! そして、
「お前の力、見せてやれ!!」
「はぁああああああああああ!!」
耀はその大剣を力一杯振り下ろし、巨人の正中線を紅刃が神速の速さで駆け抜けた。一瞬の静寂。間もなく、《神の悪戯》すら粉砕した巨人の身体がバラバラに斬り刻まれ、肉塊の雨がフィールドに降り注いだ……!!




