守矢玲(もりや れい)
剛羽たちは、砕球部寮の受付で試験で着用するユニフォームと番号札を受け取り、寮内の更衣室に向かった。
その途中、剛羽は歩きながら校舎を一回り大きくした規模の寮内を見回す。
新築同然の内装は目に慕わしく、《IKUSA》で紹介されていた情報通りであるとさっそく実感する。それだけではない。多種のマシーンを備えた大きなトレーニングルームや大食堂、大型のプール等々、とにかくあらゆる施設が豪華でサイズが大きい。設備は充実していると聞いていたが、闘王学園と遜色ないほどだ。
前述の例に洩れず浴室が併設された立派な更衣室で着替えた後、剛羽と誠人が寮のエントランスホールに向かうと、既に支度を終えた耀と美羽が待ち受けていた。
オペレーター志望の美羽は制服のままだが、耀は当然ながら出で立ちが変わっている。
長い金茶髪はポニーテールにされ、服装は支給されたチームユニフォームにスポーツ用のミニスカートとスパッツを合わせている。それが彼女の砕球をするときのコスチュームらしい。
「あんまり遅いから、逃げ出したのかと思いました」
「達花のお手洗いが長くてな」
「ちょ、ちょっとトイレットペーパーの素晴らしさについて考えてただけだ!」
着替え中に五回も個室に駆け込んだことは名誉のためにも内緒にしておこうと、剛羽は静かに誓う。
「お兄ちゃん、試験官の人たち来たよ」
剛羽たちが美羽の視線を追うと、砕球部寮のエントランスホールの入口に、二十人程度の生徒たちがやってきた。
明らかに周囲と一線を画する存在感を放っており、その中には先程言葉を交わした風紀委員の竜胆勇美の姿もある。
「九十九学園のトップチームだ!」「俺、あの人《IKUSA》で観たことある!」「すっげえ、雰囲気あるなぁ」「やべえ、何か緊張してきた」「あの人たちとやり合うのかよ……」
どよめき出す受験者たち。
この入部試験は、砕球部内のトップチームのメンバーが試験官として試合に参加し、受験者たちと対決するシステムだ。
というのは、《IKUSA》を使えば選手たちの個人ランクや個人戦の映像などを観ることはできるが、やはり実際に自分の目で観てみるほうが確実にその選手の実力が分かるからである。
「達花、さっきのリーゼントも試験受けるみたいだな」
受験者組みの中には、リーゼントヘアの少年――猪勢の姿もあった。
先程剛羽たちの前でいばりちらしていたような雰囲気はすっかり影を潜め、ふうと深呼吸して精神統一をしている。
「奴は砕球部の二軍だが、二軍の選手も一軍昇格を賭けて、僕たち受験者と一緒に試験に参加するんだ」
「じゃあ、この試験でここの一軍、二軍と戦えるのか……面白くなりそうだ」
「そ、そうだな。ハイがテンションだな」
「……達花、もしかして緊張してるのか?」
「まさか、僕がこの……あ」
「なにを恐れることがあるんです? ここまできたらやるしかないじゃないですか。それに壁は高いほうが燃えますしね」
「とりあえず、落ち着いてこうぜ」
「わたしみたいなルーキーもいますし大丈夫ですよ、達花先輩」
「キミたちのメンタルが羨ましい!」
そんな感じで剛羽たちが話していると、チームユニフォームに身を包んだ屈強な男が、時計を確認した後に声を張り上げて衆目を集めた。精悍な顔立ち、さっぱりした頭髪、服の上からでも分かるくらい筋肉が発達しているのが特徴的だ。
「この試験を取り仕切る、砕球部チーム九十九の副キャプテン、山伏弁慶だ。今日は九十九学園砕球部、春の入部試験に参加してくれたこと感謝する。じゃあ早速、試験内容についての説明を始める」
事前に連絡されていたことをこの場で改めて確認した後。
剛羽たち受験者は、受付で渡された番号札に書かれた数字ごとにグループをつくる。その結果、受験者たちは五人一組に分けられた。
「全員、同じチームだな」
「これ、ユニフォームのカラーリングで分けられてるんですね」
「キミ、今更気付いたのか……くれぐれも、足手まといにはならないでくれよ」
「あ、あなたこそ、私の足を引っ張らないことだけ考えなさい、ふん!」
「み、皆さん、わたしたち一緒のチームなんですよ……!! もっと仲良くしましょう……!!」
偶然にも同じチームになった剛羽、耀、誠人、美羽の四人。
彼らの他にチームメイトとなる人物がもう一人いるはずなのだが……。
「ここって一番札ですか?」
とそこで、剛羽たちの固まっていたところに、一人の少女がやってきた。
耳上から頭頂部に向かって髪が編み込まれている茶髪はショートボブで、目は少し吊り気味だがキツそうな印象はない。
同年代の女子の平均より少し低いくらいで、どこかサバサバした雰囲気を湛えている。
「守矢玲、高一です。ポジションは動手です。よろしくお願いします」
「私は神動耀、あなたと同じ高一です。こちらの蓮くんと達花くんも同い年ですよ」
「守手だ、よろしく」
「ふ、くれぐれも僕の足を――」
「――蓮……? ああ、あんたがあの……」「ん?」
「で、こちらが美羽ちゃん、中一です」
「蓮美羽です、オペレーター志望です……! よ、よろしくお願いします……!」
「こりゃまた可愛いオペ娘だな。よろしく、みう。あたしのことは玲でいいぜ」
玲はにっと笑って見せる。それを見て、人見知りの美羽がその表情をぱっと明るくした。珍しいことに、早速打ち解けたらしい。
「――四番札の皆さん、お待たせしました~! 砕球部、チーム九十九の閑花和姫です!」
続いてやってきたのは、試験管を務める少女だ。編み込みのある前髪と猫のような目が特徴の女の子である。
「げっ、かずきのチームかよ」
「げってなに、げって!? れーちゃんは当たりがキツイよ。ほんとはわたしのこと好きなくせに! イケず!」
どうやら玲と閑花の二人は知り合いらしく、彼女たちの会話からは親しげな雰囲気を感じ取れた。
「はいはい、それよりのんびり構えてていいのかよ? 他のチーム、自己紹介とか始めてるぜ?」
「うわ、ほんとだ!? 急げ急げ~。ええっと、もう知ってるとは思いますが、これから皆さんには砕球の試合をやってもらいます。って、砕球部の試験なんだから当たり前だよね。試験官とか慣れてないんで、結構緊張してま~す」
剛羽たちのチームに割り振られた砕球部の少女は、参った参ったと苦笑いを浮かべた。
慌てているようだが、ここ四年間毎年全国大会または予選決勝に進んでいるチームのメンバーだけあって、物腰は低いものの柔な感じは見受けられない。
それぞれ簡単に自己紹介を済ませると、閑花は安心したように息を付いた。
「わたしたち助っ人はチームのキャプテン、ってことになってるけどさ、いや~ぶっちゃけた話、柄じゃないんだよね、そういうの」
「ふ、情けない。だったら、僕が代わってやろうか?」
「お、頼もしいね。達花くんだよね? また同じチームだね、今回もよろしく!」
「達花くん、閑花ちゃんと知り合いなの?」
「僕は何回も試験受けてるからな。顔くらいは知っている」
「釣れないこと言うなよ~。此間の秋の試験でも同じチームだったじゃん」
「やめい、試験前だぞ!」
誠人に無下に扱われた閑花は「ちぇっ」とつまらなそうに言った後、標的を剛羽に変更する。
「君が噂の編入生くんか。闘王から来たんでしょ? 何年いたの?」
「小四から六年間だ」
「六年!? すご!」「マジで!?」「ふ……ろ、六年など大したことは……」
「そうなんですか?」
閑花、玲、誠人たちが驚く中、耀は首を傾げる。
「ひ、耀ちゃん、本気で言ってる……? あの闘王で六年生き残るって相当だよ。顔よし、実力よし、彼女よし! 神は蓮くんに三物を与えたね」
「いや、彼女はいない。敢えて言うなら、砕球が彼女だな」
「で、出た砕球バカ……っていうか、耀ちゃんって蓮くんの彼女じゃないの? わたし、てっきりそうなのかと」
「どこをどう見ればそうなるんだよ」「そ、そういう関係ではないです!」
「うわ、息ぴったしじゃん。ひゅ~ひゅ~、熱いねお二人さん。じゃあ、わたしは美羽ちゃんもらおうかな! 美羽ちゃ~ん、お姉さんと語らおうじゃないか!」「あわわわわ~」
「落ち着け、かずき。みう、びっくりしちゃってるだろ」
美羽に襲い掛かろうとした閑花の首根っこを、玲ががしっと掴む。
「せわしないやつだな」
「いいじゃない。明るい娘は好きですよ」
「貴様ら、呑気に親交を深めてる場合か! 試験がそろそろ始まるんだぞ!? 早く作戦会議をするぞ!」
癇癪を起し始めた誠人の声掛けによって、ようやく肝心な打ち合わせが始まった。
ポジションや試合開始後にどう動くかなどを確認し、誠人や玲、閑花から他チームのエースについて簡単なレクチャーを受ける。
そして間もなく、各チームに召集が掛かり、全六十チームがそれぞれの戦場へと歩き出した。
タイトルネタバレですが、新キャラ登場です!
守矢玲
性別:女
誕生日:7月27日
年齢:15歳(高校1年生)
身長:156cm
ポジション:動手
好きなもの:やる気のあるやつ、サバゲー、ゆーさん
作者コメント:男勝りだけど乙女な感じ、を目指して書いてます。ギャップ萌えってやつですかね。メインキャラの一人なので、彼女の過去にも注目してください!
余談ですが、名前をどうするかかなり迷いました汗
硯→紗莉→風歌→菘→莉→玲、だったかな笑