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砕球!! G2  作者: 河越横町
73/108

駆逐


 試合開始七分経過――前半残り三分。大聖堂前、中央広場にて。


「っるせえなぁ、雑魚が徒党を組んだところで、どうにかなると思ってんのかよッ!」


 目の前に突然現れた脅威に誰もが身構える中、


「どんだけデカかろうと弱点はあんだろッ? そのボクサーパンツの中か、心臓か、それともうなじか?」


 背中の黒翼をぐんと力強くはためかせた木礎は、全長三〇メートル超の巨人の股間に向かって突撃していく。

 しかし次の瞬間、その巨体からは想像も付かないほど身軽なステップを踏んだ巨人が、飛行中の木礎に渾身の回し蹴りを叩き込んだ。


「木礎先輩!?」「木礎!?」


 仲間たちの叫びは虚しく反響するのみ。

 耳をつんざくような衝撃音と大聖堂のステンドグラスを粉々に砕く衝撃波が発生すると同時に、蹴り飛ばされた木礎は大聖堂の塔を貫通し、彼方へと姿を消す。


『軽快なバックステップからのボレーシュート!! アイテム万歳!!』


『まあ、あのバッジのおかげっていうのは間違いないんだけど……』


 そこで一旦区切ったウイカは、普段よりほんの少し真面目なトーンで続ける。表情も穏やかで、まるで我が子を見るような眼差しだ。


『あのジャイアント、すごい量の《心力》でできてるんだよ。もっと前からやればよかったのにって思うかもしれないけど、昨年じゃこうはいかなかったんじゃないかな』


『確かに巨人化は変身者の《心力》次第ですからね。的が大きい分、他チームから集中砲火されやすいですし』


『そうそう! モリモリ分かってる~』ウイカは清森とハイタッチする。『それに変身する前にやられなかったのも大きいよね。ダンノッチのチーム、転送位置はバラバラだったけど合流するまで誰も落ちなかったから』


『この前は九十九選手や砂刀選手、駿牙選手に瞬殺されてましたからね』


『あと、ダンノッチのチームの選手は野球とかサッカーとか、ラグビーやってた子たちだから、力だけじゃなくて上手さもあるね』


『くわぁ~、先に言われてしまった!! マジ残念でござる!! ウイカさんの解説の通り、チーム壇ノ浦には色んなスポーツの経験者がいるんですよね。その道では全国優勝レベルと聞いています。さあ、今こそ積み上げてきた力を見せるとき! チーム壇ノ浦、快進撃なるか!?』


 チーム壇ノ浦。誕生したきっかけは、主将の壇ノ浦がチーム九十九から指名漏れしたことだ。他の選手も皆一様にそうであり、チーム九十九からお声の掛からなかった選手の「墓場」などと揶揄されてきた。

 昨年総合三位になるまではまともな練習施設がなく、学内の闘技場が使用できない日は野球、サッカー、バスケ、ラグビーなどの所謂前時代的なスポーツで身体を動かしていた。

 その道では全国大会で優勝を争うほどの実力と山伏は聞いていたが、それ故に各自プライドが高く、チームとして戦うには邪魔になっている印象であった。

 これまでの代表決定戦では常にチーム九十九やチーム風紀の得点源にされてきたが、山伏は認識を改める。あの巨人は、それを構成するチーム壇ノ浦の選手たちは十分に脅威であると。


「……閑花、逃げろ」


「弁慶先輩はどうするんすか!?」


「ここで戦う」


 と、端的に答えた山伏の背中に一抹の不安を覚えるが、閑花はぶんぶんと首を振って戦線を離脱した。

 そしてそんな彼女とすれ違うように、耀と猪勢が巨人に向かって突撃していく。


「あら、逃げなくていいんですか?」


 耀は並走するリーゼントの少年にくすりと笑いながら声を掛けた。

 対して、ギリっと歯を食いしばっていた猪勢は吐き捨てるように続ける。


「横取りされて堪るかよ! それに、ここで逃げたら男じゃねえだろうが!!」


 一方、閑花を逃がして独り居残った山伏は、錬成した分身三体を引き連れて巨人の身体を駆け上っていた。暴れ回る巨人にしがみ付き、掴み取ろうとしてきた手を伝って自身の数倍はある顔面に正拳を叩き込む!!

 

 ドッ、という鈍い音とともに、ぐらりとよろめいて千鳥足になる巨人。

 

 ひるんだ巨人に畳み掛けるように、山伏とその分身はうなじ・心臓部・股間を手分けして同時攻撃しようとする。が、すぐに立ち直った巨人がめちゃくに振るった掌や裏拳に吹っ飛ばされる。

 

 気合や根性ではどうにもならない、絶対的な圧力。

 そして大聖堂に着弾した山伏に、大気を纏った巨大な手刀が振り下ろされた!!

 都市のシンボルは真っ二つにされ、むせ返るような粉塵を巻き上げながら、地響きとともにがらがらと崩れ落ちていく。


「やってやったぜ!! 圧倒的だぁ!!」「待て、まだ生きてる」「流石は山伏さんだ」「脚上ってるやつらがいるぞ」


 巨人の胸部に格納されたコックピット内では、チーム壇ノ浦の四選手が巨人のコントロール、状況確認、オペレーターとの通信をそれぞれ分担して群がる敵選手に対処していた。

 副主将――誉田翼ほんだ つばさが中央に据えられた水晶玉のようなものに手をかざす。すると、誉田のイメージした通りに巨人が動き出す。


「こいつは俺のもんだ!!」「私のです!!」


 一方で、それぞれの得物を巨人に何度も振り下ろす耀と猪勢。しかし、パワー自慢の猪勢や耀の攻撃を以ってしても、巨人がその活動を止める気配ない。

 とそこで、中央広場に留まっていた巨人は、大河を渡った先にある城を目指して走り出した。障害物など関係ないと言わんばかりに、家々を踏み潰していく。巨人の背後に残るのは廃墟のみだ。

 

 しかし、巨人が大聖堂と城の中間点に差し掛かったそのとき、顎下に二つの衝撃が同時に走り、その巨体が一歩二歩と後退した。

 アッパーカットを決めたのは、


「クソがッ、めちゃくちゃかてえッ!!」


「ここで止めるぞ、木礎」


「たりめえだッ!!」


 チーム九十九の高校三年生、山伏と木礎だ!!

 その身体に幾筋もの亀裂が入った二人が、巨人の視界に飛び込む。これ以上は進ませないと巨人に襲い掛かり、注意を引く。攻撃を加える。ただ適当に攻撃するのではなく、おそらく弱点となる箇所――目を潰しにいく! 

 木礎は錫杖を山伏は正拳を、巨人の右目に容赦なく叩き込む!


「「おらぁあああああ!!」」


 確かな手応え。そしてそれを証明するかのように、巨人の右の眼球が粉砕され、


「目が、目がぁあああああ!?」「たかが片目をやられただけだ、うろたえるな!!」「まだ見える!!」「いや待て……!?」


「ぶっ潰れろ!!」「ごきげんよう!!」


 残った左の眼球も、振り抜かれた大槌と大剣に粉々にされた。

 そして、追い付いてきた耀と猪勢を合わせた四人で、巨人退治が始まる。


 目を潰された巨人はめちゃくちゃに暴れ回るが、拳も足も空を切るばかり。オペレーターからの通信を頼りに攻撃するが、それでも当たらない。


「目の再生まであと何秒だよ!?」「六〇秒!!」「やりたい放題やられてるぞ!?」「とにかく暴れるしかないだろ!! 転がれ!!」


 巨人は耀たちを振り落とすように石畳の上を絶え間なく転がり続ける。その度に建物が押し潰され、各所から黒煙が立ち上り始めた。フィールド製作者の細かい演出である。

 コックピットの中にいるチーム壇ノ浦の選手たちは今にも吐き出しそうだが、これで眼球が再生するまでは敵の追撃をかわせると思った――そのとき……!!


「は、弓矢? 矢がたくさん?」「どうにも要領を得ないな、俺に代われ……矢が宙に停止してるだと!?」「あれか、風紀科のやつか!?」「何を、するつもりだ……!?」


 都市部にいた全選手が手を止め、足を止めて空を見上げる。

 それらの視線の先には、空一面を隙間無く埋めるように数百本もの弓矢が展開されており、次の瞬間、空を鋭く引き裂く無数の音とともに緑色の雨が都市部全体に降り注いだ……!!


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