表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砕球!! G2  作者: 河越横町
7/108

竜胆勇美


「風紀委員だ。喧嘩は止めてもらおうか」


 黒髪の少女は、腕に通した腕章を誇示するかのようにぐっと身体の前に出した。


「猪勢、何をしている?」


「ちっ、真面目ちゃんが来ちまったぜ……竜胆、そんなおっかない顔するなって。列からはみ出したやつを弾いてやったんだよ、風紀委員としてな」


「そういうふうには……見えないのだが」


 竜胆と呼ばれた少女は、ぐるっとあたりを見回してから眉を顰めて答える。


「我々がきちんとしなければ他の生徒たちに示しがつかない。就任しては間もないとはいえ、喧嘩騒ぎを起こされては困るぞ」


「へいへい、俺が悪かったよ。砕球やってると、ついかっかしちまうんだ。それに、これから大事な試験なんだぜ。アドレナリン出まくってんのさ。そんじゃあな」


 猪勢は「ほら並べえ! 並べえ!」と連れを従えて仕事に戻る。

 竜胆と呼ばれた少女は「騒がせてすまない」と一般生徒たちに頭を下げた後、剛羽たちに近付いてきた。


「久しぶりだな、剛羽。元気そうで何よりだ」


「ああ。そう言えば、勇美もここに通ってたんだっけな」


「あなたの知り合い?」


「闘王行く前に、同じチームでやってたんだ」


 竜胆勇美。元チームメイトの他に、砕球留学する前の小学校で同じクラスだったりと、親交の深い少女だ。


「聞いたぞ、剛羽は特待生で編入したのだろう? 流石だな……それに、そっちの方も順調のようで」


 勇美はチラッと耀を見てから向き直る。


「編入早々、もう女子生徒を侍らせているとは……」


「待て待て待て」


「まあ、それはいいのだ。別にいいのだ。しかしだな」


 勇美はいじけた子どものようにそっぽを向いて続ける。


「帰ってきたのなら、一言挨拶してくれてもいいではないか」


「すまん……その、なんだ。俺、闘王から戻ってきたわけだし」


「そんなこと気にするな。しかし、ふふ……剛羽がそういうことを気にするとは」


 幼馴染みの意外な一面に、勇美は笑いを噛み殺す。


「わ……悪かったな、小心者で」


「なに、謝ることでもないさ。ともかく、剛羽が帰ってきて怒る者など皆無だ。もちろん、私も嬉しいよ」


 爽やかな笑みを浮かべる勇美。

 その笑顔に、しばらく見ない間に少女らしくなったな、と剛羽は思った。


「勇美、変わったな」


「そ、そうだろうか?」


 頬を染めて前髪を弄くり始める風紀部の少女。


「小学生の頃は喧嘩番――」


「――わあ! その話は止そう! わざわざ掘り返さないでくれないか……恥かしい」


 意地の悪い笑みを浮かべる剛羽に、勇美は顔を赤らめて抗議する。

 最後に会ってから六年の年月が経過したが、二人の見えない絆のようなものは深い。


「さてと、そろそろ私も仕事に戻るよ。今日は砕球部の助っ人を頼まれているんだ」


「……助っ人?」


「剛羽、特待生でも入部試験は受けるのだろう? 頑張ってくれ」


「あ、おう」


 勇美は剛羽と拳を合わせ、次いでよろめきながら立ち上がった美羽に視線を送る。


「美羽、怪我はないか?」


「うん――はい、大丈夫です……!! それより勇美ちゃ――竜胆先輩、すごくかっこよかったです……!!」


「しょ、正面から言われると面映ゆいな」


 勇美は美羽の頭を優しく撫でた後、砕球部入部試験受験者の列の整理に向かう。

 剛羽がそれを見送っていると、耀がずいっと視界に入ってきた。


「あなた、女の子には困っていないみたいね」


「敢えて言っておくけどな、男の友達もちゃんといるぞ」


 耀からの疑いの視線を受け流し、剛羽は先程から黙ったままの眼鏡な少年に声を掛ける。


「どうした、達花。緊張してるのか?」


 とは言わない。彼が別の理由で黙っているのが分かったから。

 だから、剛羽は何も言わずに誠人の横に立った。剛羽なりの優しさなのかもしれない。

 すると、誠人はぽつりぽつりと話し出す。


「さっき言い掛けたが……僕は今年で……は……8回目の受験だ。小6のときに受けた、秋の入部試験からずっと落ちてる」


 九十九学園砕球部は、他校から編入を希望する砕球戦士や有望な小学生を集めるために、九月にも入部試験――通称、秋の試験を実施している。

 四月の入部試験は、その前の九月の試験で指名をもらえなかったが、どうしてもここの砕球部に入りたいという者たちが多く受けるらしい。

 ここにはそれだけの価値が――豪奢な選手寮や十分な練習施設を初めとする十分な環境が整っているのだ。九十九学園が所属する彩玉県(コミュニティ=リ・バレッド)の中では屈指だろう。

 

 以上の理由から、誠人が先程言ったように受験者の数は毎年増えていくわけで、既に7回も落ちている彼が合格する可能性は……。


「――そう、じゃあ今年は絶対受かりましょうね」


「え……?」


「俺と達花はともかく、神動はどうだかな」


「あなた、誰に物を言ってるのか分かって? あたしが落ちるわけないでしょ」


 火花を散らし始める二人を余所に、誠人は驚きの表情で固まっていた。

 七回も不合格を頂戴している自分を嘲笑することもなく、今年は受かろうと言ってくれたことが信じられない。

 お前が受かるわけないだろと周りからは散々馬鹿にされてきたが、冷やかしではなく本気で絶対受かろうと言われたのは初めてだ。

 嬉しくて泣きそうになったので、誠人は剛羽たちに背を向けて目頭を押さえる。


「自信ないんですか?」


「ま、まさか! 僕は達花誠人だぞ! 中学では三年間学級委員だぞ!」


 その言葉にまったく説得力はないが、剛羽たちに気持ちは伝わったようだ。


「達花、受験者の数とか何回落ちたとか、そういうのは全然関係ない。だから」


「お互い、この試験で受かりましょ」


 剛羽と耀がすっと差し出した拳に、誠人が拳をぶつけて応える。


「っ……当然だ」


竜胆勇美りんどう いさみ

性別:女

誕生日:5月29日

年齢:15歳(高校1年生)

身長:165cm

ポジション:球砕手・動手

好きなもの:風紀、強い女性、子ども


作者コメント:初期設定でリーゼントだった風紀女子キャラ。って、どんだけ迷走してるんだよ!?個人的に真面目キャラ大好きです。が、書き始めた頃は、誠人と口調がかぶってたいへんでした(片方デリートしようか迷った笑)。堅苦しい感じに書こうと思ってたんですけど、なんだか爽やかなやつに。同性にモテそう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ