代表決定戦、開始
『ではでは出場チームの紹介です。まずは大本命、九十九義経選手加入以来、危なげなく勝利を収めてきた砕球部所属チーム九十九! 主力選手に怪我人が出たという情報が入っていますが、逆境を撥ね除けベルトを守ることができるでしょうか!? 対抗馬筆頭は、既存戦力の成熟と新戦力の加入により過去最高の布陣で臨む、風紀科所属チーム風紀! 今年こそ悲願達成なるか!? 個人ランキングは軒並み平凡ですが、キャプテンの壇ノ浦選手を中心に野良大会で成績を残してきた、チームの壇ノ浦も侮れない! そして、今年のダークホース! 入部試験でその実力を存分に見せつけた注目ルーキー、蓮剛羽選手率いるチーム上妃! シードチーム二つに、前日の予選を勝ち抜いたチーム壇ノ浦とチーム上妃が挑みます!! 本日のゲストにお越し頂いたのは、かつて日本学生砕球界を戦慄させた《戦乙女》こと洲桜ウイカさんでーす!! って、ウイカさん、チーム上妃の監督ですよね!? いいんですか、こんなところで油売ってて?』
『ドント! マインド! わたし、けいちゃんみたいに指揮とかできないからね。試合のことはあの子たちに任せてるよ』
『えっと、洲桜慶太郎監督もあまりに多弁とは言えませんが……』
『背中で語るってやつだよ。男らしくて素敵でしょ?』
『な、なるほど!! お、時間のようですね。四チームの選手たちがそれぞれの入場ゲートから姿を現しました! 観客席からは割れんばかりの歓声が上がっています! 昨年の王者が、今年もその力を見せつけるか! はたまた、ここ数年涙を飲んできた古豪が雪辱を果たすか! 落伍者たちが意地を見せるか! そして、革命を起こせるか! この清森、興味深々です!』
《闘技場》に隣接された転移ゲートに、四チーム総勢二〇人の選手が並ぶ。
「試合始まったら、まず美羽の指示で合流するぞ」ゲームキャプテンを務める剛羽は最終確認を行う。「相手の球操手が裸で近くにいるとか、そういう特別な理由がない限りは単独で突っ込むなよ……耀、大丈夫か?」
「…………」
「おい、耀」
「えっ、な、なんですか!?」
「集中しろ、試合始まるぞ。もしかして、緊張してるのか?」
「こ、この私が緊張なんかするわけないでしょ? ま、まぁあ、心配は受け取ってあげますけど?」
ダメだこりゃと剛羽は溜息を付く。耀と同じく経験の浅い誠人にもちらりと視線を送るが、こちらは大丈夫なようだ。
仕方がないここは一つ俺がと、剛羽はすっと緊張気味の少女に顔を寄せる。
「……試合でヘマしたらただじゃおかねえからな」
「な、な、なぁ!?」唖然とする耀。
「こうは、それはねえよ~」「鬼畜だな」
剛羽が冗談で言っているのを分かっていながら、わざとらしく呆れた顔を浮かべる玲と誠人。しかし、
「こうくん、そんなこと言われたらもっと緊張しちゃうよ……!?」
この場で冗談が通じない人間が耀以外にもう一人いたようだ。
むっとした優那が、コーチから圧力を掛けられて半泣き状態の耀をすっと胸に抱き寄せて頭を撫でる。高校三年生にして聖母かくやという包容力が眩しい。
「ぅう~、ゆなじぇんぱ~い」
「よしよし、怖くない怖くない。私が付いてるからね~。こうくんもれいちゃんも誠人くんも味方だよ」
【あ、あの、耀先輩! わたしも味方ですからね! サーヤさんのプリムも控室から見守ってます!】
選手控室兼オペレーター室で一人待機している美羽の声が、イヤホン型の無線通信機を通して聞こえてきた。
それから剛羽たちが戦用複体へと変身したところで、足元――六角形の転送エリアが光り、その煌めきに選手たちが包まれる。
『今回はランダムスタート! 動き出しがめちゃくちゃ重要です!』
『レッツゴー、レッツゴー、レッツゴー!!』
そして選手たちが一瞬の酩酊感に襲われ、視界が回復すると。
間もなく、試合開始のゴングが会場に響き渡った。




