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砕球!! G2  作者: 河越横町
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再開


 一般的に、生身の肉体よりも無理がきく戦用複体とはいえ、頭部や心臓部を破壊されると活動限界を迎え、変身が解除されてしまう。両断されれば間違いなく戦死だ。

 そこに例外はないと、誠人は今の今まで信じていた。だからこそ、


「驚いているねえ、達花くん……いい顔だぁ」


 誠人はゆるゆると首を振って後ずさる。真昼に幽霊でも見たかのような驚きっぷりだ。


「でもそんなに驚くことないんじゃないかな? 《心力》なんて超常があるんだ。二つにされても元通りになるくらい――戦死しないくらい普通だろう?」


 普通なわけあるか! と誠人は叫び返したくなったが、そんな精神的余裕はない。


 九十九義経という男の個人戦、チーム戦は《IKUSA》で何度も観たことがあるが、こんな個心技があるとは気付かなかった。少なくとも、これだけはっきりとその個心技が分かるような場面はなかったはずだ。


 今思えば、九十九が荒晚付属の大猩おおしょうや聖マドレーヌの橋姫、彩玉国際のガードナーなど各チームのエースとの対決で何度かあった危ないシーンを切り抜けられたのは、その個心技のおかげだったのかもしれない。もっとも該当シーンは物体の影や嵐などに遮られて動画だけではよく分からない感じであったが。


(戦死しないなんて……どうやって勝てばいいんだ!?)


 対応のしようが無い。剛羽の個心技《速度合成》が可愛く思えてくる。


「さあ、続きといこうか!」


 対して、九十九は心底楽しそうに笑い、砂漠に放置されていた大蛇のような鞭剣を手で触れずに操作した。


(そうだった、九十九こいつは球操手だった!)


 拳二つ分くらいしかない球と比べて大蛇のような黒剣は数百、数千倍の大きさだというのに、主を失って砂上に横たえていた大蛇は生き物のようにじたばたと暴れ出し、耀たちを再び絡め取った。

 

「たくさん練習したんだろうねぇ、色々工夫したんだろうねぇ。少しはマシになったんじゃないのかい? でも、それだけやっても練習してないボクに負けるってことは、つまりそういうことさ。絶望した君の顔が見られてよかったよ……絞め殺せ、さーぺんと――」


「――れいちゃん、耀ちゃん、美羽ちゃん、誠人くん、大丈夫!?」


 とそこで、《闘技場》内に響いた女性特有の高い声に、試合が一時中断される。

 耀たちの視線を集めたのは、激しく肩を上下させながら膝に手を当てて前屈みになっている金髪碧眼の少女、優那だ。


「お久しぶりですね、上妃先輩」


 言いながら九十九は、チーム上妃のキャプテンに連絡したのは誰だと、周囲に視線を走らせる。まだ代表決定戦に関する会議は終わってないはずだ。金髪の少女が何も知らずにここに来るはずがない。

 少なくともこの場にいた者たちに怪しい素振りは見受けられ……。

 とそこで、九十九はその眼に驚きの色を浮かべた。

 双葉姉妹の姿がどこにもない。どうやら、自分が雇ったあの少年たちは金茶髪の少女たちを再起不能にし損ねたばかりか、双葉姉妹まで取り逃がしたらしい。

 仕事が終わり次第、日頃の恨みもあるであろう双葉姉妹を好きにしていいと言い付けておいたが、この様子ではどちらも失敗したようだ。そもそもちゃんと言った通りに実行したのかすら怪しい。

 この役立たずどもが、と九十九は苛立たしげに舌打ちした。


「よかった……何も、なくて……」


 一方で、優那はほっと一息付いて安堵する。

 一般寮まで駆け付けたのは、訓練用人形サーヤが故障したと剛羽の《IKUSA》に連絡が入ったからだ。訓練用人形の故障が原因で近くにいた人間に被害が出たというのはたまに聞く話なので、会議室の机に《IKUSA》を置き忘れたままお手洗いに行ってしまった剛羽が戻って来るのを待たずに、優那は一人で学校を飛び出したのである。


「あれ、れいちゃんたち、どうして決闘してるの……?」


「守矢さんたちがちょっと問題を起こしましてね」九十九はちらりと脇に転がった少年たちを見やる。「彼らをやったのは――」


「――九十九くん、れいちゃんたちはそんなことしないよ」


「そうでしょうか? いくら親しい友人でも、意外な一面を持っているものですよ」


「で、でも、れいちゃんたちは――」


「――とにかく、邪魔しないでもらえませんか? それに、彼らが勝ったら今回の件は不問にするって約束してるんですよ」


 優那は「本当に?」と耀たちに目で問う。力強い眼差しが返って来る。

 九十九の言い方に多少引っ掛かりは覚えるが、チームメイトたちのあの目を見たら止められない。だから、優那はダメ元で懇願した。


「九十九くん、その決闘、私も参加していいかな?」


「……いいでしょう、あの上妃先輩からのお願いですからね」


 二つ返事で優那の参戦を認める九十九。

 これ以上話が長引くくらいなら、相手を一人増やすことになったとしても、さっさと決闘を再開したいというのが本音だ。


「ただし、条件があります。上妃先輩が負けたら、ボクのチームに戻ってくる。それが約束できるなら、決闘をやり直しましょう」


「……うん、分かったよ」


「ありがとうございます。上妃先輩がいれば百人力ですよ」


「まだ負けてないよ、九十九くん」


 進行中の試合を中止し、耀・玲・誠人・優那VS九十九で再開する。


「みんな、私に任せて。なんてたって、私、三年生だよ。頼れる先輩だよ」


 優那は耀たちを安心させるようにぽんと胸を叩く。

 落ち着いた笑顔。包み込むような母性。

 10秒カウントを待つ三人を安心させるには、十分な効果を発揮した。

 そして、優那は今にも倒れそうな耀を抱きしめ、耳元でそっと呟く。


「大丈夫、みんなをここで終わらせたりしないよ……っと、そろそろか――トランス、ダブル」


 相対する九十九の方を向いた優那の表情は、いつもの柔和なものからきりっとしたものに変わっていた。


「九十九くん、ありがとね。私の参加、認めてくれて」


「いえいえ、いいんですよ……一人増えたくらいじゃ問題ないし」


 間もなく、試合開始のゴングが響く。

《闘技場》内に展開されたフィールドは先程と同じ砂漠。

 耀たちの勝利条件は変わらないが、九十九の勝利条件が相手選手を全滅させる、または相手の球を五個全て破壊することに変更される。


「行きますよ、上妃先輩! 《死神》」


 開始早々、九十九の手から鞭のようにしなる大質量の黒剣が出現し、球操手である優那に一直線に襲い掛かった。


「僕を忘れるな!」


 しかし、誠人が自身の感覚と美羽のサポートのおかげで大蛇の射線に正確に飛び込み、盾をぶつけて大蛇の軌道を僅かにずらすことで優那が逃げる時間をつくる。玲が連射して九十九の意識を防御にも割かせる。


「どれだけ持つか見物だねぇ!」


 玲の弾丸を緑壁で弾き飛ばしながら、九十九は短い鞭でも振り回すように大蛇をビチンビチンとしならせ、砂嵐を巻き起こした。

 砂塵の竜巻の中で、無軌道に暴れ回る大蛇。その一本の大剣はなんと中ほどから枝分かれし、それぞれ蛇の頭をもった剣先が砂のカーテンをあちこちから引き裂き――本命と囮を混ぜ、あたかも全方向から攻撃してくるように見せかける。

 オペレーターには見えていても、中の選手たちには相当なプレッシャーだ。いつ攻撃が来るのかオペレーターの指示があるまで分からないというのは、極度の緊張を伴うだけでなく、高い集中力を要求される。

 

 そんな綱渡りのように危うい状況で、誠人は瞳を閉じていた。全神経を研ぎ澄まし、冷静に対処する。

 大蛇に注がれた《心力》は、そのオーラだけで相手を竦ませるほどのものだ。よって強い《心力》に敏感な誠人が感じ取れない道理はない!


「三時の方向から二秒後、十時の方向から二・五秒後、八時の方向から三秒後!」


 誠人は美羽の指示と合わせて砂嵐から現れる大蛇の到達時間を正確に予測し、事前に回避コースを選択する。

 砕球をやっている選手たちと比べると、誠人の身体能力は決して高くない。が、その感覚の鋭さと判断力の速さで、周囲から《最弱》と罵られた彼にも、チームメイトたちをできるだけ安全な場所に導くことができる!


「――ぐわッ」「誠人くん!」「まこと!?」


 とそこで突然、誠人が掻っ攫われるように真横へ吹っ飛ばされた。

 衝撃の正体は、拳程度の白い球状の物体。


「さっきのお返しだよ」


 そう、その白球を操作したのは嵐の向こう側にいる九十九だ。

 大蛇が当たらないと見るや、大蛇を囮に誠人たちの回避コースを誘導し、そのポイントを生成した白球で急襲したのである。


「いやー、びっくりしたよ。中々当たらないもんだから」


 激しかった嵐が弱まり出し、人影が見え始め、九十九の声が聞こえる。


「カモフラージュはいらないね――真正面から叩き潰すよ」


 そちらの方が好都合だと言わんばかりに宣言する。

 しかし、それは耀たちにとっても同じだ。

 ただ逃げ回っていたわけではない。九十九が攻撃方法を切り替える前から、試合開始と同時に準備していた。

 砂嵐が弱まり、相手をぼんやりと視認できるようになったところで、こちらの準備も整った。


「セカンドバイタル転置完了……3、2」


 優那の全身から青色に輝く粒子が爆発的な勢いで迸り、


「1」


 その粒子全てが優那の手にした長銃に急速に収束。そして、


「――バースト!」


 瞬間、耳をつんざく爆音と場内を激しく揺さぶる轟音とともに、直径五メートルを超える巨大な青色の弾丸が砂塵を巻き上げながら発射された。


 ここ数話の誠人、主人公っぽい笑

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