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砕球!! G2  作者: 河越横町
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入団試験、決着

 短い間隔で個心技を9発使ってからの10発目。

 耀が振り下ろした長剣を食らい、剛羽は地面をバウンドする。

 小刀を割り込ませていなければ即戦死していた。


(こいつら……)


 ここで仕留めるとすぐさま追い掛けてきた耀を見ながら、剛羽は思う。

 耀たちは《速度合成》についてかなり研究してきていると。

 しかし、絶体絶命のピンチだというにも関わらず、剛羽は口角を上げて笑っていた。

 嬉しくないわけがない。未熟者だった耀たちが本気で勝ちに来ているのだから。その心意気は勿論、2人の成長が自分のことのように嬉しい。


(でも、まだ勝たせないぜ――)


 瞬間、剛羽の右目の瞳孔が十字に開く。それは耀を、砂刀と駿牙を仕留めた必殺技。

 2倍、3倍加速や減速と比べて発動に時間が掛かるそれを、剛羽は耀の長剣を食らったときから発動させていた。

 確かに、11連続目の《速度合成》は精度が落ちる。が、10倍加速ならば多少精度が落ちても押し切れる!


(――10倍加速(クレスト=デナリス)!)


 剛羽の全身が煙のような白いオーラに包まれ、その瞳が一条の線を引――


「――ッ!?」「間に合った!!」


 後頭部をがっしりと掴まれた剛羽は、そのまま地面に叩き付けられた!?

 全力で前進しようとしていたため、剛羽の身体が地面にめり込む。

 もう逃がさないと、誠人は剛羽の身体にしがみ付く。


「僕は、強い力に当てられやすいんだよ!」

 

 それは砂刀の《一尾両断》を事前に察知したときと同じ感覚。

 耀が剛羽を吹っ飛ばすかとどうかのタイミングで、誠人は剛羽の10倍加速発動に勘付き、まるで予知のような始動で剛羽の加速し出す刹那を捉えたのだ。

 剛羽が加速しようがしまいが、よーいどんでは誠人に勝ち目はない。

 しかし、剛羽の3倍加速による回避コースを読んで先回りしたように、次の動きを限定・予測できれば追い付ける。昔の誠人ならともかく、出稽古などで身体能力を上げた今の彼になら追い付ける! 11連続目の発動で精度が落ちた十倍加速を、捕まえ損ねるはずがない!!


「神動、やれぇえええええ!!」


 剛羽と自分の身体を補助武器庫で錬成したワイヤーで縛り上げた誠人は、跳躍した耀に叫ぶ。


「これで終わり!」


 長剣にありったけの《心力》を注ぎ込む耀。ゴオッと噴き出した炎のような紅色のオーラを纏った長剣は大剣へとその形を変えていた。

 サーヤの操作する鈍足な亀球では間に合わない。それくらい剛羽たちの戦闘はスピーディだ。サーヤがプロモードであればギリギリ間に合ったかもしれないが、間に合ったところで耀の大剣は防ぎ切れない!


 大剣を逆手に持ち直した耀は、裂帛の気合を乗せた渾身の一撃で、誠人ごと剛羽を串刺しに――


「――え?」「――なん、だと……!?」


 できなかった。なぜなら、大剣を握っていた両腕の肘から先がなくなっていたから。


「……球操手っていうのは、球だけ操作するわけじゃないんだぜ?」


 耀の両手を、剛羽の動きを封じていたワイヤーを、誠人の背中を深々と削ったのは、剛羽が足場として空中に錬成した円盤のような物体。

 それをサーヤが操作して時速400キロでフリスビーのように飛ばし、高速回転した凶器は耀たちを確実に捉えたのだ。


「サーヤ、助かった」


「もっと褒めてください、マスター」


「はいはい……お前ら、よく研究したみたいだな。でも、守手ってのは球操手と協力して相手を倒すポジションだぜ」


「くっ……」剛羽に蹴っ飛ばされて地面を転がった誠人は悔しそうに顔を歪める。それでも、


「神動、まだ……終わってないぞ」


「それ、は……私の台詞です」


 耀は足で蹴り上げた大剣を小さくして歯で挟む。


「やることは変わらない。とにかくハードワークして蓮に個心技を使わせよう」


《速度合成》の弱点が分かっている以上、そこを突いて勝機を見出すしかない――が、


「「ッ!?」」


 大ダメージを受けた今の耀たちに先程までのような連携はできない。

 開始から全力で飛ばしていたため、足も動かなくなってきた。

 耀たちの戦用複体に次々と斬痕が刻まれ、《心素》が勢いよく溢れ出す。


「達花ちゃん、がんばれえ!」「がんばれえ!」双葉姉妹が真剣な表情で声を張り上げる。


「あ、あの……あきらめたら試合終了です! お兄ちゃんも頑張れ~」美羽が控え目に兄にも声援を送る。


「ひかり、まこと、まだ負けてねえぞ!」玲が強い口調で叱咤激励する。


「これが終わったらケーキ食べようね!」優那が場を和ませ、包み込むように優しく声を掛ける。


 そんな歓声を背に受けながら、剛羽は膝を屈して息を荒げる耀たちを見下ろしていた。


「どうする、もう降参するか? 別に恥ずかしいことじゃないと思うぜ。俺の個心技が強過ぎるだけだからな」


 膝を付いて息を荒げる耀たちを見下ろしながらそう催促した剛羽は、試すように問い掛ける。


「ま、そうは言っても、俺より強いやつなんてゴロゴロいるけどな。プロになりたいなら、そいつらを倒さないといけない。でも、上のやつらだって努力してる。普通に考えたら努力したって追い付けない」


 そして突き放すように、しかし何かを期待するように問い掛ける。


「それでもまだ――続けるか?」


「「当然!」」


 即答した耀と誠人の目は死んでいない。それどころか、この決闘が始まる前よりも力強いものだ。

 この決闘で力の差をまざまざと見せ付けられても、厳しい現実を突き付けられても、耀と誠人は立ち上がる。


「そうか……俺もだ」


 剛羽はにっと笑って小刀を構えた。


(やっぱり俺は……お前らと一緒に砕球をやりたい!)


 それから3人の選手は再び衝突し、そして耀たちはこてんぱんにされるのであった。


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