研究と作戦
お待たせしました、遅くなってすみません汗
時間は少し遡り、入団試験数日前。一般寮の誠人の部屋にて。
「11回?」と、耀は誠人の言葉を反芻した。
「うん、11回だ。蓮の個心技は連続で11回以上使おうとすると、その精度がガクっと落ちる」
そう言って、誠人は眼鏡をくいっと押し上げながら、PCの画面が耀にも見えるように動かす。そこには仮装大会と同時開催された強豪校同士の練習会の様子が映されていた。
「あ、蓮くんね。相手は……?」
「昨年の夏の彩玉代表、荒晚付属のルーキー、獅子王炎児と、猪勢、それからうちの風紀科の鞍馬与一ってやつだ」
「あ、リーゼントの人だけは観たことあるわ」
「鞍馬も入部試験で同じグループだっただろ。最後の方で守矢を戦死させたし、解説で清森も……って、神動、春の入部試験振り返ってないな!?」
「べ、別に面倒臭いとかそういう理由じゃないんですからね!」
「嘘を付け! まったくキミってやつは脇が甘いな!」
「ふ、ふん、あたしは過去を振り返らないだけよ。そんなことより、話を続けましょう」
耀に促された誠人は釈然としない気持ちを抱えながらも、再生していた剛羽たち4人の試合を途中で止める。
「このシーン、蓮が鞍馬の弓を食らったんだ。それもかなりのダメージを受けた」
「ふーん、なんだかひょいっと避けられそうなものですけどね」
「そう、確かに相手の攻撃するタイミングはよかったけど、蓮なら避けられると思ったんだ。なのに避けられなかった。それで気になったから、このシーンを何度も見直してたんだけど、そこである推測が立った」
「それが11発目ってやつですね」
耀の問いに、誠人は首を縦に振る。
「弓矢を食らったとき、蓮は個心技を発動させてたんだ。けど、完全にかわしきることはできなかった。過去の試合も見てみたけど、連続で11発使うときは多かれ少なかれダメージを受けたり、相手を仕留め損なったりすることが多いって分かったんだよ。あと、減速を使う場合は精度が落ちるタイミングが早まるみたいだな」
「…………」
「何故急に黙る?」
誠人はぽかーんとした耀をいぶかしむように訊ねる。
自分は何かおかしなことを口走っただろうかと不安になってきた。しかし。
「いや、その……すごいな~って思って。だって、それを調べるのってたいへんだったでしょ?」
耀の素直な称賛に、今度は誠人がぽかーんとなる。が、ぶんぶんと頭を振り、ごほんと咳払いをしてから話を続ける。
「とにかく、2人で蓮に張り付いて個心技を使いまくらせる――一秒たりとも休ませない、超接近戦だ」
「シンプルイズザベストってやつね。それでいきましょう」
「……こんな作戦で上手くいくのか? って思わないのか?」
「思わないわ。それに考えたのは達花くん、あなたでしょ? もっと自信持ちなさいよ」
「……うん」剛羽にも同じようなことを言われたなと反省しながら、誠人は続ける。「ここからが重要だ。蓮にはもう2つ弱点がある」
「え、2つも!?」
「よく見ておけ」と、誠人は剛羽たち4人の試合を巻き戻す。「鞍馬の弓矢を食らう前、蓮は獅子王に接近戦で相当追い込まれてた」
「こんな蓮くん、初めて観たわ……」
一方的に押し込まれる剛羽を観て、耀は信じられないといった表情になる。
最近でこそ剛羽との決闘は瞬殺されずに済むようになってきたが、始めの頃は自分たちは開始1秒も経たずに戦死させられていたのだ。それを考えると、この炎児という選手は相当な実力なのだろう。
「これが11連続以外の1つめの弱点だ。蓮は純粋な接近戦能力はそれほどでもないんだよ。それを個心技で補ってるんだ」
「だから、超接近戦に持ち込むのね」
「まあ、蓮の弱点だからっていうのもあるけど、張り付く理由は他にもある……神動、キミがいるからだ」
「私?」きょとんとした顔になる耀。
「神動、此間の決闘で、蓮のカウンターに反応してただろ? 多分、キミなら蓮の加速に追い付ける」
「ま、蓮くんの加速に追い付けるって……やっぱり私って天才――」
「――うるさいうるさいうるさーい! 追い付けるって言っても、遅い方の加速だ! 調子に乗るんじゃないぞ!」
「調子になんか乗ってませんぅー。それで、遅い方の加速って?」
「……砂刀先輩たちを仕留めたのは例外として、蓮は加速を2種類使い分けてるみたいなんだ。その2つを比べて遅い方の加速には神動は追い付ける」
「それじゃ速い方を使われたら終わりじゃない」
「いいや、そうとも限らないぞ。基本的に、蓮は遅い加速の方を常用してるみたいなんだ」
「手抜きしてるってこと?」
「速い加速の方は動きが大雑把になるからだ。多分、まだ自分の速度に振り回されるんじゃないか。遅い加速の方は細かい複雑な動きができるのに、速い加速の方は直線的な動きが多い――つまり、動きが読み易い。だから、神動は蓮の速い方の加速を引き出してくれ」
「分かりました。私がアシストで達花くんがフィニッシュね」
「でもこれはあくまで蓮を焦らせるためだ……すまない、神動。こんな作戦でも、キミがいなきゃ成り立たない。僕1人じゃ――」
「――いいじゃない、それでも」
「え?」と、俯いた誠人は聞き返すように顔を上げる。
「1人で勝たなきゃいけないなんて誰も言ってないわ。それより、こんなに細かいところまで調べられたことに胸を張るべきよ」
耀は、誠人の2ヶ月に及ぶ研究成果である資料に目を落とす。それから「それに」と鼻を鳴らしながら続ける。「このまま終わるつもりはないんでしょ?」
「ッ!? ……当たり前だ。いつか、蓮もキミも1人で倒せるようになってやる」それから、誠人は椅子から立ち上がる。「だけど今回はキミにフィニッシュ役を譲る――」
「――僕は、蓮の11発目を引き摺り出す」




