弱点
「なんかぁ、ましろくん、大したことなくない?」
「えー、そうかなあ?」
「あずはまだまだね。だって、達花ちゃんに押されてるじゃん。アタシらがやってたらもう勝ってるもん」
「は、まおも所詮は鼻垂れ小学生ってとこだな~」
双葉姉妹の会話を聞いていた玲は、頭の後ろで手を組みながら意味深な笑みを浮かべる。
「鼻水なんて垂らしてないし!」「ないし!!」
噛み付くように言い返すマオと、何故か目をキラキラさせているアズキ。
「だってアタシ、もう大人だし。それに、れいちゃんも敵じゃないって思ってるけどぉ?」
「まおちゃん、すごい、すごーい!」
「舐めん、なっ」玲はマオ(と自分にもして欲しそうな顔をしていたアズキ)の頭に軽くチョップする。「それよか、こうはたちの試合、ちゃんと見とけよ……みうもだぞ~。目閉じてないで観とくんだぞぉ~」
「それにしても、耀ちゃんたち上達したね~」
優那は、耀と誠人に母親のような温かい眼差しを向けた。
耀がダメなら誠人が、誠人がダメなら耀が。二人は剛羽に休む暇を与えまいと攻め立てている。味方同士の距離間が近いながらもそれぞれが躍動し、数的有利な状況を存分に活かしている。
「あ、あの優那先輩……サーヤさん、サポートし難そうですね」
「うん、あれだけ敵味方が入り乱れてると味方にぶつけちゃうかもしれないからね」
つまり、事実上、剛羽は一人で耀と誠人を相手しているのだ。
そしてこの状況は、意図的につくり出されたものだと、優那は考える。
(多分、耀ちゃんたちの狙いはこうくんかな)
思い返すのは決闘開始後すぐのこと――誠人がサーヤに突っ込んでいったが、剛羽に難なくカバーされてしまったシーンだ。
スピードのある耀であれば剛羽の追撃を受ける前にサーヤを叩けるかもしれないが、そもそも誠人単体では剛羽を足止めできないだろう。
以上のことから、誠人が剛羽に捕まった時点で、剛羽を足止めしてサーヤを倒すという作戦は放棄されたはずだ。そして次に打ち出された策が、まず剛羽を倒すことなのだろう。
(でも、こうくんを倒すのは簡単じゃないと思うけど……)
とそこで、戦況が動く。
耀たちを捌いていた剛羽が個心技を使って、耀の攻撃をかわしたのだ。
「お兄ちゃん、すごい!」
「そうだね、今のはこうくんじゃなきゃかわせないタイミングだったね」
「アタシだってあれくらいできるもん!」「あずきもできるよ!」
「まおもあずきも背伸びしてんなぁ」
しかし、今の攻防で注目することは剛羽の個心技だけではない。
歓喜する美羽を横目に、優那は冷静に分析する。
(こうくん、今回避するのに初めて個心技使った……)
そう、これまでは多少危ない場面があっても体捌きなどで凌いでいたのだ。個心技を使わざるを得なかったのは、サーヤのサポートを受けられなくなったこと。
そしてそれが狙いで、耀と誠人は味方同士で刃がぶつかりそうなほど密着し、剛羽を孤立させたのだろう。
これほどシビアな連携をするのは、単純に接近戦で優位を取るためだけではないと、優那は察する。
(こうくんの試合、特にこうくんが負けた試合をよく研究してるね)
《IKUSA》があれば選手の情報はいくらでも引き出せる。剛羽のように有名選手であればなおさらだ。
そして優那の予想は的を射ていた。研究していくうちに誠人たちは気付いたのだ――剛羽が接近戦を苦手としていることに。その苦手を個心技でカバーしていることに。
先程から耀と誠人の攻撃はその激しさを増し、徐々に剛羽は追い込んでいる。それでも剛羽が何とか持ち堪えているのは、個心技《速度合成》のおかげだ。
しかし、優那には剛羽が一杯一杯であることが分かった。
(強い人に勝ちたいならまず相手の長所を崩すこと、あとは自分たちの長所で勝負すること……って、いつだかアドバイスしたけど)
優那は感心するように、そして少し驚いたように内心独りごちる。
(多分、耀ちゃんたちは知ってるね――こうくんの個心技の弱点を)




