あの人の味方に……
やっとあの人出せました汗 あ、タイトルの「あの人」とは別のあの人です。かなり強引なねじ込み方をしてしまいましたが、それも含めてお楽しみください!
チーム九十九への出稽古終了、育児館訪問、翌日。
剛羽は早速、チーム上妃の練習に合流していた。
「勝負だ、双葉姉妹!!」
「もしかして~リベンジマッチってやつ、達花ちゃん?」「あべんじゃーだ!!」
「ふ、一昨日の決闘はノーカウントだ。なぜなら、あのとき僕は本気を出していなかったからな!!」
「え、そうなの!?」「なんかすごそう!!」
眼前では、誠人と双葉姉妹がこれから個人戦をやろうと息巻いている。双葉姉妹はあの夜の一件以来、チーム上妃の練習に参加しているそうだ。
「こうは、出稽古、もういいのか?」
《闘技場》が展開されるのを見ていると、隣にいた守矢玲がふいに声を掛けてきた。
確か玲は自分が出稽古に出ると言ったときあまりいい顔をしなかったなと、剛羽は思い出す。
「ああ、少なくとも代表決定戦まではここで練習する」
「それ、どういう意味だよ?」
「出稽古自体はいいと思ってるって意味だ。九十九先輩のチームの練習、すごかったぞ」
「そりゃまあ、施設は豪華でいい選手も揃ってるしな。山伏先輩もしっかりしてるし……」
言いながら、じゃあどうして戻ってきたんだという顔になる玲。
剛羽はここだと思って訊ねる。
「前から守矢に聞いてみたいことがあったんだ。どうして守矢はこのチームにいるんだ?」
「どうしてって……」
「実力もあるし、練習もきちんとこなしてる。春の入部試験に参加してたのも試合経験積むためだろ? ……もっと上に行きたいって思わないのか?」
そう、チーム上妃での練習に「停滞」「低下」という危機感を覚え、チーム九十九へ出稽古したいと思った自分と同じように。
玲からは自分と同じ匂いがすると、剛羽は常々思っていた。
「なんか、こうはに褒められると照れくせえなぁ、へへ」
「守矢の出てる試合は観た――」
ここ一年、玲は個人戦の大会に積極的に出ており、チーム戦にも参加している。但し、チーム戦の方は一人エントリーの選手たちを振り分けて結成された即席チームで、だが。
「――前、九十九先輩のチームにいたんだろ」「ッ!?」
瞬間、頬を掻いていた玲からその緩んだ笑みが消え去り、半目でこちらを見てくる。
「こうは、やっぱり腹黒い」
「や……やめろ。人聞きの悪いこと言うなよ。それで、なんでこのチームにいるんだ?」
その質問は「このチームにいる理由」を聞くものから「どうして九十九のチームを辞めたのか」に変わっていた。
「なんで、かな……」
「自分でも分からないって言うのか?」
「う~ん、そういうわけじゃねえけど……でもまあ、関係あるとしたら一年前のことかな」
「一年前?」
「チーム内でちょっと揉めてさ……意識高い系のやつらはほとんど転校しちゃったんだ」
「……九十九先輩が関係してるのか?」
「ご名答……ちっ」
当時のことを思い出したのか、玲は顔を険しくさせて舌打ちした。よっぽど嫌なことだったのだろう。
そして剛羽は思い至る。転校していった「意識高い系」という者たちの中には、玲も入っていたのではないかと。だが、仮にそうだとしたら、彼女がここにいるのはおかしい。
「守矢も意識高い系、だろ? なんで転校しなかったんだ?」
「するつもりだったぜ。だって、あたし、転校した連中の中で中心人物だったし。九十九に――九十九先輩に文句言ったのも、あたしだしな」
玲の中で、九十九たちと揉めていた当時のことが思い出される。
真っ先に浮かんだ光景は、チーム九十九のメンバー十数人が転校することで、事態が収拾しようとしていたときのこと。
放課後、校門前に一人の女子生徒がいた。優しそうな見た目で、実際本当に優しいお姉さんみたいな人だ。
校門を潜り下校しようとした自分は、今日もまた声を掛けられた。そしてまた自分は首を横に振った。
軽く挨拶をしてから帰途に就く。が、少し歩いてから何となく振り返ってみる。校門にいた女子生徒は、下校する生徒たちにまた声を掛けていた。
声を掛けられているのは、自分と同じ立場の人間。女子生徒が何やら説得するような仕草をみせているが、相手は首を横に振るばかり。そんなやり取りが来る日来る日も、まるでループしているかのように繰り返される。
(…………)
なのに、だというのに……女子生徒は笑顔を絶やさない。しかし、時折見せる「その」表情を、自分は知っていた。自分は感情の機微に特段鋭いわけではないから、多分周りも気付いている。気付いた上で、知らないふりをしているのだ。
でも、それも仕方のないこと。九十九学園に残ることは、自分たちにとって停滞や低下に他ならないのだから。
(…………)
分かっている。全国を、その頂点を目指す自分にとってマイナスになることは、少なくともプラスにはならないことは分かっている。
たった一度の高校での部活動。上を目指さないなんて勿体ない。こんなところにはいられない。
なのに、何故か自分は――
「――あの人の味方になりたいって、思っちまったんだ」
「あの人……?」
「あっ――今のなし! な、なんでもねえよ……」
いつの間にか口を衝いて出ていたらしい。玲は顔を真っ赤にしながら、ばっと手の甲で口元を隠した。
「――うんうん、レイレイにもいろいろあったんだね~」
「「どわぁあああああ!?」」
剛羽と玲は、飛び上がりそうな勢いで驚きの声を上げる。いつの間にか、二人の間に女の子が立っていたのだ。
西洋人形のような外見の少女は、腰まで伸びるサラサラな銀色の髪を揺らしながら、マゼンタ色の瞳を愛嬌たっぷりに輝かせ、その透き通るような白い手でピースサインを連発している。歳はどうだろうか……美羽と同じか、もしかしたら小学生という可能性もある。
「双葉姉妹の……妹? 実は三姉妹だったとか?」
「きゃあ~、まだそんな歳に見られてるよ~」少女は黄色い声を上げながら玲の脇腹を肘で突っ突く。「でも、ノンノンノン、わたし、ここの寮長だよ。よろしくね、マッシーくん」
「マッシー? 寮、長……?」
「び、びっくりしたぁ……もう、うーさん、おどかしっこなしだぜほんと~」
「え、守矢、知り合いなの――」
「――あ、ウイカさん!」と、サーヤと個人戦をしていた耀が駆け寄ってきた。「ご無沙汰しております」
「あ、ヒカリ~ン、元気してたぁ? ちょっと見ない間に色気付いたね~」
「そ、そ、そんなことないです。それよりウイカさん、もう用事の方はいいんですか?」
「ドントウォリウォリ~」
自分を置いて進められる会話を前に、剛羽は頭上に疑問符をいくつも浮かばせていた。何がどうなっているのかよく分からない。
今日も空き地の隅っこで練習していた美羽も剛羽のところまでやってきて、その小さい身体をさらに小さくして兄の背中に隠れ、耀や玲と会話している寮長と名乗った少女に窺うような視線を送っている。
「大丈夫だよ、みう。うーさん、変な人だけど怖い人じゃねえから」
「守矢、知り合いなのか?」
「知り合いもなにも、この人、うーさんはチーム上妃の監督だよ」
「へえ、監督…………監督!?」
「イェス、わたしがチームユナナのボスだよ! 洲桜ウイカ、よろしくぅ!」
「ウイカ・マリーって言えば分かるっしょ?」と、玲がその名を口にした瞬間、剛羽ははっとなった。
ウイカ・マリー。学生時代に欧州から日本に砕球留学してそのまま日本でプロ砕球選手として活躍し、現役時代は《戦女神》の二つ名で恐れられていた。
勿論、剛羽はウイカについて知っていたが、現役時代より随分髪が長くなっていたため、ぱっと見ではあの《戦女神》だと気付かなかったのだ。
「もう、歳バレちゃうじゃ~ん。マッシーもミウミウも、なんでも相談してね? あ、でも、わたしにはけいちゃんがいるから、性的なこと求められても応えられないから……ごめんね?」
「いやー、それは心配ないでしょ。流石にうーさんは需要――あ痛!?」
「レイレイ……わたし、傷付いたよ?」玲の脇腹を突いたウイカは目を潤ませる。
剛羽と美羽はそんなウイカに圧倒されながらも、軽く自己紹介をした。
「……えっと、ウイカさん、確かさっき寮長って言ってましたよね? 寮長って、いつも詰所にいるお爺さんじゃないんですか?」
「そのお爺ちゃん――元夫さんは代理。わたしちょっと私用で出てたから、お願いしたんだよ。因みに、元夫さんはけいちゃんのお父さんね」
「けいちゃん?」
「洲桜慶太郎、入部試験で解説してた人」と、玲。
あの寡黙な人とウイカがどうやって出会ったのか今の関係になったのか気になる。
「練習中だったのに邪魔しちゃったね、はい皆戻って戻って!」
ウイカはパンパンと手を叩き、剛羽たちを散らせる。何だか監督っぽい。
「――それで、守矢、あの人って?」
「だぁあ!! その話はもういいから! こうは、基礎練中だろ!?」
首を傾げる剛羽を余所に、玲は麓から戻って来たチーム上妃のキャプテン、優那に視線を送った。
「ゆうさん、ラップタイム落ちてきてるよ! もっと足動かして!」
「もうダメ~、足がおかしくなっちゃうよ~。あ、ウイカさん!」
「ユナナ、久しぶり~! 元気そうでなによりだよ!」
「ほら、ゆうさん、足止めない。次のラップ、前のラップよりタイムよくなったら、今日はケーキ食べてもいいってさ!」
「おい、俺はそんなこと――」
「――まあまあ」守矢は剛羽の肩にぽんと手を置く。
「……モンブラン、食べてもいい? 二つ」
「後で、あたし、不四家まで買いに行ってくるよ」
「不四家のモンブラン!?」
息を吹き返して山道を駆け降りていく優那。
剛羽指導の元、嗜好品の摂取を制限していたため余程嬉しいのだろう。
「優那先輩ってほんとお菓子好きだよな。なのにあの体型……謎だ」
「脂肪は全部胸にいってんだよ。だから丼ぶりみたいなブラ付けてんのさ」
「丼ッ!? ま……まあ、最近はランニングもきちんとこなしてるし、その成果だろ。よりキャプテンらしくなってきたよな」
「――ちょっと、蓮くん! 今日のサーヤ、口が悪過ぎるわ。設定変えたでしょ!?」
「なに余所見してんだ雌豚があ!! 出荷されたくなかったら、そのでけえしりっケツに力入れろやこらあ!! ほらあもっと啼けえ!」
「お兄ちゃ~ん、球の七個同時操作ができないよ~」
「無双姉妹、ウィン!」「うぃ~ん!!」
「ま、アタシらに掛かればこんなもんね! なにが本気出してなかったよ、達花ちゃんの嘘付き、べ~」「べ~」
「蓮ぉ~、僕はどうすれば勝てるんだぁ~」
「マッシー人気者だね~」
空き地の各所から上がる助けを求める声。それを楽しそうに見守るウイカ。
ちょうど《心力》の基礎トレーニングを終えた剛羽は、やれやれと首を振ってから「ちょっと行ってくる」と玲に断ってから歩き出す。
そして、玲は向き直ってかなり小さくなった優那の背中を見ながら呟いた。
「……ゆうさんは最高のキャプテンだよ」
美羽の出番がぁ……




