無双姉妹(ヘル・シスターズ)
ついに小学生たちが登場です!
「砕球!!」から読んでくださってる方々はタイトルで「おや?」となったのではないかと……!!
マオ(♂)の登場を楽しみにしていた方、ごめんなさい汗
春の仮装収穫祭が無事幕を下ろし、時刻は夜9時を回った頃。
「よーし、始めますか」
初大会初優勝を飾った耀と誠人は、寮の近くにある河川敷のグラウンドに来ていた。
「流石に今日くらいは控えた方がいいんじゃないのか?」
「逆です。大会が終わった後は「今日はいいか」ってなるじゃない? そこで気を抜かずに練習するのよ。周りが休んでいる間に差を付けられるわ」
「でも、蓮は休むのも練習って言ってただろ」
「うっ……は! で、でも、ほら、軽く練習することで疲労が抜けやすくなるっていうじゃない。そうそう、積極的休養ってやつよ」
「この場合はクールダウンじゃないか? それならさっき、五駅前から降りてここまで走っただろ。それに早く帰らないと、上妃先輩、心配するんじゃないか?」
誠人は至って冷静に指摘する。
「むぅ、蓮くんをぎゃふんと言わせてやるって、あの夕陽に誓ったじゃない! あれは嘘だったのかしら!?」
「なっ、急に恥ずかしいことを言うな! それに、そんなロマンチックな感じじゃなかったはずだぞ!?」
「ふん、じゃあいいわよ、達花くんは早く帰っておねんねすればいいわ。私一人で練習するから」
「……僕も行く」
楽しむ色が強いとはいえ――大会で優勝したばかりだというのに、ライバルがこれから練習しようとしているのだ。負けていられない。
早速、軽く準備体操をしてから、疾走緩走を繰り返すインターバル走を始める。
「はぁはぁはぁ……大体、言われたことだけやってるだけじゃいけないと思うのよ。思考停止ってやつね」
「ふ、それはキミがなにも考えずに練習してるからさ。蓮も上妃先輩も僕たちに自分で考えさせるために、敢えて細かいことは言わないんだ」
「え、そうなの!?」
実際、剛羽と優那はそこまで考えてはいないのだが。
緩走で息を整えている間にそんなことを言い合いながら、疾走&緩走を一セットとして十セットを終えたところで、二人は切り上げることにした。十セットで使い切るように走っていたので、もう足がガクガクだ。
そんな痛みが心地よくなってしまうほどの達成感に満たされながら、誠人はグラウンドで大の字になっていた。
剛羽の言葉に感化され、チーム上妃に仮入団してから早くも一ヶ月以上が過ぎている。
今までずっと一人で練習してきた。《最弱》の名を冠する自分とトレーニングしてくれるような物好きは中々いなかったからだ。
自分なりに追い込んできたつもりだが、一緒に練習する――競い合える仲間ができたことで、さらに追い込めるようになった気がする。
「ぅぷっ……ぉえええええ」
こうしてリバースしているのも、追い込めた証左だろう。
暗くなった河川敷は閑散としており、芝生の土手を昇ったところにある外灯がその存在感を増している。
そんな空間で、誠人は大の字のままぐっと伸びをした。
胸一杯に空気を吸い込むと、たちまち気分が晴れる。
練習を続けても、この先どうなるかは分からない。ただ、やりたいからやる。今はそれで十分だ。
剛羽たちと練習することで、自分はまだまだレベルアップできると分かった。今年の入部試験に落ちた時点で諦めていたら、知り得なかったことだろう。まだまだ成長できる、そう思うだけで練習への活力が生まれてくる。
よしやってやるぞ、と気持ちが上がってきたところで。
「え~、誰かいるんですけどぉ」
「あ、ほんとだ~!! おともだちかなぁ?」
「なわけないじゃん。ちょっと、なに勝手に使ってるの!?」
「なにもんだ~」
空から声が降ってきた。まだ幼さの残る声だ。
仰向けに寝転んだまま視線を動かすと、芝生の坂を昇った先にあるランニングコースのところに、二人組の子どもが立っていた。腕を組んでこちらを見下ろしている。
「ここ、アタシらのナワバリだよ。出てってよ」
「おでかけおでかけ~」
と、順番に喚く。よく見れば、自分に言葉を掛けてきたのは、小学生くらいの子どもだった。双子だろうか、二人とも顔がそっくりで髪が長いか短いかでしか区別が付かない。そして、少女たちは九十九学園初等部の制服に身を包んでいた。
(こんな夜中に……まったく、これだから最近のガキは)
「ふ、年長者に対して礼儀がなってないな。剰え深夜徘徊とは、初等部で何を学んでいる?」
「そっちこそ、礼儀なってないじゃん。アタシらを誰だと思ってるの? あず、説明してあげて」
「はーい。えっと、あずきたちのしょうたいは……じゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃん! 《無双姉妹》だよ!!」
「ヘル……シスターズ?」
どこかで聞いたことがあるなと、誠人は記憶を探る。が、喉の辺りまで来ているのだが、思い出せない。
そうこうしている間に「とう!」と小学生二人が勢いよく土手を滑り降りてきた。が、坂を降りたところに置いてあった耀と誠人のバッグに躓いて、髪をツーサイドアップにしている少女だけが転倒。暗くて足元がよく見えなかったのだろう。
「まおちゃん、だいじょうぶ?」
「これくらい、か、掠り傷……っ~~~~~~」
「何を強がっている。早く水洗いして汚れを落とせ」
「こんなのつばつけとけばすぐなおるし! ぺっぺっ。それにこの傷はめいよの傷なんだから、ぜんぜん痛くなんかないもん!」
「軽いな、名誉の傷!?」「さすがまおちゃん!」
意地を張ってないで早く治療した方が賢明だと思ったが、言ったところで聞く耳も持たないだろう。これも若さゆえの誤ちというやつだろうか。
「ちゃんと水で洗うんだぞ」
誠人は二人に構うのを止めて整理体操をしようとしたところで。
「ちょっと待ってよ、アタシたちとバトろう!」「ばとみんとん!」
「……は?」
眼前の小学生たちは、身に付けた新品の砕球用具を嬉々として見せ付けてくる。
「これ、この間発売されたVicter社の籠手よ! 超かっこいいでしょ?」
「もらったんだ!! いいでしょう~」
「特別に、籠手のサビにしてあげる!」
「ふ、小学生と喧嘩などするものか」
「じゃあ、アタシらのシマを勝手に荒らした罰!」
「そうそう、おしおき~」
決闘をせがんでくる小学生たち。最近のは血の気が多いなと、誠人は呆れた。
「生憎、小学生のお遊びに付き合うほど、僕は暇じゃないんだ」
誠はふんと鼻を鳴らして「早く帰らないとパパとママが心配するぞ」と付け加えた後、今度こそ整理体操を始めようとする。が、
「もしかして~、負けるのが恐いんでしょ~。チキンじゃん」「いっしょにあそぼうよ~」
(このガキ…………)
いや、ここは大人の風格を見せつける場面だ。
そう、所詮ガキの戯言だと切り捨てる場面なのだと、誠人は自分に言い聞かせる。
「僕は無闇に喧嘩なんてしない。そんなことをするのは弱いやつだ」
「よ、弱いやつ!?」「かっこいい!」
「キミたちとは、戦う理由の格が違うってことだ!」
誠人はくわっと表情をつくって声高に宣言した。まるでヒーローのような決め台詞と仕草だ。実は一度言ってみたかった――しかし。
「ぷぷぷ~、戦う理由の格が違うんだよ! だってさ。いい歳してなにそれ。自分に酔ってるだけじゃん、かっこわる~」
「…………何ィ?」
好きなヒーローものの中でもトップスリーに入る名言を侮辱され、握った拳に自然と力が籠った。
落ち着け相手は小学生だぞ、という理性はとっくに機能不全を起こしており、誠人の中で激しい衝動がふつふつと燃えあがる。
「僕をここまで怒らせるとは……泣いても知らないぞ、ガキども」
「泣くのはそっちでしょ。アタシら強いから泣かないし」「はやくあそぼあそぼ!」
誠人はバッグから補助武器庫を取り出してくる。
白を基調とした円筒状のそれは、自分にとって個心技に等しい。
「あ、ほるだーだ! めがねのおにいちゃん、ほるだーつかうの?」
「それ小学生が使うやつじゃん、ダッサ~」
「ふ、そう言っていられるのも今のうちだぞ。こいつを使えば……」
とそこで、突然黙り込んだ誠人は手にした補助武器庫をバッグに放り込む。剛羽に奨められてから愛用している得物を、今日の大会で活躍できた要因となった得物を放棄する。
「ホルダー、使わないの? もしかして、アタシに言われて使うのはずかしくなっちゃったとか~?」
「違う。ガキたち相手には、これを使うまでもないってことさ」
「うっざ、超調子乗ってるし!」
「まおちゃん、はやくはじめようよ~」
まおと呼ばれた少女は腕を押されたり引っ張られたりする。
「まったく、あずはワガママなんだから。それじゃあ始めるよ。アタシは双葉マオ、よろしくね」「わたしはふたばあずき、ごねんせいで~す」
「じゃあ、次はそっちの番だよ。眼鏡のお兄ちゃんはどこの誰なの?」
「……僕は」
誠人はだんっと力強く一歩踏み出し、
「僕は達花誠人――砕球部のエースになる男だ!」
堂々とそう名乗り上げた。決闘が、始まる。
というわけで、マオ「くん」がマオ「ちゃん」になりました
剛羽と美羽が兄妹なので、マオとアズキは姉妹にしようと思った次第です
べ、別にショタよりロリが好きだからってわけじゃないんだからね!!




