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砕球!! G2  作者: 河越横町
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補助武器庫


 Victer社主催「春の仮装収穫祭」、第一試合。

 

 チーム上妃が戦う今回のステージは、中世ヨーロッパ風の都市の廃墟。城壁で囲まれた街が戦禍に呑まれたという設定だ。

 鋭角の屋根が特徴的な家々はそのほとんどが半壊し、崩れ落ちた残骸が通りを埋める。整備されていた石畳は捲れ上がり踏み砕かれ、もはや見る影もない。

 都市の中心にそびえ立つ大聖堂は窓が割られ、正面にあるシンメトリーの双塔がどちらも中ほどからボキッと折れている。

 街のそこかしこから立ち上る黒い煙。むせ返るような灰色の煙幕。

 そんな荒廃した街中を、仮装した選手たちが駆け抜ける。 

 

 そして、耀に襲われている味方の球操手のもとへ急行しようとした守手の少年――コスチュームはゴーレム――は、突如視界が強く揺さぶられた。

 半壊した家の影から絶妙なタイミングで飛び出してきた誠人が、不意打ちでタックルを決めたのだ。


(入部試験のときよりキレが上がってる……ちゃんと練習してるんだな)


 剛羽は、ラグビー選手のようなタックルで相手を転倒させた誠人に、内心賛辞を述べる。

 相手の守手を足止めして球操手に合流させないのも、動手の役割の内の一つだ。


「くっ、しつこい!」


「それで結構! 動手にとってはこの上ない褒め言葉さ!」


 相手の守手は全力で走って振り切ろうとするが、誠人にぴったりと張り付つかれ、マークを剥がせない。

 その間に、耀がまたも相手の球を粉砕し二点を追加した。これは誠人のプレーが生んだ得点だ。

 そして遂に、業を煮やした相手の守手が強引な正面突破を敢行する。相手側としては無駄な戦闘は避けたかったが、そうこう言っていられない。

 誠人と相手の守手の近接戦が始まった。


「おい、剛羽、アレって……」


 炎児は誠人の手に収まる細長い物体を凝視する。


「ああ、補助武器庫だ。市販の一番安いやつな」


 補助武器庫。設計者によって予め登録されている剣や盾、銃などの武器を、使用者の《心力》を勝手に引き出して錬成してくれる代物だ。

 使用者本人の意思命令が下されると同時に、ある程度の技術が要求される武器錬成をサポートしてくれる。

 小学生ぐらいでは《心力》で武器を錬成するのは難しいため、特に武器錬成に向いている系統――緑型――の子どもはこの補助武器庫を愛用するのだ。


「でもホルダーって小学生で卒業するやつだろ? なんでそんなもん……」


 そう、補助武器庫は、《心力》の練度が未熟な小学生たちをサポートする上で欠かせないものだ。が、ある程度のレベルになってくると物足りなさを感じてしまう。

 その具体的な理由の一つは、補助武器庫が錬成する得物の耐久度。

 使用者の《心力》を勝手に引き出す構造状、安全面を考慮して引き出す《心力》の量はあまり多くない。それはつまり、得物の威力が抑制されるということと同義だ。そんな鈍らでは上位陣に到底太刀打ちできない。

 

 そして二つ目は、補助武器庫の錬成速度。

 遅くはないが速くもなく、自分で武器を錬成できるような――補助武器庫を必要としない相手には、どうしても遅れを取ってしまうのだ。

 

 以上の理由により「補助武器庫は自分で力を操れない初心者の道具」という認識が一般的である。

 それに関しては、剛羽にも異論はない。が、あくまで一般的であって、誰にも当てはまるとは思わない。

 大型映像装置に映る誠人の姿に、炎児だけでなく他の観客たちもざわめき出した。そのほとんどが、「何故、高校生が補助武器庫を使うのか?」という疑問・嘲りを含んだ言葉を口にしている。


(見た目がどうとか、そんなものは戦場げんばじゃ役に立たない。使えるものなら小石でもなんでも使え)


 使えるものなら小石でも何でも使う――誠人も同じ考えだ。

 剛羽に補助武器庫を奨められた当初は、それを使うことで周りにどんな反応をされるかと気にしてしまった。が、今はそんな迷いはない。

 この小学生向けの道具を使ってでも、どんなに格好悪くても強くなると決めたのだから。


「なんだよ、小学生かよ!」


「そうさ、これが僕のスタイルだ!」


 猛練習をしているのは耀だけではない。自分だって動けなくなるまで鍛錬を積んできたのだ。

 自分と耀とでは、持っているものが違うことは分かっている。

 それがどうした。だからどうした。それくらいの理由ではあきらめられない。同じ仮入団という立場の耀には負けられない、負けたくない!


「蓮、神動、僕はキミたちに負けないからな!」


 誠人は手にした補助武器庫を剣に変化させ、打って出た。


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