仮装大会
剛羽がチーム九十九に出稽古に出てから三週間――チーム上妃に入団してから一ヶ月と一週間。
日曜日、東卿都内某所にて。
チーム上妃はVicter社主催の大会に参加していた。
Victer社。二〇世紀初頭英国で誕生したスポーツ用品メーカーで、砕球用品を軸に事業を展開したパイオニアであり、世界最古にして世界有数の砕球カンパニー。
そして、優那の両親が社員として家族として深い関係を持つ企業でもある。
「――ちょっと、蓮くん!!」
大会の会場である東卿ドーム前、人込みを縫ってやってきたのは耀だ。
「おう、神動」
「おう、じゃないわよ。優那先輩から聞いたわ、あなた、大会出ないんですって? せっかく実践の機会なのに、どうしたのよ」
「俺はファンイベントは出ない」
「とか言って、本当はこういうのが恥ずかしいだけじゃないの?」
耀はほれほれと自身の衣装を見せびらかす。
フリル付きのスカート、純白のエプロン、頭にちょこんと載ったブリム。
まるでメイドのような――訓練用人形サーヤのような格好だ。
「べ……別に恥ずかしいとかじゃないからな。仮装大会だったか? そういう浮ついた感じの嫌なんだよ」
「たまにはいいじゃない。息抜きも必要でしょ?」
「っ……まあ、そうだな」
「それで、あなたはなにしにここに来たのよ?」
「ファンイベントと同時開催で練習会があるんだ。俺はそっちに出る。彩玉の強豪が出てくるんだ……噂をすれば」
とそのとき、会場前に集まった群衆がざわめき出した。
耀は剛羽の視線を追い、会場付近にやってきたいくつかの集団を見やる。
「荒晚大学付属だ!」「昨年の彩玉代表だろ!?」「キャプテンの大猩ってあのデカイやつ? タッパあるな」「それよか聖マドレーヌだろ!! 今年こそ県代表だ!!」「いーや今年こそ九十九学園だ。闘王からいいのが来たんだろ」「いやいや霞森もワンチャンあるぜ」
「な、なんだか急に騒がしくなってきたわね」
「彩玉の四強が揃い踏みだからな。ここ東卿なのに、熱心なファンがいたもんだ」
「あの中で誰が強いの……!?」
耀はむずむずした様子で訊ねてくる。強敵を前にしてこの反応。彼女の心の強さを物語っているように思えた。
「うーん、そうだな。黒ジャージのデカイ人……荒晚付属のキャプテン、大猩さんは彩玉切っての球砕手だ。パワータイプだな。で、あっちの集団、一番手前にいる女の人が聖マドレーヌで一年の頃からエース張ってる橋姫さん。県二位の動手で、とにかくやばい。あとは霞森の黒田さん、彩玉国際のガードナーさん、川南学院の王とかだな」
「よ、よくチェックしてるわね」
「これから戦う相手だ、当然だろ」
「ふふ、あなた、嬉しそうね」
「神動も、だろ?」
顔を見合わせた二人は小さく笑い合う。
「それじゃあ行ってくるわ……じ、時間があったら観に来てくれてもいいわよ?」
「ああ、そのつもりだ」
「そ、そう……じゃあ、私の活躍、ちゃんと見てなさいよね!! 修行の成果、見せてやるんだから!!」
選手用入り口に向かって行った耀を見送った剛羽は溜息を付いてから、
「――なんだよ、炎児。久しぶりだな」
背後の少年に声を掛ける。
「おう、久しぶり! じゃない!! こんなの……こんなのあんまりだぜ、剛羽ぁ~」
炎児と呼ばれたツンツン頭の小柄な少年は、顔をくしゃくしゃにしながらがしっと剛羽の肩を掴む。
獅子王炎児。剛羽が闘王学園にいた頃、同じチームでプレーしていた少年だ。荒晚大学付属に籍を置く彼も、これから行われる練習会に参加しに来たのである。
「お前、一人で抱え込む癖あるからさ、闘王からドロップアウトして落ち込んでんじゃないかと思って……なのに、この野郎!! なんだよ、今の美少女!? 彼女できたなんて聞いてないぜ!!」
鼻息を荒げながら捲し立てる友人の手を鬱陶しそうに払った剛羽は、呆れたような表情で答える。
「彼女じゃない、つーか落ち着けよ」
「これが落ち着いていられるか!? 裏切り者には死――あぶっ」
久しぶりに再会した友人の腹部に拳打を叩き込む剛羽。無表情だ。
「炎児、時間大丈夫か?」
「問題ないぜ! どうする、空いてるとこで個人戦でもやるか!?」
「やるのは練習会始まってからでいいだろ。知り合いがこれから試合なんだ、そっち観に行かないか?」
「えー、久しぶりに個人戦やろうぜやろうぜー」
「耀出るぞ」
「よし行こう!! それを先に言ってくれよな!!」




