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砕球!! G2  作者: 河越横町
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迷い


 チーム上妃に入団してから二週間、剛羽たちは一般寮脇にある空き地で練習に励んでいた。専用の練習グラウンドを持たないチーム上妃は、毎日この空き地で練習しているのだ。


「ふんぬぅううううう」


 剛羽に見守られながら、耀は《心力》を一〇秒間全力で絞り出す。入部試験の前からやらせていた基礎トレーニングだ。


「……はぁはぁ、見ました? この淀みない《心力》! 流石私、天才的だ――わん」


「図に乗るな。これくらいできて当然だからな」


 耀の頭を軽くチョップした剛羽は、ぶっきらぼうな口を利く。

 とはいえ、耀の成長ぶりには驚かされてばかりだ。短期間で、また一段と《心力》の出力が上がったように感じられる。


「……ちょっとくらい褒めてくれてもいいじゃない」


「……神動すげー」


「すごい適当!!」


 耀に今後の練習メニューを伝えてから剛羽は、今度は空き地の隅っこで練習している美羽の様子を見に行く。


「美羽、調子はどうだ?」


「あ、お兄ちゃん……!! 見て見て」


 美羽は目の前に転がっている犬球――愛くるしい目の代わりにレンズが取り付けられている仕様だ――をふっと浮かせ、空中を自由に飛び回らせてみせた。球が生き生きと動いているのが分かる。


「ちょっとできるようになってきたよ……!!」


 はにかむ美羽。

 犬球は全球種の中で一番コントロールし易い球だが、これだけ動かせれば上出来だ。


「入部試験のときはリモコンでカメラ動かしてたんだよな?」


「うん、まだ自信なくて……」


 美羽が務めるオペレーターというポジションは、味方へ情報提供したり、逃走ルートの確保・誘導をしたりするのが仕事だが、それらを成り立たせているのはフィールドを映すカメラだ。ここでいうカメラとは、フィールド各所に固定された試合中継用のカメラでは――ない。


 球操手が操る球とは別にオペレーターたちにも球状のカメラが支給され、オペレーターはこのカメラをリモコン、もしくは球操手がするように操って《闘技場》内を見張り、味方をサポートするのだ。


 カメラ一つではとても《闘技場》全体をカバーできないのでオペレーターはいくつかの球を操る必要があり、二番手の球操手をオペレーターに起用するチームも多い。


「でも、優那お姉ちゃんに球の動かし方のコツ教えてもらったら、少しずつだけどできるようになったんだよ」


「へえ、優那先輩が」


「試験前にコーチしてもらったの」


 兄の知らないところで、妹は自分なりに努力しているらしい。


「美羽はきっといいオペレーターになるぞ。次の試合が楽しみだ」


「うん、楽しみにしてて……!!」


 美羽を励ました剛羽は、続いて空き地のど真ん中で大の字になっていた玲に近付いて行った。ちょうどランニングを終えたところだ。


「お疲れ。優那先輩は?」


「ゆうさんはまだ戻って来ないぜ。何回か抜かしたから、まだしばらく終わらないっしょ……んぅくあー」


 寝っ転がったままぐっと伸びをした玲は疲れ果てたような、しかしどこか達成感のある表情になる。


「にしても、すごいハードな練習ぅ。闘王じゃこれが普通な感じ?」


「これくらいなら大会前でもやるな。追い込みの時期だともっとすごい」


「うへぇー、闘王恐るべし」


「でも、守矢、普通にこなしてるじゃないか」


 チーム上妃の部屋で、玲の引き締まった腹部を見たときから思っていたが。

 彼女の運動着から覗く手足を見れば一目で分かる――きちんと鍛錬している選手であると。


「まあ、走ったりするの嫌いじゃないし。ゆうさんと二人のときも練習してたから」


 身体を起こして胡坐を掻いた玲は、剛羽から手渡されたタオルで汗を拭う。その充実した表情は、見ていて清々しい。


「ひかりたち、すごいやる気だよな。なんつーか、ひかりたち見てると負けてられるかってなるよ」


 玲はきちんと練習するタイプの人間で、耀たちと違い実力もある。向上心も強いようだ。だからこそ、そんな彼女に訊きたいことがある。


「なあ守矢、お前どうして――」


「――お、ゆうさん、戻ってきた」


 玲に釣られて見ると、


「足が……おかしくなっちゃうよ~」


 優那が今にも泣き出しそうな顔で麓から戻ってきた。走力に関しては美羽を除けばチーム内でワーストワンをぶっ千切っている。


「あのだらしない走り……優那先輩、日頃から走ってないな」


「こうは、察してやれよ」


 ボトルを呷った玲は、達観したような表情を見せる。

 チームに入ってから名前で呼ばれるようになったことが地味に嬉しい。


「見ろよ……ゆうさんの、デカイじゃん? 走るだけで色々アレだから、控えてんだよ」


「ッ!? な……なるほど」


 服の上からでも分かるほど上下左右に暴れている優那の胸元に思わず見入ってしまった剛羽は、慌てて瞑目した。それでも尚、脳裏に焼き付いてしまうほどの迫力だ。そして畳み掛けるように、先日アレに抱きしめられたことを思い出し、恥ずかしさに沸騰しそうである。


「ゆ……優那先輩、一旦休憩入れましょう」


「うぅ、ありがとう~」「やっさしい~」


「茶化すな。あのまま走らせたら怪我すると思っただけだ」


 優那が美味しそうにボトルを飲む脇で、玲は剛羽に訊ねる。


「こうは、メニュー考えてくれんのはありがたいけどさ、自分の練習はいいのかよ?」


 その質問に、胸の奥が疼いた。

 しかし、剛羽は「問題ない」と答え、にっと意地悪そうな笑みを浮かべて続ける。


「心配してくれるのか? だったら、今から個人戦やろうぜ」


「うわ、藪蛇」


 対する玲は苦笑いしたが、すぐに表情を引き締めて長銃を錬成。


「なんてな。よっしゃ、受けて立つぜ!!」





『自分の練習はいいのかよ?』


 練習を終えて自室のベッドで寝っ転がっていた剛羽は、今日の練習中に玲から掛けられた言葉を思い出す。

 チーム上妃に入団してから早くも二週間が経ったが、剛羽は闘王学園にいた頃との違いを痛感していた。

 

 練習相手やコーチ、グラウンドを初めとする練習環境は雲泥の差だ。闘王学園から追い出されたときに覚悟していたことだが、まさか優那のチームがこんな悲惨な状況だとは思いもしなかった。

 あの優那がキャプテンをしているのだから大丈夫だと、心のどこかで安心していたのかもしれない。

 

 そしてこんなことを考えるきっかけとなったのが先日更新された《IKUSA》の個人ランキングだ。

 二三八位。それが現在の剛羽の個人順位だ。前回より数字を落としている。


(……焦ってるな)


 順位の変動はある程度仕方ない。

 気にし過ぎるのもよくないだろうと、自分自身を落ち着けた剛羽はさっさとストレッチを済まして今夜は早く寝ようとしたのだが……。

 とそこで、トントントンとドアがノックされた。

 こんな時間に誰だろうと、剛羽がドアを開けると。


「こうくん、ちょっといいかな?」


 そこには眉を曇らせた優那の姿があった。


 夜這い……!?

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