反撃開始
『出たぁあああああ! チーム砂刀、キャプテン砂刀鋭利選手の個心技《一尾両断》! 射程五〇メートルの居合斬りなんてズル過ぎる!』
一瞬前まで剛羽たちの周りにあった幾本もの大木が根元から綺麗に切断され、轟音とともに横倒しになっていく。
地形を変えるほどの一撃。
無論、その場にいた選手たちなど一溜まりもない。
『大木などの遮蔽物を、たった一撃で切断しました! チーム義経から二名、チーム山伏から一名の戦死者が出ています。これでチーム砂刀、三点ゲット! 首位に躍り出た! 現在の得点はチーム砂刀が三点、チーム閑花が二点、チーム義経が一点、チーム山伏が0点です』
『砂刀も天才』
『はい、ありがとございます! 砂刀鋭利選手、蓮選手を狙って中盤に集まっていた他チームの選手たちを一撃で掻っ攫っていきました! 作戦通りか!?』
大木が扇状に斬り倒された土地から少し離れたところにて。
(あの拳の殻を一撃で……)
剛羽は、その有り様を大木から真横に生え出た太い枝にぶら下がりながら見ていた。
誠人の言葉を受けてから個心技を使って跳躍し、間一髪で戦死を免れたのだ。
「蓮、何で…………足が、足が……」
剛羽に首根っこを掴まれた状態の誠人は、自分を救った少年の左脚に目を見開く。脛のあたりから下が綺麗になくなっていた。
剛羽一人ならダメージを受けずに回避できたはずだというのに……。
「僕を助けたって、何の得にもならないのに……これは試験だぞ。他のやつらを、チームメイトですら蹴落とすために戦うんだ! なのに、なんで……」
半年前の秋の試験を思い出し、誠人は首をゆるゆると横に振る。
相手選手を引き付けるためにいいように使われ、《最弱》という不名誉な二つ名冠する自分が注意を引いている間に、他のチームメイトたちは死角から奇襲を仕掛けて着実に得点していた。
一人を犠牲にしたチームプレイ。
せこい。自分はそんなことは絶対しないと、誠人は思う。
だが、試験であれば間違っていないことだし、事実チームメイトたちの何人かは試験に受かった。
「――チームメイトだから助けた、普通だろ」
そんな誠人の気持ちを知ってか知らずか、剛羽はぽかんとした顔で答える。
「何だよ、それ。強者の余裕ってやつかよ……」
かっこいいと思いながら誠人は目元を拭う。
戦用複体の状態では涙など流れないが、ついそうしてしまった。多分、生身の肉体に戻ったら目元が赤くなっているだろう。
「それに俺の方こそ助かった。達花がいなかったら俺も戦死してたと思う」
「その、僕の方こそ……ありが――」
「――話は終わりだ。行くぞ、反撃だ」
「ちょ待っ、ひょぇえええええ!?」
剛羽は地上三十メートル以上の高さがある大木の枝から飛び降り、落下の勢いそのままに走り出す。失った右足の脛のあたりからは、白色の剣のような義足が生えていた。剛羽の《心力》は物質錬成が得意な緑型に近い異型なのでこれくらいは朝飯前だ。
美羽と連絡を取り合い、近辺の情報を得る。
「襲ってきたのは砂刀先輩のチームみたいだ。チームでまとまって動いてるみたいだから、相手の球操手も近くにいるぞ」
「ま、まさか、キミ、ここで決着を付けるつもりか!?」
「ああ、あんな出鱈目な攻撃、何発も撃たれたら厄介だからな。それに、今のところ近寄ってくるやつはいない」
「……なるほど、横槍を入れられないってことか」
確かに邪魔はされないが、力と力の真っ向勝負になる。
それだけ自信があるということかと、誠人は呆れながらも納得した。
「こっちも点獲るぞ、達花!」
「ああもう、分かったよ! 好きにしろ!」
他チームまでやってきて混戦になることを避けたい剛羽は、積木になった大木の山の頂きでゆらりと佇む、砂刀鋭利に向かっていく。
対して、待ち受ける落ち着いた雰囲気の剣士は、マフラーの下の口を喜悦に歪めた。
「さっきは手応えがなくてな、拍子抜けかと思ったが……生きていたか、編入生」
「自分、一応闘王でやってたんで」
剛羽は二本の小刀を構えて臨戦態勢に入る。
冷静に、冷静に。湧き上がる闘争本能を暴発させないように。
相手チームのエースに鋭い眼差しを送りながら宣誓する。
「砂刀先輩、俺が相手です」
「面白い――その心臓もらい受ける……!!」




