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砕球!! G2  作者: 河越横町
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圧倒

 

 剛羽たちが敵と交戦していた頃、


『チーム閑花の神動選手、チーム義経に殴り込み! なんてルーキーだ!』


『こ……』


『こ? この雌豚があ、ですか?』


『心意気』


『その心意気やよし! 洲桜監督からお褒めの言葉を戴きました!! しかし、神動選手の前に立ちはだかるのは、九十九学園第一位に君臨する、九十九義経選手です!』


 薄い霧が立ち込める比較的開けた場所にて。

 甘いマスクとポンパドールにセットされた髪が特徴的な少年――九十九義経が悠然と構えていた。高校二年生にして九十九学園砕球部の現キャプテンである。

 

 耀は九十九を視認すると、すぐさま大剣を錬成する。すぐに武器をつくれるようになったあたり、修行の成果が垣間見えた。


「どうも、ボクが九十九義経だ」


 九十九は大仰に腕を広げ、片手を胸に当てながら恭しく礼をした。耀に対して、そして観客席に集まった自身のファンクラブに対して。


『義経、せんぱ~い!!』


 九十九のファンサービスにより、声援が一段と大きくなる。これには流石に他の観客たちも苦笑いだ。


『九十九義経ファンクラブの皆様、静粛にお願いしまーす』


「様を付けろ、このデコ介がぁあああああ!!」「試合終わったら表出ろやこらあ!!」「頭が高いぞ、平民!!」「なに特等席から九十九様のこと視姦してんだよ手前!!」「きー私も視姦したい!!」


『だって九十九義経様ファンクラブの皆様って、どう考えても語呂が悪いじゃないですか! って、真面目に付き合ってたら時間が足りんとです。解説に戻りましょう』


 場外での喧騒を余所に、二人の戦士は距離十メートルを置いて向かい合っていた。


「神動耀です。よろしくお願いしますわ、九十九先輩……ところで、いいんですか、球操手のあなたが守手も付けずに一人で?」


 耀は剣先を下に向けたまま、九十九の背後で浮かぶ子犬をデフォルメした球を見据える。

 一個二点で得点源の球を任される球操手が、単独で行動することはまずあり得ない。最低でも一人以上、護衛として守手を付けるのがセオリーである。


「ボクはこれが普通なんだ。球操手だけどひ・と・りでいいんだ。戦える球操手、《闘将》なんて呼ばれてるね。他にも十年に一人の天才とか彩玉のホープとか、ほんと周りの人間も勝手だよ」


 やれやれと首を振る九十九。満更でもない様子――というよりか、まったくうんざりしていない。


(嫌なの? 嫌じゃないの? ……きっと変わった人なのね)


 耀はそう適当に納得した。彼女も彼女で大概だ。


「まあ確かに、お爺ちゃんが理事長してるこの学園に来るまでは闘王学園にいたからそういう目で見られるのは分かるけどね。闘王にいたって言っても一位取れなかったこともあるし、今はほとんど練習してないから」


「そうですか、昔はすごかったんですね」


 九十九の自分語りを特に気にする様子もなく、耀は淡々と続ける。


「でも、才能があれば絶対勝てるわけじゃないですよね?」


 それから、雑談はここまでにしましょうと大剣を構えた。


「…………神動さん、君はボクにこう聞いたよね? 準備はいいんですかって」


 一方、九十九は顔を引き攣らせながら笑う。それは、一瞬前までのどこか気取った少年という印象から遠く離れた――邪悪な笑み。


「そっくりそのままお返しするよ――準備はいいかい、凡人?」


 瞬間、九十九の周囲一帯に、縦横無尽に走っていた黒線が、突如として生き物のように動き出した。平べったい線が立体的になり、一本一本が大蛇に成り果てる。

 そんな蛇壺の中に放り込まれた耀は一歩動かない。しかし、その表情は切迫したものだ――彼女にはその大蛇の見えていない。

 なにも見えない。九十九と彼の従える犬球ドッグボールしか見えない。

 なのに、確かに、絶対に、自分の近くに何かがいる!!

 そんな恐怖に耀の心が蝕まれていく。冷静さなど保てるはずがない。そして、


「なにがッ!?」


 耀は見えない何かに足を絡め取られ宙吊りにされた。太腿・胴・腕と身体中のあちこちに何かが巻きついてくる!!


『九十九選手が抜きました、個心技《死神サーペントリーパー》! 予め張り巡らされていた黒い線は、まるで大蛇のよう! 罠に掛かった獲物に容赦なく喰らい付く!』


「何か」が見えている観客たちにとっては、無抵抗の耀が無気力にしか見えなかった。そう、見えていないのは《闘技場》内にいる者だけだ。


 耀の顔に迫った大蛇が、カパッとその大きな口を開く。そして、身動きの取れない少女に――斬り裂かれる。

 耀が手だけで大剣を回転させて何かを斬り裂き、次いで顔の付近の虚空に適当に振ったのだ。


『神動選手、反撃!! 洲桜監督、これなら!?』


「神動さん、だっけ? いい勘してるねえ、妬いちゃうよ……でも――」


 九十九は大蛇から解放されて地面に落ちた耀を見下しながら続ける。どこまでも余裕の表情で。

 瞬間、大蛇の群れが四方八方から耀に襲い掛かる。耀はその全てを薙ぎ払うため、一回転して大剣を剛閃しようとする――が、


『九十九は天才』


「――僕には《心力》を噛み砕く《蛇喰こじんぎ》もあるんだよ」


 主を守ろうとした大剣は瞬く間に食い千切られ、小規模な爆発とともに耀は《闘技場》の外に転送された。


 ――チーム義経、1得点(内訳:相手選手1人撃破=1点×1)



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