第2話 入学。
今回はちょっと長くなってしまいました。
水葉と共に玄関口に入った。入ってすぐ目を疑った。下駄箱はない。あるのは妙に巨大な機械だけだ。唖然としていると、後ろから女性の声がした。
「新入生ね。新入生には1人づつ2年生が案内役としてつくことになってるの。えーと、まずはこの機械について説明するね。この機械は貴方たちの履いてきた靴を回収し保管庫に送るの。で、こっちで学校内で履く靴を受け取るんだよ。」
ハイテクノロジーだ。どこからこんな予算が来るのか少しだけ考えたが、役所からでていることはすぐに察しがついた。この学校は石川県から援助金をもらって成り立っている、そのことは既に予習済みだった。
そんなことを考えているうちに水葉はもう新しい靴に履き替えていた。俺も履き替え、先輩に教室の場所を聞いた。
「あ、クラス分けされてるけど最初は教室じゃなくて会議室に行ってね。そこで入学式っていうか説明会があるから。」
会議室がどれくらいの大きさなのかは知らないがおそらく新入生全員は入れるだろう。
なぜなら、この学校は1学年30人しかいない超少数派学校だからだ。1クラス漁業科が2人、運営科が2人、研究科が2人の6人クラスが5クラスある。そのため、入学できる生徒は一般入学が10、特別入学や推薦入学が20人でかなり特殊な学校といえるだろう。
俺は漁ヶ峰家というだけで推薦入学と特別入学の両方が折り重なり、もはや強制だった。水葉はおそらく一般だろうなと思いつつも疑問を投げかけた。
「あのさ、藤夜さんって、一般入学なの?」
ながい廊下を進みながら水葉が答える。
「いや、私は母親が経営者で父親が美大の先生なの。それだけで景観面も運営面もやってくれるだろうって推薦入学よ。」
ああ、やっぱり。こんな眩しい彼女がこんな学校勉強してまで入ってくるわけないかと自分で納得した。
そうこうしているうちに会議室についた。ここまで前を黙々と歩いていた先輩も口を開いた。
「ここが会議室だよ。うん、この学校へようこそ。これからよろしくね。私は水落っていいます。学校で会うのは部活が同じでない限りこれで最後かな。じゃあ、頑張ってね。」
先輩はもと来た道を戻っていく。段々遠くなる先輩の背中から視線を外し、会議室へと目を向ける。緊張しつつ部屋に入る。薄暗い廊下に会議室の光が漏れ始める・・・・・・。
会議室の中では既にクラスごとにテーブルが分けられており、どうやら俺たちが最後らしかった。それにしても・・・・・・。根っからの漁師みたいな坊主やインテリっぽいメガネ。普通にイケメンの奴や、ちょっと残念な女子。それと、何人かの可愛い女子。
(いろんな奴がいるんだな。)
そう心の中で思った。
「色んな人がいますね!」
・・・・・・。また例の水葉だ。こいつは俺の心を読んでいるとでもいうのか。また愕然としている俺にさっきと同様不思議そうな顔で見つめてくる。
とりあえず1組のテーブルに座る。そこに、明らかにベテランな漁師という雰囲気をかもしだすおっさんが入ってきた。先生だということは察しがついた。
「やあやあ、皆さん。入学おめでとう。この学校が水族館経営の学校だということは皆さんご存知のことと思われる。諸君らには教室に住んでもらう。あ、いや、教室というより、寮ひとつが君たちの教室なんだ。寮にはちょっとした水族館が完備してある。6人で協力して最高の水族館にしてくれ。ちなみに、1ヶ月ごとに我々教師が査定し、ランキングをつける。それと、その水族館に足りないこと、つまり課題を与えるからそれもこなしてくれ。ここまでで質問がある人はいるか。」
どうやって水族館をつくればいいんだろうか。質問しようとする時メガネが
「水族館をつくるにあたって、その方法を具体的に聞きたいんですが。」
(ナイスだメガネ。)と思っていると先生が答える。
「ああ、それは各分野に分かれて担当してもらう。漁業科が演習の中で得た魚を水族館に入れることができる。運営科がそれを配置し、研究科が研究したい魚や水温等のデータを取ってもらう。そうやって限られた資金の中で頑張ってくれ。あー、あと、この学校内での資金ってのは1枚の紙のことだ。これに欲しいものを書いてもらえば翌朝仕入れておく。これはランキングに応じて増減するから、上位ほど自由度が増す。つまり最初が肝心ってことだな。よし、他に質問はあるか?」
教室は静寂に包まれている。
「ないな。じゃあ、解散した瞬間からスタートだ。各寮に詳しいことを書いた本を置いておくからそれを見ながら頑張ってくれ。それじゃあ、解散!」
俺たちはゆっくりと立ち上がり移動を開始した。今日は寮で荷物整理をして翌朝から生活がスタートする。俺たちは寮に入り、そこで初めて緊張を解いた。