第1話 高校デビュー。
「ブォォォォン!!ガッガッガッ・・・・・・。」
騒々しいが聞き慣れた音が聞こえてきた。ゆっくりと起き上がり、リビングに向かう。案の定、テーブルの上には朝飯。母さんは食器を洗っていた。
「はぁ・・・・・・、おはよう。」
ため息と欠伸が混じった挨拶をした俺は、顔を洗って朝飯を食べた。いつも通りどの料理も魚、魚、魚。不思議と飽きない母さんの料理を10分で完食し、作業着に着替えて外へ出た。
先祖代々、漁ヶ峯家は漁師としてその業を磨きつづけてきた。今となっては、水産業界の中ではかなり有名な名前になりつつある。俺は小さな頃から船に乗せられ、人生を魚だらけで送ってきた。
外へ出ると、真っ暗な中眩しすぎるほどの光が俺を襲う。
「置いてっちまうぞ。早くせんかい。」
父さんが船の上から叫ぶ。
小学校に入学したときから午前1時の定置網の回収には引っ張り出されている。
「全く、今日は俺の高校デビューだってのに・・・・・・。」
そう、今日は俺の高校デビュー。制服は紺のクールな感じだが、寮生活ということもありスタックがたくさん並んでいて正直気持ち悪い。
「これから寂しくなるわね。」
別れを惜しむ母さんから生徒証を受け取り、少し大人びた気持ちで家を出た。
前日、煌びやかな高校生活を求め、学校について予習はきっちりした。ぬかりはない。
俺がこれから通う高校は、私立アクアリウム高校。つもり水族館高校、略して水高。元々、この辺の海で多種多様な生物がとれることを知った役所が水族館建設に伴い、人材育成のために設立された新設校だ。
この学校は、分野別であり、漁獲科、運営科、研究科の3科目だ。
漁獲科は、俺が入る科目であり、主に漁業についての学科。
運営科は、水族館の構造、経済管理、景観、サービスなど、水族館自体に関わる項目についての学科。
そして、研究科は、魚の健康管理、水温データや出産記録など、水族館内の生き物やその生態系について調査し、それを反映していく学科だ。
家からバスを乗り継いで、田舎のなかの田舎。人が誰も住んでいないような土地に広大なコンクリートの建物。ところどころガラスが貼ってあるところにオシャレだなと感じつつ、意外と大きいことに驚いた。
(割とでかいな)
俺が呟こうとする瞬間に。
「割と大きいなぁ!」
俺はドキッとして
「え・・・・・・?」
思わず声に出して横を見ると、今まで15年間生きてきて見たことがない超絶タイプな少女がキョトンとこっちを見つめている。
「どうかしましたか?」
少女は俺の動揺をよそにドンドン近づいてくる。
「あ、いや・・・・・・。君もここの生徒なの?」
完全に彼女を凝視できないまま聞く。
「はい!運営科の藤夜水葉って言います!貴方は・・・・・・?」
そうか、こんな学校にもこんなに可愛い子がいるのかと、感傷に浸りながらも言った。
「俺は、漁ヶ峰優斗。漁業科だよ。」
彼女はちょっと驚いた顔で耳打ちくらいの声で囁く。
「漁ヶ峰ってあの有名な漁ヶ峰ですよね。そんな人とお友達になれるなんて。ここで会ったのも何かの縁ですから一緒に行きません?クラスも同じみたいですし。」
ハッとして、クラス分けの紙を見た。本当だ。しかも、一緒に行けるなんて、俺にも春が来た。
感動しながら、彼女と一緒に正門をくぐった。俺の高校生活、スタートだ。