プロローグ
ではどうぞ!
「いってきます」
声の主、黒崎 鷹斗はリビングにいる祖母にそう告げると玄関へ向かう。
鷹斗の両親は交通事故で亡くなっている。事故が起きた時、鷹斗もその車に乗っていたが後部座席に座っていたため多少怪我はしていたが命に別状は無かった。この時鷹斗は12歳である。
「さて、今日もいっちょ頑張りますか」
鷹斗は靴を履き、玄関のドアを開け家から出ると、立ち止まり両手を天に向け体をそらすようにして伸びながら言った。
鷹斗の容姿はとても整っている。
身長は男の割りには小さめの165cmほどであり、体は程よく締まっていてスタイルもよく、顔の方は目は大きく鼻もスッとしていてそれぞれのパーツのバランスもいい。
しかし、かっこいいというよりも可愛いのだ。本人は可愛いと言われるのを嫌がっているが、親友には「お前が女なら、今頃惚れてる」と言わせるほどである。
髪はサラサラで色は黒で、グラデーションボブ風のショートボブである。
この髪型も鷹斗が中性的に見られる一つの要因だろう。しかし鷹斗はこのことに気づいていない。
外は、雲ひとつ見当たらない晴天である。
なにかとんでもないようなことが起きそうなほどに…………
「よし行くか」
今の時刻はだいたい朝の7時30分である。鷹斗は、祖母の負担を減らすため、高校生の頃からコンビニでアルバイトをしている。今日のシフトは8時からとなっているので今から向かうのだ。
耳にイヤホンをし、音楽プレイヤーで好きな歌手の曲を聞きながら自転車で勤務先を目指す。
車の免許は持っていない。
事故で味わった恐怖で取れないわけではない。事故はしっかりと乗り越えることができている。
単純に休みの日にはアルバイトが入っていて取る暇がないのだ。
しばらく自転車を漕ぎ、勤め先のコンビニに着くとイヤホンを外し、店内に入り働いている店員に挨拶をし、奥で制服を私服の上に羽織り、持参したペットボトルに入っているお茶を一口飲むとレジにつく。
「お兄ちゃん、今日は学校ないのか? 土曜だとありそうなもんだが」
レジにつくとすぐに常連の客である60歳ほどの穏やかな顔をしたおじいさんが、鷹斗に商品のスポーツ新聞を渡しながら話しかける。
「今大学の一回生でして、一回生ですとまだ土曜日に授業などがはいっていないんですよ」
鷹斗は渡された新聞を受け取り、続いて渡された小銭を慣れた手つきで受け取りながら答える。
「そうなんか。わしは大学に行ってないからあまり仕組みがわからんくてのう」
「大学は思っていたよりも仕組みが複雑で、僕も余り理解しきれてないです。あ、こちらお釣りになります」
鷹斗はおじいさんと軽い会話を行いながら受け取った小銭のお釣りを返す。
「ありがとさん。まあ、無理せず頑張れ」
おじいさんはお釣りを受け取り、鷹斗に檄を送ると新聞を持ち店内から出て行く。
鷹斗は「ありがとうございました」と、言うと次のお客さんのお会計にうつる。
鷹斗の住んでいるところは割りと田舎であり、のんびりと日々を過ごす高齢者が多い。なので、お客さんと軽い会話をしながらでも後ろに並んでいるお客さんが嫌な顔をすることがない。
しばらくレジでお会計をしていると、朝のお客さんがくるピーク(ピークと言うほど客はこないが)が過ぎ、ほとんど客がこなくなった。
店内に客がいなくなると今日の仕事のパートナーである正社員の32歳の男性と仕事を進めながら少し話す。
そしてすることがなくなると鷹斗は、
「僕が見とくので奥で休んでいて大丈夫ですよ」
と、レジで突っ立っている正社員の男性に言う。
「おう、悪いな。またすることできたら呼んでくれ」
正社員の男性は、当たり前のようにそういい片手をあげひらひらさせながら奥へと入っていった。
少しムカつく態度ではあるが、鷹斗はいつものことなので気にしていない。
それから5分ほど経つと、店の自動ドアが開き人が二人入ってきた。
鷹斗は「いらっしゃいませ」と言おうとしたが、入ってきた人たちを見て驚き、うまく言葉がだせなかった。
目と鼻を覆う蝶のような怪しい仮面をつけた二人組みがナイフを右手にもち店内に入ってきたのだ。服装は先に入ってきた筋骨隆々な奴が、上は黒で無地のノースリーブのシャツで下は薄い青色のスタンダードなジーパンという「俺のこのはち切れんばかりの上腕二頭筋を見てくれっ!」といいたげな服装で、それに続き入ってきたのが、上は白で胸のあたりにワンポイントの何かのマークがついたTシャツで下は紺のチノパンというなんとも普通な服装である。
「手をあげろ。変な気は起こすなよ、俺の言われた通りにだけ動け」
先に入ってきた筋骨隆々な仮面の男が鷹斗のいるレジのほうへ、右手にもっているナイフをちらつかせながら歩み寄り、そう命令した。
(人数は2人。体型からして二人とも男だな。これは強盗……だよな。さてどうするか…………)
鷹斗は現状を把握し、これからどうするかと考えながら命令に従い両手をあげる。少し焦ってはいるものの学生にしたらすごく冷静である。
「おい、鷹斗どうした」
そこへ、正社員の男性が少し騒がしいなと感じ、頭の上にハテナを浮かべているような表情で奥から出てきた。
そのことに気づいた仮面の男が、
「お前も両手をあげてこの店員のところにこい」
正社員の男は今の状況を把握したのか、顔を蒼白にしながら仮面をつけた男の命令に従う。
(なんてタイミング悪いときに出てくるんだよ、奥から気づかれないように今の状況を見て現状を把握してくれたら、警察に電話の一本もできただろうに…………)
鷹斗は内心で愚痴りながらこの状況を打破する方法を考え続ける。
すると、仮面の男が、
「よしレジに入ってる金を出してこの髪袋に入れて俺に渡せ」
と言い、ナイフを持っている手とは逆の手でベージュの紙袋を鷹斗の方へ渡す。
鷹斗は袋を受け取るとレジを開け、お札を入れていく。
「酒何個かもっていっていいよな」
鷹斗が紙袋にお札を入れていると、もう一人の仮面をつけた男が、いつの間にかお酒を売っているコーナーのところにおり、何個かお酒を手に持ちながら鷹斗たちの目の前にいる仮面の男に尋ねる。
すると、鷹斗の目の前にいる仮面の男がお酒のほうにいる男に返答するために顔をそちらに向け鷹斗たちから目を逸らした。
(ここだ!)
鷹斗は目の前の男が目を離した隙に、ナイフを持っている右手首を右手で掴み捻る。
仮面の男は突然手首が捻られたことにより痛みでナイフをレジカウンターに落とす。
鷹斗はすかさず空いている左手で仮面の男が落としたナイフを拾う。
「――この野郎ッ!」
鷹斗はナイフを奪ったことにより少し安心した。しかし、目の前の仮面の男はごつい左手で鷹斗の右手を掴み力ずくで自分の右手から引き離すと、鷹斗の右手を掴んだまま痛みから回復した右手をジーパンの後ろポケットにやり、何かを取り出した。
そしてそれを自然に前へ構え、ニヤリと口の端に薄く笑みを浮かべ…………
――バンッ!
仮面の男が取り出した物の発した音が店内を響き渡り、空間を支配した。
音が響き渡る中、鷹斗は何が起きたのか理解できずポカンとした顔を浮かべている。
「…………ゴハッ」
刹那、鷹斗の口から真っ赤な鮮血が吹き出した。
口の中は鉄の味でいっぱいになっている。
鷹斗は吐血した後、胸のあたりに熱さのような痛みを感じだ。次第にそれは大きくなってゆく……
そして、鷹斗は理解した。
…………銃で撃たれたのだと。
正社員の男性が大声で鷹斗に向け何かを言っているが、鷹斗は胸に感じるひどい熱さのような痛みのせいで聞き取れない。
次第に鷹斗の視界はどんどん霞んでいく。
そして鷹斗は、意識を闇に落とした。
誤字、脱字や矛盾点がございましたら教えてくださると幸いです。