僕と彼女の
「よ。今日も頑張ってたな」
「毎日欠かさずお話ししてるよね。応援してるからね!」
「あんなふうに柔らかく笑う人だって知らなかったわ」
「メロメロだな」
僕と彼女のあれやこれは全校生徒に知られているのではないか、と時折疑問に思う。僕が相手を知らなくても、よっと通りざまに声をかけられることが増えた。
その内容のほとんどは彼女と僕のやりとりである。今朝のことを自転車通学の友人が知っていたことがあり、さすがに疑問が湧き上がり、問い詰めたことがあった。
「なんか毎朝隣高の高嶺の花にアタックしてる男って、けっこう広まってるぜ。理想の彼氏だって女どもがきゃーきゃー言ってた」
はあ、そうですか、と思った反面、僕のせいで彼女に迷惑がかかるのはいただけない。僕がどうにかできる範囲ならいいのだが、さすがに彼女の高校に乗り込んでいってどうにかするのはやりすぎだろう。騒ぎを大きくするかもしれないし。
「……って、お前の怖いところは原因を判明させるその速度だよ……」
「芸能人でもないので、僕にはプライベートというものがあります」
「判明してからの締め上げて統制するまでの手際もな。その過程でお前の悪い話を一切聞かないところがまた怖い」
「悪いことをしていませんから」
みなさんお話をしたらわかってくれますよ、と笑顔で告げたが、悪友は顔を引きつらせるのみである。失敬な。まっとうな手段しかとっていません。
僕は失念していた。
彼女のことを考えているからこそ、僕は彼女の領域に足を踏み込まなかった。
だが、台風はいつだって勝手に北上してくる。
つまり。
「おい、てめえか、俺のかわいい妹に手を出した男ってのは」
兄、来襲。