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僕と彼女  作者: 楠木
6/7

僕と彼女5


 僕と彼女の関係は実に緩やかに続いた。

 当初約束したとおり、僕が乗車し、彼女が下車するまでのわずかな間だけ会話をする。実に他愛のないことだ。次のテストがいつだ、とか、部活の予定だとか。そんな知り合い以上友人未満の関係が続いて行った。


 僕としてはこれで満たされた部分はあった。

 僕と彼女は完全なる他人で接点すらない状況だった。初っ端の出会いからして、「ありがとう」のたった一言に舞い上がっていた僕である。今の状況ですら奇跡が起きたとしか思えなかった。


 ただ、人間は慣れてしまう生き物だ。

 僕と彼女の関係も半年も続けば少しは慣れてくる。

 彼女は武道を嗜んでいるらしく、およそ女子高生が興味を持つようなファッションや芸能人の話題はあまり好きではないと僕は結論付けた。彼女が楽しめるように話題を勉強するのも悪くない。興味のないことでも彼女は話を聞いてくれるが、自分が好きなことであれば普段の倍以上は口数が多くなる。

 ささやかな違いだが、僕にとっては大事なことだ。彼女がより楽しく思えるほうが僕には嬉しいのだから。


 実に驚いたことに彼女の交友関係は女性が多い。男性の影がないことは嬉しい限りだが、彼女のようにかわいらしい人にどうして虫は群がっていないのか。

 簡単だ。強力な兄が三人(セコム)いるからだ。三人男が続いた後の末子である彼女がどれほど溺愛されているか想像に難くない。彼女と同じく有段者であることを加味すると、(セコム)を突破できる猛者が今までいなかったのだろう。ありがとうございます。


 こうして電車で出会ったことも、実は運が僕に味方していると思えてならない。いや、彼らの目を掻い潜って彼女に近づく悪い虫か。


 いずれ来る日のために体を鍛えておこうか、と密かに考えている。

 いざというときに無様な姿を見せては彼女との速やかな交際すら認められないだろう。わずかなチャンスもモノにできるよう構えておかねば。


 ちらりと彼女を見た。かたんかたんと電車が揺れる中で、視線が不意に僕に向く。少しばかり潤んだ黒目が僕を見つめている。

 

 あ、と思った次の瞬間、耳まで赤くなった。

 くすりと笑い声が聞こえてさらに顔に熱が集まる。心なしか周囲からの生暖かい視線が向けられた気がして実に実に落ち着かない。

 落ち着いたアルトの声には慣れないし、未だに気合を入れずに真正面から顔を見ることができない。

 さりげなさを装ってななめからちらりと見たり、気合を入れたうえで僕渾身の笑顔を浮かべることぐらいしかできていない。


 今みたいな不意打ちは心臓に悪い。


 そう考えると、慣れた、というにはまだ早い。

 僕と彼女の関係はまだまだで、知り合い以上友人未満というにふさわしいということか。早く友人に格上げしたいと切実に思う。













 僕が結論付けたところで、悪友から突っ込みを受けた。


「朝から甘ったるい顔でキモい」


 うるさいです。黙って聞いてください。

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