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僕と彼女  作者: 楠木
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俺と悪友


 俺には悪友がいる。

 まあ、男同士だし? ぶっちゃけ面と向かって「友だちだよね!」なんて確認し合うような気持ちの悪いことはするつもりはない。


 ただ俺はあいつのことを知っていて、おそらくあいつも俺のことを知っている。

 だから悪友。


 悪友は一見すると非常に「優等生」だ。

 成績は上位で気性は温厚。誰に対しても丁寧語で、物腰だって柔らか。運動もこなし、剣道部においては敵無しと言われているがそれを笠に着ることはない。にこにこと笑みを浮かべて男でも女でも相談に来たら親身になって話を聞き邪険にしたところを見たことはない。そうなってくると先生方の覚えも目出度く、周囲からの評判も相まって「優等生」の出来上がりだ。


 努力は認めるよ。ほんと。こいつのねちっこーい努力の仕方を見てたらさ、そりゃあできるようになるよって思うわ。

 要領は悪くなかったのが救いだね。


 たとえば勉強でどこか躓いたらそこをひたすらやり直すのさ。


 ひたすら。本当にひたすら。同じ問題を延々解き続けるってどれくらいできる? 俺は三回でも無理だけど。面倒だからやりたくないってタイプね。

 それをね、ひたすらやるのさ。ノート一冊とは言わないけどね、がりがりがりがり。見てて気持ち悪いって思えるほどにはやり直している。要領は悪くなかったっていうのは、それだけ繰り返したことをきっちり身に着けられるタイプだったってとこ。もしやってもやっても身につかないタイプだったらかわいそうになるだろうなって思う程度に、やってた。


 高校に入ってから剣道はやめたみたいだけど、中学のときは理想の王子様って扱いをされててさ、またそれがしっくりはまっちゃうもんだから余計に加熱してたかな。


 ただそのねちっこい努力の仕方は、不思議と誰にも知られていなかった。言葉だけ受け取るならそうだよね。できるようになるまでやるだけだよ、ってさらっと言われたらさ、それで納得するでしょ。ある程度の人間関係しか成り立ってない相手だったらね。


 俺が知っているのは、幼馴染だからだ。


 奴の性格がいつごろ形成されたか覚えていないが、俺が自覚したときにはすでにこうだった。

 幼馴染だから一緒に勉強しなさい、とかで一緒の部屋に放り込まれるわけだ。しかし水と油を混ぜたところで絶対に混ざらない。


 奴は一人でひたすらにやり直しを続ける。がりがりと音をさせながら。

 俺は面倒だから勉強もほったらかしでゲームをしたり漫画を読んだり。お互いの好き勝手にしているわけだ。


 いやでもさ、普通なら目の前に娯楽があるじゃん? なんで自分だけ勉強してるの、とかさ、遊んじゃえとかさ、誘惑に負けない? 負けるよね。俺は連戦連敗だよ!


 ところが奴は違うの。

 ひたすらに書き続けるの。


 がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり。


 俺がノイローゼに軽くなりかけるくらいに音が止まったことはない。無表情で机に向かってひたすら勉強し続ける奴のことをどう思う?

 幼心に俺は思った。


 こいつ、どっかぶっ壊れてる。


 その感覚は正しかった。

 奴は、これと思い込んだものに対して異常なまでの執着を見せる。


 たとえば勉強。全て丸が付くことが楽しいらしい。にこにこ笑いながらこう言うわけですよ。


「全問題、丸でそろえるのが快感なんですよね」


 いや、そういうレベルじゃないよね。お前のやってること、丸でそろえるとかそういうレベルの話じゃないよね。負けず嫌いとかならまだわかったけどさ。順位とか気にしたことないし。お前をライバル視してるやつがかわいそうになるくらい、いつも無視してたし。


 ある日、どこをどうしてはまったのは、植物の育成だった。

 植物を育てて少しは情緒を育めとか思ってた俺がバカだった。大事に枯らしたくなかったんだろうけどさ、日照時間が足りなくて枯らしたとか実はどこかのねじが取れてるんじゃないかと思う。


「僕の手で枯らすというのも一興です」


「その心は?」


「他の人のものになりませんから」


「誰も欲しがらねえ、安心しろ」


 幸いにも奴の執着は今までモノにしか発揮されたことはない。勉学にしろ、部活にしろ、植物関係にしろ……被害を周囲にまき散らすものではない。

 そして奴の見てくれだけを見て熱を上げる女子というのは、簡単に心を揺らす。


 たとえば、もっと甘い言葉をささやいて適度に遊んで自尊心を満足させてくれる、俺、とかね?


 実際奴に告白したところで撃沈された女子しか見たことがないね。食い下がったところで柔和な笑みを浮かべつつ、絶対防壁が展開されちゃうのよ? 泣き落としも通用しないし、お試しでいいからって追いすがるのもダメ。そういうことをしそうな子には近づかないし。野生の嗅覚でもあるんだろうねー。


 俺に簡単に流れてくれる子はまだいいです。心の傷は浅くて済みます。

 あんな奴にマジ惚れしないほうがいいよ、と俺は心底忠告したいと思います。


 そんな感じでなんとなーく放っておけないという日々が高校まで続いている。周囲の人間はなんで俺と奴が仲がいいんだろうって思っているだろうけどさ、実際は違うわけよ。俺も苦労しているわけよ。


 







 そんな奴が女の子を好きになりましたって報告してきたんだけど、どうしよう。

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