僕と彼女3
翌日である。
彼女が乗っているだろう時間に普段どおりに電車に乗る。
もしかしていないかもしれないと一瞬不安がよぎったが、良い意味で僕の期待は裏切られる。
いつもの定位置に彼女がいる。
普段であれば距離を取り、彼女を遠くから眺めて終わりだが今日は違う。
混雑していないとはいえ、近隣の高校生が乗っている車両の中で身動きすれば人目を集める。
僕はまっすぐに彼女の下へと向かった。
「おはようございます」
ぱちり、と彼女はまた目を瞬かせた。
昨日と同じように、驚いて目を丸くして、そして少しだけ首をかしげた。
それはそうだろう。
突然告白して、それだけ言い置いて去って行った男がどうしてまた目の前にいるのだろうか。不思議に思ってもおかしくないし、不審に思っても仕方ない。
「あなたのことが好きです」
朝の空気は音の震えがよく伝わる。
ざわめきが残っていた車両から音が消えた。
「僕とお付き合いしていただけませんか」
彼女は実に不思議そうに首をこてりとかしげた。
それ以上僕から重ねる言葉はなく、彼女は少しばかりの空白のあとで、こう答えた。
「ありがとう。すまないが今は誰とも付き合うつもりはない」
実に潔いまでの断り文句である。
僕は「そうですか、わかりました」とそのまま引いた。
清々しいまでの振られっぷりだ。いやこう考えると昨日のありがとうも断り文句として言われたと考えてしかるべきだ。いやいや全く。
彼女はいつものとおり下車をし、僕はその後ろ姿を眺めた。
学校に到着する少し前に、元気出せよ、と全く知らない男子生徒から声をかけられて驚いた。いや、誰かに見られているだろうとは思っていたけど、慰めてくれるとは思わなかった。
僕はとても分かりにくく落ち込んだ。らしい。
らしい、というのも自分にはその自覚がなく、普段なら問題なく解ける質問に凡ミスを繰り返し、部活では気もそぞろでミスを多発し、悪友には故意という名の偶然によって何度かうっかり目つぶしを仕掛けそうになるほどだ。避けたか。
このとき僕の心にあったのは、リベンジである。
彼女は「今は誰とも付き合うつもりがない」と言ったのだ。では、付き合いたいと思ったときに僕を候補に入れてもらうためにはどうしたらいいのだろうか。
翌日、僕は再び彼女の前に立った。