僕と彼女2
好きです、とぼろりと漏れ出した告白に、僕は固まった。
え、あ、ちょ、僕は何を言っているんだ! 無意識というかなんというか、本当に僕は彼女に告白するつもりも何もなく、いや、するならもうちょっとムードのあるところでせめてノーと言われても立ち直れるように心の準備をしてからしたい!
頭は混乱していたが無駄に高い無表情スキルによって僕の顔面に変化はない。顔が赤くならないことを喜べばいいのか。重要なのはそこではなく!
彼女は僕に視線を合わせた。
ちょうど視線を合わせると僕を少し見上げるくらいの身長だった。すらりとした彼女は僕が思っていたよりも身長が高かった。いや、でも悪くない。黒い目がびっくりしたかのように丸められて、そして、にこりと笑みを浮かべる。
「ありがとう」
ありがとう!
ありがとうって言われた!
笑顔つき。
ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。
リフレインする彼女の声はアルト。落ち着いた声音で、大和撫子という雰囲気にぴったりだ。
何より普段ならば伏せられた瞳が僕を映すことはない。その! 彼女の視線が! 僕に向けられている!
「では、失礼します」
僕は嬉しさのあまり彼女とせっかく会話できたというのに、次の駅で下車した。
浮かれた足取りで徒歩で家に帰る。最寄駅よりも一駅手前で降りたが、僕の心はうきうきだ。テンションは最高潮だった。
ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。
その言葉を繰り返し繰り返し思い出しては幸せな気分に浸っていたのだが、寝る前になって気づいた。
僕は好きだと彼女に伝えた。
彼女はそれに「ありがとう」と返事をしてくれた。
……それで僕はどうしたいのだろうか。
好き。
そう、僕は彼女のことが好きだ。寝ても覚めても、無意識に気付けば彼女のことを考えるくらい好きになっている。
では付き合いたいのか。
彼女に触れたいと思う。手を伸ばしたい。笑顔を向けられて天にも昇る心地だった。あの笑顔を向けられたいと思う。
ありがとうのたった一言に舞い上がってしまって少しばかり恥ずかしいなと反省した。
いやしかし、彼女が素敵な人だと再認識できたのはよかった。いきなり見知らぬ人間から好きだと言われて、笑顔で対応できるなんて。僕だったら無視しているかもしれない。
明日また会えるだろうか。
僕は幸せな気持ちを抱いたまま、眠りについた。