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混沌とした世界の中でSS~静寂のアンダーワールド~

何も知らない婚約者

作者: 山本正純

 2012年7月1日午前5時。日本時間で午後7時。米国東部にある大都市ニューヨーク。

 高層ビルの屋上にジョニー・アンダーソンがいる。彼はテロ組織退屈な天使たちのメンバーでコードネームはレミエル。彼は主に暗殺を担当している。そのテロ組織の活動が停止中のため彼は各地を転々としながら暗殺稼業を営んでいる。彼はスコープ付きのライフル銃を構えている。

「ロシアから帰ってきたら、早速暗殺の仕事か」


 今回の暗殺対象者はエヌビアン共和国の大統領ヨーデル・ザビ。ヨーデルは朝のニューヨークを散歩するらしい。その散歩の通り道が見えるビルの屋上にレミエルがいる。

 スコープを覗くと、対象者のヨーデル・ザビを囲むように4人のボディーガードが歩いていた。レミエルがいるビルとヨーデルたちの距離は500ヤード離れている。

「まずは一匹ずつボディーガードを狩る。最後にヨーデルを殺せばこの仕事は終わり」

 レミエルはボディーガードに標準を合わせ、引き金を引こうとした。


 間が悪かった。そのタイミングで彼の携帯電話に電話がかかってきたのだから。

「電話に出る暇はなさそうだ」


 ジョニーは電話を無視して引き金を引いた。500ヤード先で一人のボディーガードは被弾した。ボディーガードたちは警戒を強める。

 その様子をジョニーはスコープ越しで見ていた。

「無駄だ。俺のライフルから逃げることはできない」


 ジョニーは再び銃弾を込めライフルを構える。だがそのタイミングで携帯

電話に催促の電話が届いた。

「誰だ。暗殺のモチベーションが下がる」

 これ以上暗殺の邪魔をされたら困ると考えたジョニーはライフルを構えながら電話に応じることにした。電話をしながらでも暗殺は成功するほどの暗殺術をジョニーは持っている。


「もしもし」

『何で電話に出なかったのよ。昨日のメール。読んだよ。今日ロシアから帰ってくるんだよね。そろそろロシアから帰ってくると思って電話したのに』

 その声は若い女性の物。電話の声の主はマリア・テリー。ジョニーの婚約者だ。

「マリア。その電話。今じゃないとダメか。今仕事の取引相手と会っているんだけど」

『ダメ。だって2か月ぶりだよ。朝食まだなら今から会わない』

「分かった。それなら仕事をとっとと片付けてお前の家に駆けつける」

 電話の最中ジョニーは3発ライフル弾を発射した。電話越しに銃声が聞こえたマリアは驚いている。

『まさか朝からサバイバルゲームでもやってるの』

「そうだ」


 スコープ越しにヨーデルがおろおろとしている姿が見える。これで暗殺は終了。最後の銃弾を発射しようと思った時電話越しでマリアは質問した。

『ところでロシアのお土産。何買ったの』

「お楽しみだ」


 標準をヨーデルに合わせ、銃弾を発射する。だが銃弾はヨーデルに当たらなかった。ヨーデルはタクシーに乗り込み、ライフルの視界から消えたのだから。銃弾は一本の木に命中した。

 弾切れ。ヨーデルの暗殺は失敗に終わった。ジョニーは電話を切りライフルを片付ける。

「今日は厄日か」


 レミエルは携帯電話を取り出し、暗殺の依頼人にメールを打つ。

『暗殺は不測の事態により失敗。だがボディーガード全員の暗殺に成功。今から別の暗殺者に依頼したらすぐにヨーデルは暗殺できる』

 婚約者による妨害によって暗殺が失敗に終わったことは誰にも言えないことだとジョニーは思った。


 午前6時。ジョニーはマリア・テリーの自宅を訪れた。インターフォンを押すとすぐに長髪の金髪碧眼に麦わら帽子。水色のワンピースを着た若い女性が出てきた。彼女はマリア・テリーだ。

「お待たせ。ジョニー」

「ところで日本語が上手くなったな」

「妹が日本に刑事ドラマが好きだから、その影響かな。それでどこに行く。海岸の方に行きたいけど」

「確かあそこには海岸が見えるカフェがあったな。そこで朝食をするか」


 ということでマリアとジョニーはニューヨークの海岸が見えるカフェに移動した。

 そのカフェで2人はパンケーキを注文する。食事が来るまで2人は会話を楽しんだ。

「そういえば今日本で劇場型犯罪が発生しているんだよね。爆弾犯からの挑戦状で爆弾を発見したら1億円プレゼントだったかな。今頃妹はテレビの前でウキウキしながらその犯罪を楽しんでいるんだろうな」

「そういえばテレサちゃんは10年前から日本に留学したんだよな。今彼女は何の仕事をやっている」

「脚本家だよ。日本の刑事ドラマを書いているって。今度日本に行くことになったら録画しといてよ」

「それが犯罪だと知っていたか」


 間もなくしてパンケーキが運ばれていた。その間2人は会話をしながら朝食を楽しんだ。2か月ぶりの再会。その間の思い出話をしていたらあっという間に1時間が経過した。


 午前7時。日本時間午後11時。朝食が終了した頃ジョニーの携帯電話に電話がかかってきた。

『Come back to Japan by July 8.』

「Ok」

 それは短い電話だった。どうやら日本で仕事をすることになったらしい。

「マリア。悪いが後5日くらいしか滞在できない。日本で仕事をすることになった。次いつ帰れるか分からない。だからその間……」

 マリアは小さく頷いた。

「待ってるから。あなたが仕事から帰ってくるのを。その代り毎日メールしてよ」

「分かった」

 ジョニーは5日という短い滞在時間の中でマリアとの生活を楽しんだ。


 そして7月7日。ジョニーは客船に乗り込んだ。その船上で彼は呟く。

「ラジエルの野郎。俺を差し置いて暗殺をしやがって」

 船は間もなく出航する。その港でマリアはジョニーが乗っている船を見送った。

 


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