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7本目 勇者《ヤツ》に向かって吠えろ

「さぁ、つきました。ここが私の家ですよ」


 案内されたのは一軒の小さな鍛冶屋。

 店は小さいながらも老舗のような堂々たる風格がにじみ出ている。


「あれっ? リザの家は鍛冶屋だったんだ」


「そうですよ。で、こっちがキマイラのグレモア。グーちゃんって呼んであげてくださいね?」


 そう言って隣にいるキマイラの背に手をのせる。

 


 出来ればスルーしたかった。

 だってさぁ……俺と同じくらいの大きさのライオンなんてありえんだろ!

 いやまあライオンでは無いんだけどさ。


「そもそもキマイラって何なんだ? もしかしてレースの為にわざわざ?」


「キマイラは元々、対魔物用に造られた複合生物のことです。といっても実際に戦闘力はあまりなく、足が速いため主にレースや交通手段に用いられています」


「シャルロット! 我の出番を取るでない! ただでさえ出番が少ないと言うのに!」


 説明をシャルに取られて焦っているデルフ。


「あー分かった分かった。俺が出番増やすように言っとくから。とりあえず落ち着け」


 とりあえずなだめてみる。


「誰にじゃ?」


「もちろん上の人に」


「上の人?!」


 デルフには分からんようだ。きっと誰かが補正を掛けているのだろう。


「はいはい、そこまでにしてください。リザが困ってるじゃないですか」


 パンパンとシャルが手をならす。


「ああ、悪かった」


「いえいえ、大丈夫なのですよ?」


 若干引きつり気味の笑顔を浮かべるリザ。

 会った時からたまに敬語の使い方がおかしく感じる時があるような気がするんだが、気のせいだろうか。


「リザ……、もしかして無理をしていませんか? 敬語なんて使わなくてもいいのですよ?」


 あっ、シャルもそう思っていたのか。


「えっ? やっぱり変ですか? よく言われるんです。そんなつもりはないんですが……」


 戸惑い気味のリザ。


「……まぁ気をつかってないなら別に良いんだけどさ」


「というか普通の敬語だとシャルロットさんと被るから。らしいですよ?」


「ちょっと待て! 誰がそんなことを?!」


「もちろん上の人が」


「さいですか……」


 この話が始まってから上の人の干渉率が急上昇してるな。


「あっあの、もし気を使うなと言ってくれるんでしたら、そのっ、お兄ちゃんって呼んで良いですか?!」


 顔を真っ赤にしながら上目使いで見上げてくるリザ。

 ぐおっ。何という破壊力だろうか。

 別にロリコンなわけではないがイケナイ道に外れてしまいそうだ。


「あっああ! ぜっぜんぜん構わないぞ!」


 うわ、必死だな。俺。


「ヒカル?」


 ゾクリと。

 それはもうゾクリとおぞ気がした。

 見ればシャルがこっちを向いて笑っていた。でも……目が笑っていない。


「これでは本当にアウトロー(Out law)ですね」


 絶対零度の視線を浴びせてくるシャルロットさん。


「ちっ違うわ! 確かに少し良いとは思ったけどさ……」


「えっ、ええっ?!」


 つい出た本音に狼狽するリザ。


「死刑」


「あの……シャルロットさん?」


「刺殺、絞殺、毒殺、どれが良いですか?」


 笑顔っ! 笑顔がコワイよ! シャルロットさん!


「……弁明の余地は?」


「撲殺ですね?」


「一番エグいな! デルフ! 助けて!」


「出番が増えたらの」


 ああ! デルフまで!

 くそっ、かくなるうえは……


「「あっ、逃げた!」」 とにかく逃げるしかない。怒りが冷めるまでは。


 ダッシュ。ダッシュ。ダッシュ。


「待ちなさーい!」


 ひぃ!シャルロットが追ってくる。はえぇ! 早過ぎる!

 それになんだこのプレッシャーは!

 ズドドドッて感じの効果音が聞こえてくるぞ。

 

「いやぁぁぁ! 助けてぇぇぇ」



 ……二時間後、ラスカス郊外で血溜まりが発見された。しかしいくら探しても死体は見つからなかったそうな。




「はっ!」


 ガバッと身を起こすと俺の身体には布団がかかっていた。

 なんか嫌な夢を見たきがするのだが……


「大丈夫なのですか? お兄ちゃん?」


 横にいたのは女の子だった。

 歳の頃は十二歳くらいだろうか。

 腰まで伸びた長いピンクの髪に白い肌と整った顔立ち。

 大きな瞳は優しげで、まるで聖母のそれのような慈愛に満ちている。

 まぁ俗に言う美少女なんだが、ロリコンじゃない俺にはこれからの成長に期待というところだろうか?


「……君は?」


「ええっ?! 私の事、覚えてないんですか?」


 いきなりそう言われてもなぁ。


「リザですよ。ヒカルが助けたんじゃないですか」


 隣にいたシャルロットが教えてくれる。

 俺が助けた……?

 ああ、思い出した。そうだった。……あれ?でもなんで。


「でもなんで?」 疑問が自然と口に出る。


「そっ、それはヒカルがあの男性に受けたダメージのせいで気を失ってしまったんですよ」


 あれそうだったっけ? いまいち思い出せないな。


 まあいいか。

 必要な事ならそのうち思い出すだろう。


「まあいいや。それより腹が減ったな」


「そうですね。じゃあご飯作ってきますね。シャルロットお姉ちゃん、手伝ってくれるですか?」


「もちろん、さぁ行きましょう」


 ご機嫌な様子で部屋から出て行く二人。

 それとすれ違うようにデルフが入って来た。


「どうした? デルフ」


「あぁ〜なんじゃ、そのぉ。すまなかった、ヒカル」


「何謝ってんだ?よくわかんないんだが」


「そうか、まぁこっちの話じゃ」


 変なやつだな。


「さぁってと、俺達も行こうぜ」


「知らぬが仏、かのぅ」


 魔王が呟いた言葉はきっとヒカルには届かなかったに違いない。

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