6本目 人生の転機、どうする? どうすんの俺?!
蹄が大地を叩く音が響き渡る。
『2番が依然トップ! それを1番が追い上げる!』
場内に実況のアナウンスが流れる。
『さあどうだ! 1番が追い付く! 競り合う! おおっと? 1番転倒! 2番が巻き込れる! ああっと、1位は? 1位は? 何と7番だ! これは予想外だ! 大穴だ〜!』
耳をつんざかんばかりの歓声。その中には歓喜と悪態の声が入り乱れている。
「ヒカル! それ当たってますよ! ヒカル! 凄いじゃないですか!」
「なんと……あれを当ておったか!」
興奮しているシャルとデルフ。シャルがあまりの興奮に肩を叩いてくる。痛い! 痛いって!
冒頭の流れで分かって頂けましたでしょうか? 大変なことになってます。
ここは娯楽施設で栄えている街、ラスカス。
ダブリス荒野の中心より少し南に位置する、言わば荒野の中のオアシスというところだろうか。
俺達がいるのは、ラスカスの中でも人気の高いキマイラレース場。
まあ、名前のとおり競馬みたいなもんなんだけど。 大穴が当たったみたいですね。
配当は、……金貨10枚?
「なにぃ! 金貨10枚だって?!」
金貨10枚って、1000万円相当じゃねーか!
軽いノリでやったのに……。
番号なんて声優のみず……ゲフンゲフン。に掛けて7にしたぐらいなのに。
隣のオッサンなんてよっぽど大損したのか発狂してるよ?
人生って理不尽だよな。
まあ、ビギナーズラックということで。
「何を買って頂きましょうか? 指輪、宝石、ご馳走して頂くのも良いですね。どうします? デルフ?」
「そうじゃの。この際新しい魔具でも調達するかの!」
やんややんやと話に華を咲かせる二人。
コイツら俺にたかる気か?
「お前ら俺にたかる気か?!」
「いいじゃないですか! 金貨10枚もあるんですから! ケチだと女性に嫌われますよ?」
グサッ!
ヒカルの精神に180のダメージ。ヒカルからエクトプラズマが漏れた。
「シャルロット、言い過ぎじゃ。ヒカルも、本当の男ってものをシャルに見せ付けてやったらどうじゃ?」
「それもそうだな!」
「復活が早いのぅ」
「こんなんで落ち込んでられるか! さぁ諸君! 行こうぜ諸君!」
そう言って俺は勇んで市場へ歩きだした。
「「……た、単純」」
二人が呆れたように発した言葉は、もちろん聞こえてる訳もなかった。
◆
というわけで、市場。
「はぁ〜〜。いっぱいあんなぁ……。」
市場には屋台のようなものが多く、通りに沿って延々と続いている。
野菜や果物といった青物を売る店や日用品などを売る店、はたまた剣や防具を売る店まで、その種類は数える気にならない程に多岐に渡っていた。
「ラスカスは商業都市でもあるからのう」
「そうなのかぁ。すげ〜なぁ……」
「ふふっ。ヒカル、口が開きっぱなしですよ?」
「だってこんなの初めてだぜ?」
キョロキョロと辺りを見回していた時だった。
「ふざけるのもいい加減にしやがれ! あぁ?! ガキだからって容赦しねぇぞ!」
突如響き渡る怒号。
驚いてその音源を探すと、そこには恰幅の良いオッサンと、12才くらいの小さな女の子がいた。
辺りの通行人は皆、我関せずといった風に見て見ぬ振りをしている。
「くそっ、見てらんねぇ。おいっ! オッサン何してんだ!」
とオッサンと女の子の間に割って入る。
「なんだテメェは! 俺はこのガキに用があんだよ!」
オッサンが唸るようにドスをきかせてくる。
女の子を見ると、その瞳には涙が貯まっている。
「この子泣いてんじゃねーかよ! もう少し言い方があんだろ!」
「何もしらねぇくせにでしゃばんなや! 小僧!」
「何もしらなくたってやって良い事と悪い事ぐらい分かるだろ! 訳ぐらい話しやがれ!」
負けじと俺も怒鳴り返す。
「はっ……良いだろう、そこまで言うなら教えてやるよ! こいつはなぁ、俺が厚意でこのガキのキマイラをレースに出してやってるっていうのに金を払おうとしねぇんだよ!」
「だっ、だってあんな金額……」
「ああ?! なんだって!」
「ごっごめんなさぃ…」
オッサンに怒鳴られて、ビクッと縮こまる女の子。
「いくらなんだよ?!」
「はっ、テメェが払うのかよ?……良いぜ、そんなら教えてやる。金貨3枚だ」
「なっ、それはいくら何でも高すぎませんか?!」
驚きに思わず話に入ってくるシャルロット。
「ああ?! 知らねぇな。」
オッサンが嘲るように笑う。
「別に他の方法だって良いんだぜぇ! そのガキのキマイラぶっ殺して肉にして売ったって、このガキかそこの綺麗なねーちゃん掻っ払ってどっかに売り付けたってなぁ!」
ギヒヒとシャルロットを指差して不快な声で笑う。
シャルロットがギリッと拳を握ったのを見て、俺が手で制する。
「良いだろう。払ってやるよ。ほら、拾えよ。下種。テメーの腐ったプライド、俺が買ってやるよ」
そう言って俺はオッサンの足元に金貨を3枚投げる。
するとオッサンの顔が墳怒の形相に代わった。
「喧嘩売ってるみてえだな……小僧!」
怒鳴りながらもきちんと金貨は拾うオッサン。本当に下種だな。
「買ってくれんなら金貨3枚で売ってやるぜ?」
そう言ってオッサンを挑発する。大体ゴブゴブ相手に勝ったのにただの人間に負けるはずがない。
だから思う存分煽ってやったのだった。
「死にさらせや、小僧!」
「死ぬのはテメーだ!下種!」
二人が同時に動き出す。
そして、
「はっ、馬鹿が!格好つけやがって」
オッサンが去って行く。
そう、負けたのはおれだった。
何故かゴブゴブ達の時に使えた動態視力強化が使えなかったのだ。
「本当に貴方って人は……馬鹿なんですから」
呆れた声を出すシャルロット。しかし彼女の顔には優しい笑みが浮かんでいた。
「ああああのっ!」
声の方に顔を向けるとそこにはさっきの女の子がいた。
「あのっ! すみませんでした! その、助けていただいて……」
「ああ、気にするな。俺が好きでしたことだ。カッコ悪かったけどな」
「そんなことありません!とても格好良かったです!それで、それで、あなたに恩返しがしたいんです!」
両腕をぶんぶんと一生懸命ふりながらしゃべる女の子。
「恩返しってったってなぁ……」
そんな気ぜんぜんなかったのにそう言われてもなぁ。
「良いんじゃないですか?ねぇデルフ?」
「そうじゃの。その娘もこのままでは納得いくまいて」
さっきまで俺がボコボコにされる様をずっと傍観していたデルフが答える。
コイツめ、後で見てやがれよ? まあ、あそこで助けに入られても困ったのだが。
うーん。……何か複雑だな。
「ホントですか? やった! じゃあ家に案内しますね?」
ぴょこぴょこと踊るように歩く女の子。
「あっ、そうだ! 私、リザ・オルコットって言います」
「俺は高瀬光」
「私はシャルロットと言います。よろしくお願いしますね」
「我はデルフリンガーじゃ」
「よろしくお願いしますです。それでは行きましょう!」
リザはぺこりとおじぎをして、家へと俺達を案内してくれたのだった。
……余談だが、リザの家に着く前にデルフが少し行方不明になった。まぁすぐに帰って来たのだが。
風の噂によればそれと同じ頃、リザに詰め寄っていたオッサンの組織の事務所が謎の壊滅を遂げたらしい。
更には、その後に孤児院に正体不明の大金が贈られてきそうな。
誰がやったのか、その目星はまだついてないという。
5000PV越えたら番外編まがいのものをやりたいな……(´Д`)
えっ?その前に早く更新しろって?
その通りです、調子こきました。ごめんなさい、ハイ。