5本目 小鬼の中で輝いて
『かさ【傘】 雨・雪を防ぎ、また日光などをさえぎるため頭上にかざすもの。からかさ・こうもりがさ・ひがさなどの総称。さしがさ。』広辞苑より
だそうだ。決して武器ではない。だから良い子は傘があってもマネをしちゃいけないよ?
ここはダブリス荒野。この世界で1番でかい荒野らしい。確かにこれは納得だ。見渡す限り荒れ果てた地が続いている。それだけじゃなく魔物のエンカウント率が高いらしい。
あの忌ま忌ましいポムポム狩りからはや二日。この二日でアラクネの森を抜けここまで来たのだが、奇跡的な事にあれ以来まだ魔物と御対面をしていない。
それだけに俺達の緊張は緩みきっていた。
遠くに人らしきシルエットが人が見える。
「おい、シャル。あれ人じゃないか?」
丁度水も尽きた頃だ。給水ぐらい出来るといいのだが。
「あっ、本当ですね! 少し水を分けて貰えるかもしれませんね!」
と嬉しそうにはしゃぐシャル。流石に女の子には荒野越えはキツいのだろう。俺だってキツいんだ。当たり前か。
「ふむ。なかなか良いタイミングじゃの。」
微妙に上機嫌のデルフ。あれ?コイツもキツかったんだ。ちょっぴり意外だ。
そして三人はそのシルエットへ向かって走り出す。
「おーい。」
とりあえず手を振ってみる。気付いたのだろうか。そのシルエットは棒の様な物を上げ下げし始めた。その瞬間、
「待つのじゃ!!!」
急にデルフが鋭い声をあげる。
「なんだよ?」
「あれは、あれはゴブゴブじゃ!!!」
うろたえるデルフ。
「ゴブゴブ?」
「子鬼の一種で、凶暴かつ残忍な性格の中級使い魔です。正直かなり強いです。」
うろたえるデルフに代わってシャルが説明してくれる。
「んじゃ逃げないとマズイじゃんか!」
「いや、もう無理じゃ。囲まれた。」
気付けばゴブゴブ達に包囲されていた。数はおそらく10匹位だろう。身長は低く、140センチ位しかない。かなりビビってるデルフ。
「つかお前魔王だろ!!中級ぐらい何とかしろよ!」
「出来ぬ!あんな気色の悪い生き物なぞ見たくも無い。」
とデルフが後退る。
「虫だけじゃなくてゴブリンもダメなのかよ!!!」
ホントに魔王かテメーは!
くそっ。役に立たねーな。そう思いながら辺りを見回す。
気が付くとシャルの目にうっすらと涙が浮かんでいた。
怖いのだろうか。怖いよな。
皆を助けたい。そんな思いが浮かぶ。胸が熱くなる。
その瞬間、傘が光を発した。今までにない激しい光を。
傘から力が流れ込んでくる。そして力の情報も。俺に与えられた力。
それは、えっ?・・・・動態視力?
なんと強化されたのは動態視力だけらしい。
えぇ〜〜〜。
まぁ、無いよりかはマシだろう。今はツッコミをする時間はない。だからそう思うことにする。
「ヒカル?」
不安そうに見つめるシャル。
「大丈夫。任せろ。」
そう言い残してゴブゴブ達の所へ走る。
「おい、ブサイク共!テメーらの相手は俺がしてやる!」
「djdgmjdt0jga!!!」
話が分かったのだろうか。ゴブゴブ達は一斉に押し寄せてくる。
ぶぅん。
不意に正面から振り下ろされるこん棒。でもその速度とても遅く感じられる。見える!見えるぞ!
俺はこん棒を体を捻りながら右斜め前に踏み出す事でかわす。そして振ってきたゴブゴブの裏に回り込んで傘で突く。
「adgmp!」
何か良く分からん事を言って倒れたゴブゴブを掴んで投げる。
元々ゴブゴブは軽い。多分20キロ位だろう。
俺が投げたゴブゴブは三人ほど巻き込んで倒れた。直ぐさま倒れた奴らの、口では言えない急所に傘を叩きこむ。
「Agjm!!!」
急所を叩かれたゴブゴブ達は泡を吐いて失神した。
「まず4匹!」
やられた仲間を見て少しうろたえるゴブゴブ達。
が、直ぐ俺に襲いかかってくる。
今度は2匹同時に左右からの正拳突き。
それを一歩下がることでかわす。かわされた拳はそのままゴブゴブ達に吸い込まれる。
「Twmw!!!」
はい自滅。
これで6匹。
「Ajt g!」
さらにもう1体が殴り掛かってくる。
俺はその拳を左側に弾きながら右足を軸にして回転。傘のカーブになっている所をゴブゴブの首に引っ掛けて、引っ張る。
ゴヒュッ!
叫びにならなかった息がもれる。
「秘技、寝首に水」
あっ、今バカって思ったろ?笑うなよ、一生懸命考えたんだから。
「さて、あと3体は、」
見渡して、青ざめる。俺には勝てないと踏んだのか、残りの3体がシャルとデルフに襲い掛かろうとした。
「シャル!デルフ!」
このままでは間に合わない。そう思った時、
「おっお主ら来るで無い!来るな!来るなー!!!」
錯乱したデルフが突如ゴブゴブに向かって叫んだ。
その瞬間、
ドゴォォォ!!!
大きな音と共に雷が落ちた。そして残ったのは消し炭になったゴブゴブ達。唖然とする俺。
あーなんと言えばいいのか。
とりあえず俺の努力ムダ?
もう言葉もでない。
ひとしきり呆れたあと、安堵の為か、俺は腰が砕けてしまったのだった。
「ありがとうございました。ヒカル。」
気付けばシャルが近くに来て俺のことを見つめていた。
「結局助けたのはデルフだけどな。」
「そんな事ありません。ヒカルは勇敢でした。その・・・・格好良かったですよ?」
顔を赤らめるシャル。
やべっ。可愛い。
「ほっ、ほら行くぞ!」赤くなった顔を見られたくなくて、俺は立ち上がって歩きはじめるのだった。