12本目 理不尽って多分気のもちよう……だといいな
「…………さい」
あれ、なんだ?
「……きなさい」
確か俺、ツカサと戦って火の玉に飲み込まれて……
「起きなさいと言っているのがわからないのかしら?」
なんか聞こえるね? なんか前にもこんなことがあった気がする。
そう思いながら目をあける。
目の前にいたのはゴスロリチックな服を着た金髪美少女。だが、確かに美少女なのだが特筆して言うものがないという良くわからない顔立ちをしている。
「なんだ? お前?」
「私? 私は女神よ?」
……うわ。出たよ自称。しかも今度は女神だってよ。この世界は自称がブームなのかね。
「取り敢えず、その哀れんだ視線はやめて頂戴。不快だわ。」
不快だわ。だってさ。ああ、もうあれだね? 成り切っちゃってるね。こんな年からこんな人格なんて可哀相に。
「やめて頂戴と言ったのが分からないのかしら?」
「って、ぬぉ!」
気付けば喉元……というか俺の周りに抜き身の剣が取り囲むかのように浮かんで、もとい突き付けられていた。
「す、すみません」
ここで謝ってしまう俺はきっとヘタレなのだろう。
「分かれば良いわ。ただ、気をつけなさい。言った事をもう一度言うのは嫌いだわ」
「ところで、お前誰だ? てかここどこだ?」
はぁ。とため息をつく自称女神様。
「貴方はお馬鹿さんなのかしら。まぁいいわ。お馬鹿さんにも分かるように説明してあげましょう」
「馬鹿っていうな!」
「まずさっきも言ったように私は女神、名をタチバナ」
「スルーかよ! つかタチバナってなんだよ! なんで金髪なのに日本より?!」
「うるさいお馬鹿さんね。死なないとわからないのかしら? いっぺん死んでみる?」
そういってまた剣を召喚するタチバナ。
「すみません」
きっとここで謝ってしまう俺はヘタレだ。分かってるから言わないで? 凹むから。
「まあいいわ。簡潔に言うと、力を得た貴方は図に乗って無謀にもドラゴン相手に特攻。そして返り討ちに会って肉体は瀕死。意識だけを傘である私の中に引き込んで今に至るということよ。全く、本当にお馬鹿さんね」
「えぇ? 女神じゃねぇじゃん!」
「私は傘の女神、もっと詳しく言えば選定を司る女神と言うところかしら」
「選定って、まさか傘ってお前のせいだったのか?」
「そうよ。なかなか愉快だったわ」
ふふっ。と上品に笑うエセ貴族。
「この愉快犯が」
「面白いことを言ったつもり? センスが無いわ。お馬鹿さん」
「バカって言わないでください!」
もう半泣きだよ!
「んで、俺瀕死なんじゃん? どうすりゃいんだ?」
「そのために呼んだの。多少遊び心が入ったとはいえ私の使用者だもの。死なれてしまうのは気持ちの良いものではないわ」
じゃあ傘なんて渡さないで欲しい。
「というわけだから力をあげるわ」
「マジで?! えらい簡単にくれるんだな」
実は結構いいやつなのかも知れない。
「ただ一回発動するごとにめまい、吐き気、左手薬指の爪が異様に早く伸びる、運命の赤い糸が切れるのどれかが無作為に起きるから気をつけることね」
「なんだよ、そのロシアンルーレットみたいな罰ゲーム」
怒る気にもならん。というか何から怒っていいのか。
「ちなみに副作用は私のせいではないわ。さぁそろそろ行きなさい。私の名前を念じれば発動できるから。私はもう寝るわ。少し話すぎたもの」
ふわぁと欠伸をしてあっちへ行けの手振りをするタチバナ。
「おいちょっと待て!話はまだ」
言い切らない内に目の前が白くなる。「健闘をいのるわ」という声を聞いた気がした後、俺の意識は完全にホワイトアウトした。