9本目 だってドラゴンだもの
「あっ、お帰りなさい。
ちゃんと仲直り出来たみたいですね」
家に戻ると待っていてくれたらしいリザが駆け寄って来てくれた。
「ああ、なんとか……な。ところで傘は?」
「えぇと……一応出来たのは出来たですが。一つしか拡張できませんでした」
少しうなだれ気味のリザ。
「できたの?」
傘って武器に出来るもんなのか。ある意味驚嘆に値するぞ。
「はいです! 能力は部分的魔力付与です」
「セミ・エンチャント?」
「はい。簡単に言うとこの傘の魔力を身体の一部に取り入れて身体能力を上げるというものです」
「おお! 何かスゴイなソレ!」
これで俺もエクス○リバーをもったアー○ー王よろしく英雄になれるのだろうか?
……宝具は傘だけど。
「ホントはロ○ットブースターとか波○砲とかビー○サーベルつけたかったんですけど……。
意外とわがままボディでした……」
本当に悔しそうな顔をしているリザ。
この娘は俺を一体何と闘わせるつもりなのだろうか?
ガン○ムだろうか?
生身で歪んだ戦場に介入させる気なのか?
それともツイン○スターライフルを持つ羽の生えたガン○ニウム合金と闘わせる気なのか?
「とりあえず、わがままボディってそういう使い方じゃないと思うぞ……」
「はぁ、出来ればファ○ネルかドラ○ーンつけたかったなぁ……。あれは漢のロマンだよね〜お兄ちゃん?」
「リザは男じゃないけどなぁ」
そんな恋する乙女みたいな顔でファ○ネルとか言っちゃいけません!
「分かってるです! 男だったらお兄ちゃんのお嫁さんになるって約束守れないです!」
「初耳だけどなソレ!」
何を言い出すんだこの娘は!
「ひ・か・る?」
風鈴を鳴らしたような美しい声が響く。
……振り向けない。
すさまじい癪気が漂ってくる。それはもう具現化するほどに……
シャルロットさんは魔王なんですかね。
「やめておけ。話が進まぬではないか」
見兼ねて出て来たのはデルフ。
シャルもそう思ったらしく渋々だまる。
マンネリ化を未然に防ぐとはなかなか作者孝行な奴である。
「これで出番が……」
これが無ければの話だが……。
「ところでその傘は?」
「あっはい! 今持って来るです!」
ダッシュで家に帰るリザ。あんなに急がなくても良いのに……。
「これです!」
さっき凄いと言ったせいか、ほめてほめてと言いたそうな顔のリザ。
なんか犬みたいだ。
個人的には「わふー」と言って欲しい。
ただ、その純真無垢な女の子に抱かれていたのは変わり果てていた相棒の姿だった。
「あの……リザちゃん? なんでフリフリがついているのかな?」
そう、今までスリムで知的なオーラを放っていた相棒の身体には白いレースがふんだんにあしらわれていた。
「え〜。だって可愛いじゃないですか」
「可愛くしてどうする! 何の使い道もないもんをこんなにつけるなよ!」
これでは違った意味での勇者になってしまう。
「使い道はあるですよ? とりあえず触れれば切れます」
なるほど……だから俺の手が血だらけなのか。
「ってもっと早く言ってくんない?!」
なんて極悪な兵器になってしまったのか。
「てかなんでリザは切れ無かったんだ? 抱き抱えて来たのに」
「ああ、それは認証プロテクトが働いているからです。」
「認証プロテクト?」
「登録した人間には危害を加えないようにする言わば鍵みたいなものです。一応デルフさんとお姉ちゃんと私が登録されてます」
俺の名前が無かったのは気のせいか?
「俺は?」
「あっ、え〜と。忘れてなんていませんでしたですよ?」
おもいっきり目ぇ泳いでるけどな。
「ほう。嘘をつくのはこの口か?」
リザの頬を掴んで引っ張ってやる。
「ひはひへふ。(痛いです) ひゃへへふははひ〜(やめてください〜)」
ふはははっ。手をじたばたさせても無駄なのだよ。
こんな風に仲睦まじく? 戯れている時だった。
『ツカサだ! ツカサが来たぞ!』
街中にけたたましく警鐘が鳴り響いた。
「何? ツカサじゃと!」
ツカサ君? 誰?
そんな疑問をよそに一番先に動いたのはデルフだった。
「えぇい、何故このような所に。」
言うが早いか、デルフの身体が光に包まれて消えた。
おそらく転移魔法だろう。
尋常では無いデルフの様子からして、ヤバイもの何だろう。
「ツカサってなんだ?!」
思わずシャルに問い詰める。
「落ち着いて下さい。ツカサとはお察しの通り魔物です。それもおそらく5本の指に入る程の。俗称を長虫ツカサと言って」
長虫? 虫か?!
だとしたらデルフに闘えるはずがない。
あのバカ! 無理しやがって。
俺は傘を握りしめた。使い方はシンプルでエンチャントしたい部分を思い浮かべるだけらしい。
先ず足を思い浮かべる。 途端に足を淡い青の光が包む。 力がみなぎるのを確認しながら俺はデルフが行ったであろう方向へ走りだした。
「あっ、ちょっとヒカル! まだ話は終わってませんよってもう行ってしまいましたか……」
空を仰いで嘆息するシャルだった。
◆
走る。走る。走る。
スゴイな……。身体が軽い。
遠くではおそらくデルフが使った魔術のせいであろう爆発が連続的におこっている。
デルフが闘う意志を失っていないことを確認してまた脚に力をこめる。
あと少しだ。爆発による砂煙がちかくなってくる。
気付けば街から大分離れている。ここならば街に被害はでない。
そう考える少し安心出来たのだった。
いた。デルフだ。
そしてデルフが相対している的の方を見る。
取り巻いていた砂嵐もクリアになってきて姿が見えてきた。
なんかデカ過ぎねぇ?
見えてきたのは、10メートルはあろうかという巨体。首は長く、そのさきの顔は爬虫類のようで獰猛そうな感じが見てとれる。
身体は見るからに固そうな鱗で覆われていて大樹のような四肢に支えられついる。
明らかに虫ではなかった。というかドラゴンって言うんじゃねぇ?
「だってドラゴンですもの」
気がつけば隣にはシャルとリザがいた。
転移魔法で飛んできたのだろう。
色々言いたい事はあるんだが……一つだけまず言わせてくれ。
「うっそぉぉぉぉぉん!」