表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国漫才地獄  作者: 日向 守


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/5

第四話 明智さんアレ(本能寺)やらないんすか?


「……おい半兵衛。ワシの眼、腐ったか? それとも、あまりのショックで幻を見とるんか?」


官兵衛が、コンビニで買ったネギを握りしめたまま、新宿スタジオアルタの通用口で凍りついた。黒塗りの高級車の横、凄まじいフラッシュを浴びながら、一際輝くオーラを放つ男がいた。シュッとした鼻筋、冷徹ながらもどこか哀愁を帯びた瞳。今をときめくイケメン俳優、明智光男である。


「……落ち着けよ、官兵衛君。あんなところに、あの男がいるわけないじゃないか。……あれは、ただの明智家直系の子孫だ。プロフィールにも書いてあっただろう? 『明智光秀の末裔』というのが彼の売りなんだよ」


半兵衛は、努めて冷静に答えようとした。だが、その指先はコンビニのレジ袋を、カサカサと小刻みに震わせていた。


「アホ抜かせ! 直系やから言うて、あそこまで似るかボケッ! あの、理屈っぽくて、真面目すぎて、最後には全部ぶち壊しそうな不吉な目付き! 間違いあらへん、あいつの血には……明智十兵衛の呪いが流れとるんじゃ!!」


官兵衛は、野獣のような足取りで俳優の元へ突き進もうとした。


「おい! 十兵衛! おのれ、何がお洒落なスーツや! 謀反人の血を引いとる分際で、スター気取りかボケッ! おのれも本能寺、焼くんかッ!」


だが、その官兵衛の前に、鉄壁の壁が立ち塞がった。漆黒のサングラスをかけ、イヤホンマイクに手を当てた長身のマネージャー――斎藤利哉である。


「……止まりなさい。許可のない接触は禁止です。事務所を通してください」


「どけッ! ワシはその男の先祖の『エグい性格』をよう知っとるんじゃ! その、いかにも『義理堅い部下』のツラしたお前もや! おのれ、斎藤利三の子孫やろ! その槍で突くような目付き、遺伝しすぎじゃボケッ!」


「……不審者ですね。警察を呼びますよ?」


斎藤利哉は、微塵も表情を変えず、冷徹に言い放った。その立ち居振る舞いは、確かに斎藤利三を彷彿とさせたが、そこにあるのは「武士の気概」ではなく、単なる「プロの仕事」としての冷淡さだった。


「待て、官兵衛君! 引くんだ!」


半兵衛が、官兵衛のジャージの襟首を必死に引っ張った。


「見てごらん。あそこのマネージャー……彼はただの『敏腕マネージャー』だ。剣術なんて知らない。俳優の明智君も、右手が刀を探すどころか、さっきからスマホの自撮り角度ばっかり気にしてるじゃないか……」


「ほら見ぃ! 隙あらば自分のツラを記録に残そうとする、あの自己愛の強さ! 十兵衛そのものやないか!!」


官兵衛の怒号が響く中、俳優・明智光男は、一瞬だけ足を止め、不思議そうに官兵衛を振り返った。そして、サングラスを少しずらし、官兵衛の手に握られた「一本のネギ」を見て、心底困惑したように呟いた。


「……利哉。……あの、ネギ持ったおじさん……何? 新しいユーチューバー?」


「……ただの不審者です。光男さん、行きましょう。次の仕事に遅れます」


その声。かつて信長を戦慄させた美声の面影はあるが、そこにあるのは「現代の爽やかさ」だけだった。彼は先祖の因縁も、目の前の軍師が何者かも、これっぽっちも知らないのだ。車が静かに走り去った後、新宿の喧騒の中に、茫然自失とした二兵衛だけが残された。


「……半兵衛。あいつ、ワシのこと『ネギ持ったおじさん』言うたな? 命かけて戦国の裏を操ったこのワシを……ただの野菜所持者に分類しやがったな!」


「……官兵衛君。……これが一番残酷な『敗北』だよ。僕たちが必死に抱えている『歴史』を、彼は単なる『肩書き』として着こなして、この現代で僕たちより先に天下を獲っている。……しかも、自覚ゼロでね」


半兵衛は、レジ袋の中の冷めたおにぎりを握りしめた。


「……面白くないね。……明智君、先祖の恩恵をフル活用して勝ち組だ。……なら、僕たちがやるべきことは、天下を獲って僕たちの功績を知らしめてやることだ」


「……カカカッ! せやな。あいつのその綺麗なツラ、笑いすぎて鼻水垂らして、先祖に謝りたくなるくらい崩したるわ。……次は、あいつの出るドラマのエキストラにでも潜り込んで、撮影現場を『十面埋伏』したるからな!!」


二人の軍師は、ネギとレジ袋を手に、新宿の地下深くへと消えていった。宿敵の子孫は輝かしい表舞台に立ち、本物の軍師はネギを持って地下に潜る。ハンベー&カンベーの、本当の意味での「下剋上」は、ここから始まるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ