俺(三成)の事か
「……どないなっとるんじゃ、これはッ!!」
官兵衛の怒号が、築四十年のアパートの壁を震わせた。
手元のスマホ画面には、SNSのトレンドランキングが映し出されている。そこには確かに「#十面埋伏」のハッシュタグが躍っているが、その中身が問題だった。
「見ぃ! 半兵衛! 喜んどるんは、工作員みたいなツラした歴史マニアと、不破ちゃんの毒に当てられた特殊な感性のガキ共だけやないか! 肝心の『お茶の間の主婦』や『仕事帰りのリーマン』には、『意味がわからん』『辛気臭い』『目が怖い』言われ放題やぞ!」
官兵衛は、液晶の割れたスマホを畳に叩きつけそうになりながら、自分の頭をガシガシと掻いた。
「ワシらの狙いは『天下布笑』……全人類の腹筋を崩壊させることやろがい! なんでマニアックなニッチ市場で甘んじとるんや! これやったら、局地戦で勝って本戦で負けとるようなもんやぞ!杭瀬川で勝って関ヶ原で負けた西軍やんけ!」
対する半兵衛は、窓際で静かに白湯を啜っていた。その表情は、池の面のように穏やかだ。
「……官兵衛君、そう焦るなよ。これは計算通りだ」
「計算通りぃ!? おのれ、負け惜しみか!」
「違うよ。兵法に曰く、『まずは敵を分断せよ』だ。不破ちゃんという『流行の象徴』を味方につけ、知識欲の強いマニアと、先入観のない子供を先遣隊として確保した。これは、巨大な城を攻略するための『外堀』を埋めたに過ぎない」
半兵衛は、窓の外を流れる神田川を見つめながら、指を一本立てた。
「『十面埋伏』が一般層にウケない理由。それは、このギャグがあまりにも『理』に寄りすぎているからだ。歴史を知らぬ者にとって、伏兵がどこから現れるかという恐怖も、それを逆手に取った開放感も、ただの『変なポーズ』にしか見えない」
「……ぐぬぬ。言われんでも分かっとるわ。要は『共感』が足りんのやろ!」
「そう。だからこそ、次の策が必要だ」
半兵衛の目が、鋭く光る。
「官兵衛君、君の『関西弁』と『毒』を、もっと前面に出すんだ。僕の『十面埋伏』は、あくまで敵を足止めするための『罠』。その罠にかかった連中を、君の言葉で一気に飲み込む……」
「……ほう。ワシが真打ちを務めるいうわけか」
「そうだ。次は『シュール』を『リアル』に引きずり下ろす。不破ちゃんもマニアも子供も巻き込んで、巨大な渦を作るんだ。」
官兵衛の顔に、不敵な笑みが戻った。
「……ハハハッ! おもろなってきたやないか。よし、半兵衛。その策、乗ったで! 歴史好きのオタク共には泣いて喜ぶ伏線をバラ撒きつつ、一般層にはワシの罵詈雑言でストレス発散させたるわ!」
二人の軍師は、再びスマホを手に取った。
「十面埋伏」という奇策を起点に、お笑い界の「本丸」を陥落させるための、新たな軍議が始まった。




