表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/14

第9話 手招きするのは誰?

 思念がうごめく骨董品こっとうひん店へと、一歩また一歩と近づく。私たちの姿を捉えた彼らは、いっそう騒がしく動き回り、何か叫んでいるようだ。「あの中に入るのか」と思うと身の毛がよだつ。腕がブルブルと震えてしまう。カメラが手振れを起こし、より一層恐怖を自覚させる。


 ヒロの背中を追いながら、ふと彼の立場から見た世界が気になった。私はこのスマホ越しにしか霊を認識できない……。けれど、ヒロは常に霊が視えているようだ。もしかすると、叫び声も聴こえているのだろうか……? どうしてそこまで平然としていられるの?


「わっ……その……!」


 急にヒロが振り返り、目が合ってしまう。そして、彼のゴツゴツした手がスマホのカメラを遮った。


「もうスマホはしまっておいた方がいい。無理に直視する必要はないから」


 霊と向き合う覚悟を決めてからというもの、「目を逸らしてはいけない」という固定観念にとらわれていた。ここで初めて、「あえて見ない」という選択に気づかされる……。ヒロだって骨董品こっとうひん店に入るには勇気が要るはずなのに、また気を使わせてしまった。


「わ、わかりました……」

「なぁ~に、僕がいるから大丈夫っすよぉ!」

「はい……!」


 人に裏切られて傷つくのが怖い。でも、今回に限っては失敗してもいいから、彼に委ねてみようと思えてくる。根拠はないけれど、等身大のヒロを見るうちに、不思議と直感のまま行動したくなった。


 ギィィィッ………カランコロンッ……。


 骨董品こっとうひん店の古びた扉を開くと、ぶら下げてあった“骨の飾り”が揺れ、乾いた音を立てた。スマホ越しに見た禍々しさとはうって変わり、店内は選りすぐりの美品が並べられ、隅々まで清掃が行き届いている。ホコリ一つないのは、きっと骨董品こっとうひんを大切に扱っている証なのだろう。


「すごいぞぉ……本当に素晴らしい……! 一つとして普通の品がない! 全てに持ち主の記憶が刻まれている……!」

「それを聞くとちょっと怖くなります……」

「あぁっ! すまんすまん!」


 ヒロは笑いながら頭をボサボサと触った。確かに年期の入った物ばかりだけど、ちゃんと手入れや修復が施されている。この骨董品こっとうひん店に渡るまでに、誰かのもとで愛されてきたのだと伝わる。


 ──その中でも、ひときわ存在感を放つ陶器の花瓶があった。


「わぁ……美しい一輪挿しの花瓶。これにお花を飾ったら、どんなに素晴らしいんだろう……」


 昔から花が好きだった。柔らかく繊細ながらも、完璧な美貌で魅了する存在。私の目指すモデル像と一致している気がして、部屋に飾る習慣があった。だけど、両親を失ってからはすっかり忘れてしまっていた。なぜかこの花瓶を置けば、全ての歯車が噛み合うような感覚がする。


「おいおい、触っちゃダメだよ」


 え、どういう状況……? ふと正気を取り戻すと、伸ばしかけた手をヒロに握られていた。私はこの花瓶を買うために骨董品こっとうひん店に来たのに、なぜ止められなきゃいけないの? 信頼しかけていたのに、やっぱり私を否定するの……?


「どうしてそんな意地悪をするんですか?」

「はは、こりゃやられてるねぇ」

「そんな言い方ないじゃ……わっ?!」


 ペチンッ!!


 ヒロは私のおでこを優しくデコピンした。頭の中を白い閃光が走り、ここに至るまでの記憶を、事務所での一件を思い出す……。


「あれ……? 私、三島みしまさんを助けに来たはずなのに?!」


 ヒロは挙動不審な私を見て、なぜかご機嫌そうだ。ニヤけてないで何か言ってほしい。


「おかえりとおるさん、君はやっぱり“美しいもの”に目がないみたいだね。さすが一流モデルらしいよ」

「え、美しいもの……?」

「君は今、この骨董品こっとうひん店のお客になりかけていたんだよ」

「私が客に……?」

「そうでしょ、店主さん?」


 ヒロの呼びかけた先を見ると、長い白髭を生やした老人が立っていた。いつからそこに居たのだろう。気配が無さすぎて全く気付かなかった。


「ふぉふぉっ……。ただ骨董品こっとうひんが客を選んだのだよ」

「そうとも言えるねぇ。思念が取り憑く相手を招き寄せたのだから」

「ほう……若造、おぬしには分かるのか?」

「代々伝わる除霊師の家系でしてねぇ」

「それはそれは。本物の除霊師にお目にかかれるなんて、光栄だこと……」


 老人はヒロと会話しながらも、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。先ほどの花瓶の件があり、私は身構えてしまう。老人はそれすら見透かしているようで、なんだか気味が悪い。


「で? 若き除霊師がべっぴんさんを連れて、私の店になんの用だい? デートかい?」

「この子は新しい助手でねぇ。骨董品こっとうひん店のお客さんが悪霊の被害に遭っていて、依頼を受けたんだ」

「なんと……! 美人の助手とは羨ましいねぇ。はて、この店の品に悪霊は取り憑いていないはずだが?」

「羨ましいでしょう? 仰るとおり、見た限り安全な思念しかいないですねぇ。購入後に()()()()()()()()()があったのかもしれません……」

「末永く大切にするのじゃぞ。 ちなみにどんな品だったかね?」

「もちろんですとも! 内側が鏡になった彫刻の美しい小物入れ……長い髪の毛の悪霊が棲みついています」

「ほう……」


 二人の息の合った掛け合いが続いた後、老人は真面目そうに考え込む。


「覚えているぞ……あれは確か、孤独死した女性の遺品だったのぉ。長い黒髪が魅力の女性だった。肌身離さず小物入れを持ち運び、その鏡で髪をとかしていたそうな。愛情のつまった品だったはずじゃが……」


 ヒロはいつものように顎に手を置き、少しの間視線を上に向けた。彼は行動を起こす前、いつもこうやって思考を整理する気がする。


「その方の亡くなった場所、教えていただけませんか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ