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第3話 怪異は日常を蝕む

 家に帰った私は、早速夕食の準備に取り掛かる。ザクッザクッ……っと、新鮮な野菜を切る音が気持ちいい。


 紫玉ねぎ、ミニトマト、ラディッシュ、ひよこ豆に、ベビーリーフ。彩りが足されたサラダは、どんどん美しくなる。最後にバルサミコ酢とオリーブオイルで仕上げたら、とおる特製サラダの完成。


 居間ではいつものように、大音量のテレビが流れているが、あえて気にしない。私は家族の健康に気を使った、とっておきのレシピを仕上げていく。この時間が大好きだ。


「帰りに買った半額のお刺身、喜んでもらえるかな?」


 誰かのために作る料理は格別だと思う。喋ることが苦手な私にとって、愛情を伝えられる大切な機会だから。シンプルなものでも、家族を思って、丹精込めて盛り付けしていく。


「よしっと、出来上がり!」


 オシャレなお皿に乗せ終わり、配膳をしたら、SNSに投稿するための撮影も欠かさない。あとは2階にいる家族を呼ぶだけだ。


あかね〜!ご飯できたよ!」


 返事はない……が、いつものことだから気にしなくて大丈夫。少ししたら気だるげな様子の妹が、階段を降りてきた。


「ちょっと!テレビの音がうるさくて勉強の邪魔なんだけど?!」

「あっごめんね、気づかなかった」


 また小さな嘘をついた。本当はうるさいだろうなと心配しながらも、私は無視していた。その方が気が楽だから。


「今日はお刺身とサラダ!味噌汁の出汁もこだわってみたの!」

「んー……」


 あかねは大学受験の勉強中で機嫌が悪い。でも、せめて健康でいてほしいと思って、心を込めて毎日料理している。


 あかねは私に目もくれずテレビを見ている。ちょっとだけ寂しいけど、同じ空間にいられるだけ幸せなんだと、前向きに捉えたい。お願い、今日は仲の良い姉妹で居させて……。


 ──そんな願いを嘲笑うように、異常は起きた。


 カチッと……リモコンのボタンがへこみ、()()()()()()()()()()()()()のだ。もちろん、誰もリモコンに触れてなどいない。


「ちょっと、何勝手にチャンネル変えてんの?!人が見てる最中なのに!!」


 あかねは私が意地悪をしたと思って怒る。でも、「リモコンが勝手に」なんて言ったら火に油だ。あかねは過去、私が心霊写真の話をしたら、酷く怒って毛嫌いするようになった。私を気を引きたいだけの〝かまってちゃん〟だと思っているのだ。


「ご、ごめん……」


 その場を切り抜けたくて、気まずさに耐えられなくて、思ってもない謝罪をする。これじゃ私が犯人だと認めているようなものだ。でも、どうしたら円満に解決できるのか分からない。


「っていうか、味噌汁の味うっす!モデルだからって家族にまで食事管理を押し付けないでよ!!」


 あぁ、せっかくあかねのために料理したのに。悔しいな。


「……じゃあ、自分で作ればいいじゃん」


 ギロリと、あかねが私を睨んだ。どう見ても怒っている。やってしまった、つい胸の内にたまった不満を吐き出してしまった。心の底の汚い部分を、隠し通せなかった。


「あっそ!!お前の作った飯なんて食わねぇよ!!!」


 あかねは箸をテーブルに叩きつけ、ドスドスと階段をのぼり、自分の部屋へと帰ってしまった。まだ半分も食べ終えていないのに……。


 どうしてこんなに不仲になってしまったんだろう。昔はもっと心が通い合っていたのに。笑顔の絶えない家庭だったのに。あの日から全てが狂ってしまった。


 カチカチカチッっと……リモコンのボタンが押され、大音量のテレビが流れる。そこにいる誰かが、姉妹の仲を引き裂こうとしている。


「もうやめてよ。私たちのこと、放っておいてよ……。」



 私は思い切り扉を閉めて、暗い部屋でうずくまった。とおるはボソボソと喋りハッキリしないから、一緒に居て腹が立つ。たまに行動したかと思うと、勝手にチャンネルを変えたり、ムカつく説教を始めたり……。


 あの日から、私は「強く生きないと」と自分に言い聞かせてきたつもり。でもそれに比べてとおるは、何の変哲もない写真を見せては「心霊」だの言い出す始末。情緒不安定なオカルト狂いになってしまった。


 姉が頼りにならないなら、私がしっかりしないといけない。私一人で生きて行かないといけない。良い条件の奨学金で大学へ通い、ちゃんとした職に就くんだ。とおるみたいに不安定な生き方をしてはいけない。一生働ける給料の安定した会社に入社するため、社会の競争に勝つため、真剣に取り組まないと。


 私は電気をつけ、再び勉強を始めようとする……が、それを邪魔するものがあった。


「あーもう!!どうしてあんな大音量でテレビをつけるんだよ?!」


 勉強の邪魔をしているとしか思えない。下の階へ行って消しても、また少しすると大音量で見始める……その繰り返しだ。


 私はとおるが憎くて憎くて仕方ない。周囲の気を引くために、変な子として振る舞ってばかり。真面目に生きている私が馬鹿々々しくなるほどに。そのくせモデルとして運よく人気者になって、ちやほやされて……。


 心霊写真が怖いとか言ってる人が、モデル撮影の仕事なんてする訳ないでしょ。矛盾しすぎなんだよ。


 力を込めたシャープペンの芯がボキッと折れて、ノートが汚れた。

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