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アシュは笑いながら顔を振った。
上半身だけ起して溜息を吐く。
「いきなり一緒に住むってなっちゃってはっきり言うと性格あわないし」
「ふうん」
「ザンの方がよっぽど気が楽だよ」
そう言うと微笑んでまたベッドに横たわる。
瞳を閉じて何かの気配にそっと開くと、ザンの緑色の目が覗き込んでいた。
妙な空気にアシュは悩む。
「あの、本気?」
「お前に興味があるだけだ」
「じゃあ止めておいたほうがいいよ。俺、昔はけっこう遊んでたからさ」
手を振って拒否するがその手を強い力で掴まれる。
「気が向いた時だけでいい」
「……ダメだよ」
口では拒否するが仕草も拒絶の意志を示すが、何の意味も無い。
酒で思考は循環せず、優しく触られると流されそうになる。
セックスをするのは好きだった。それは男とも女とも。
しかし男とする(受け入れる)その快楽と、温もりから離れるのが困難で何度もトラブルを招いてしまった。
もう数なんて数えていられないくらいの相手と共にした過去。
それが悪い事だなんて微塵も考えなかったあの頃。
劣悪な生活の中で唯一安心を得られる時間だった。
たとえ愛などなくても行為自体に何の問題もない。
アシュは今まで誰一人愛しはしなかった。しかし相手は一度アシュと身体を重ねてしまうと本気になってしまう。
一方的な束縛と独占欲に何度も死にかけた。
もうそんなのは嫌だった。
でも、この彼ならば大丈夫かも知れない。
そんな期待をしてしまう程に信頼している男だった。
気が付けば彼を受け入れており、久しぶりに男を受け入れた身体は想像以上に火照った。
結局アシュが自分の部屋に戻ったのは昼過ぎだった。
帰ってみればライヤの姿はなく、寝て起きた形跡だけがある。
皿が片付けられていたのは意外だった。
身体のだるさに大きく伸びをするとソファにゆっくりと腰を降ろす。
シャワーは貸してもらって身体は洗ったがどうにも落ち着けない。
本当に久しぶりだったし、何よりまた同じ事にならないかと酔いが醒めた頭で困惑していた。
静まり返った部屋。
まだが残っている様な気がして小さな息を吐く。
その時。
「アーシュ!」
「うわああぁああああっ!?」
背後から何者かに抱き締められ、あまりの恐怖にアシュは雄叫びのような悲鳴を上げてしまった。
強盗かと焦ったが犯人は同居人のライヤだとその声音で解る。
とにかくすごく笑われてアシュは熱くなった顔をさすって口を尖らせた。
「ひどいなもう」
「テメエがぜんぜん帰ってこねぇからだろうが」
本気で恐怖に叫んだアシュは暫し動悸が治まらずソファに寝転がった。
それを眺めていたライヤの目は冷たい眼差しに変わっている。
――その視線に気付いていたアシュだったが、あえてそれを無視した。
勘付かれているようだったが例え聞かれても答える気はない。
そのつもりでいた。
「――っ!」
突然の、突然の行為。
アシュの首がライヤの片手によって締め上げられている。
呼吸が苦しくなって来たアシュは本能的に逃れようともがく。
が、びくともしない。
「――っは、うう」
無様にそんな声しか発せないアシュの瞳には涙が滲んで来た。
そこで、ライヤの手がアシュの首から離れる。
盛大に咽せるアシュにライヤは口端を吊り上げて皮肉を告げる。
「俺が本物の強盗だったらとっくに殺されてたな」
「はっ、な、んでこんな、こと」
「気色悪いんだよお前」
蔑んだ瞳にアシュは萎縮する。
この男は相当だらしないとは思っていたが。
ある一定の部分では信念がありそうだ。
そんな事を感じてアシュは自嘲気味な笑みを浮かべて口を開く。
「出て行けば」
「俺に命令して勝てると思うか? 自分で部屋見つけんのめんどくせぇ」
結局面倒だから他人の家に潜り込んだのか。
金なんて腐るほどある癖に。
それとも一人だと寂しいなどと思うのか。
「俺が何してたのか知ってるんだ?」
「お前、俺の事警戒しなさ過ぎたよな」
そう言われてアシュはぼんやりとしながらも、あの携帯の存在を思い出す。
慌ててその携帯を胸元のポケットから取り出した。
「それはな携帯に見せかけた軍事機器なんだよ。実はいろんな機能が裏に付いてる」
「な、なんでそんなのを俺に」
「興味本位。変なヤツだなって思ってたけどただの淫売だったか」
淫売と言われた事に違和感が拭えず、つい「金なんてとってない」と反論してしまう。
「あっそ」
しかしライヤは興味なさそうに呟くだけ。そしてこんな疑問を口にした。
「男とってそんなにいいもんか?」
「……もういいだろ」
それ以上話しをしたくないとアシュは沈黙を決め込む。
ライヤもそれ以上何を言うでも無く自分の携帯の画面で何かを眺めている。
その内容は世界の情報を伝えるニュース番組であり、企業の名前なども上がる。
それを見つめる彼の目は厳しかった。




