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Breath~自分の愛が信じられない男と愛を理解できない男~  作者: 彩月野生
第二章〈異変〉

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6

 短い連休ではあるが、学生達は好きな様に過ごしている。

 ライヤは部屋にこもり携帯を開き、浮き上がる映像を眺めていた。

 あの町を知ってから集めた情報や、実際に足を踏み入れた場所が映し出されている。

 見つけたかったものは見つからず。

 今の自分では探す事は不可能だと理解した。

 父に要らぬ情報を渡してしまった事実に、自分に怒りさえ覚えている。


 ――最悪だな。


 自分が見つけたかったのに。

 そんな思いに捕われているとふいに通信が割り込んで来て驚く。

 それはライヤが出ている授業を受け持つ教授からだ。


『今直ぐ私のところへ来なさい』

「は?」


 通信は切れてしまってライヤは憮然としない表情でひとまず携帯を閉じる。

 少し考えたが面倒でも足を運ぶ事に決めた。

 今は大人しくしていた方が良いと考えての事だ。

 部屋を後にして教授の部屋へと向かうと、何故かドアが開かれていた。


 教授の部屋は厳重なセキュリティーで守られている筈。

 それが無防備に開け放たれている。

 誰だって妙だと思うだろう。

 少しの躊躇の後。ライヤは警戒しつつ室内へと足を踏み入れて様子を伺おうとした。

 そして何かが飛びついて来たのだ。


「うおっ!?」

「ライヤ!」


 聞き覚えのある声と共にその物体は自分に抱きついて来た。

 なんだと狼狽えながらよく見てみれば……。


「お、まえ、アシュ?」

 信じられなかった。


 まさかこんな所に姿を現すだなんて。

 しかもこんな行動を示すなんて。

 混乱した頭でアシュを凝視していると、ふいに別の声がかけられて顔を向ける。


「ライヤ・バルテン」

「は? あ、ああ」


 教授が気味の悪い笑みを浮かべながら命令口調で告げた。


「今直ぐここを出て行きなさい」

「はあ?」


 まさかそれで呼び出したのだろうか。


 ――いや、コイツはどう説明がつくんだ?


 やはり訳が解らずただアシュの背に腕を回す。


「私からお父さんへ話しはしたから。なに、追い出すわけじゃない。別に授業を受ける場所を用意してあげたからね」

「な、なに勝手な事を」


「行こう早く! ライヤ」

 満面の笑みでそんな風に言われて、ライヤは初めてアシュに対して何か羞恥を感じてしまう。

 一体、何がどうなっているのか。


 今から数時間前にライヤの父、クラウス・バルテンの元に連絡が入った。


『お久しぶりです。クラウスさん、ロイブです」

「息子がお世話になっております。何かご迷惑をおかけしましたか?」

『いいえ! ただちょっとですねぇ。この頃、不安定な様子で』

「そうですか」

『宜しければ、私が別に持っている教室での授業に、参加をされないかとご相談なのですが』

「……ああ、特別教室ですか」


 ロイブ教授は主にメンタル面での研究を熱心に行っており、授業もそういったメンタルに関してが中心なのだが、別途自分で費用を負担している特別教室を開いていた。

 そこは精神面で問題を持つ学生達が暮らす寮にもなっている。

 大学から数百メートル離れた森に囲まれている小さな学校だ。

 問題を抱えた生徒達の自立支援施設としても成り立っていた。

 一時的になら良いかと息子の為に期限付きでの提案だった。


『状況で判断させて頂きまして、期限についてはまたご相談させて頂きますね』

「ありがとうございます。しかし急ですね?」

『ちょうど連休に入りましたから、何かと忙しいものでして』


 手続きを進めて、クラウスはチェアに深く腰をかけた。

 休憩所として使っているこの部屋はやたら天井が高い。

 気分を紛らわす為に、わざと青空をモチーフにしたデザインにしている。


 ――あそこにいれば情報は入るまい。


 ライヤはあの街を諦めていないだろう。

 息子に先に見つけられては困る。

 何を考えているのかは分からないが、嫌な予感しかしないのだ。

 この大学にいるよりも、あの教授の学校の方がより行動は制限されるだろう。

 身動きは取れまいと踏んだ父は、最終的に快く教授の提案を受け入れたのだった。


 こうしたやり取りはライヤにだって想像はできる。

 できるが何故ここにアシュがいるのかはまるで想像出来ない。

 しかも別人のように人懐っこい顔でライヤに擦り寄って来るのだから。


――なんだ、コイツほんとうにあのアシュか?


 全身で好きだと態度で示されて落ち着きそうも無い。

 冷めた態度で自分をセフレだと言い放ったあのアシュだとは思えない。

 若干冷や汗をかきつつ腕に絡み付いているアシュを横目で眺める。

 楽しそうな雰囲気だ。


「いい加減はなせよ」

「え? ああごめん」


 素直に言う事を聞くので一安心し、とりあえず準備を始めた。

 アシュも一緒らしいので、あちらに着いたら詳しく話しを訊こうと決めて。

  

 緑に囲まれた木造の建築物。

 一見、学校には見えず、旅行客が泊まれそうな美しい外観の建物。

 そこには数十人の学生達が通っている。

 見た目は様々。

 耳や唇にピアスを開けてだるそうに欠伸をする男子。

 黒い服を身に纏う俯いている少女。

 年齢は十代後半から二十代半ばと比較的若い層が多い。

 ロイブ教授としては年齢関係無く受け入れる体勢を整えているのだが、自然と若者達が集っている状況だ。

 クラスは一つのみ。大きな室内に通っている生徒達が集う。

 休む間もなく紹介をされたライヤは、先程のやり取りについて教授に小声で問いかける。


(なんであいつはダメなんだ?)

(彼には勉強は必要無いからだよ)

(はあ? どういう意味だ)

(いちゃいちゃされては生徒達に悪影響を及ぼしてしまうのでね)

(なんだそりゃ!)


 ライヤを好奇の目で見つめる彼等は、どんな問題を抱えているのかは見た目では分からない。

 大して興味も無いライヤだったが、一時的にだが関わる事になる彼等に挨拶くらいはする事にした。

 初日の一時間はライヤの為に時間が設けられる。


 次々に質問攻めにあっていい加減、鬱陶しくなった時、おずおずと話しかけて来た少年がライヤの目を惹く。

 なんというか凄く幼く見えたのだ。


「おまえ何歳だ?」

「え? えっと」

「この子は実年齢は不明なんだよ、ある事情でね」

「は?」


 後ろから声をかけてきたのはロイブ教授だ。

 周囲の生徒達も納得している様子。

 なのでライヤは仕方無く疑問を飲込む。

 なんともやりにくい空気だった。

 ひとまず一日を終えたライヤは、アシュの待っている与えられた部屋へと戻る事にする。

 なんだか転校生の気分だ。


 ――ていうかそういう事なのか。


 期間限定とはいえ、そんな目で見られるのは仕方無いのかも知れない。

 帰って来たライヤにまたも飛びかかりそうな勢いのアシュを制止すると、ローテーブルの前に置かれたチェアに腰掛けて大きく伸びをする。

 学生の部屋とは思えない、まるでどこかのホテルの様な部屋。

 ライヤの立場を考慮してだろうか。

 ベッドは何故かダブルベッド。


 ――俺とアシュの事はあの教授にバレてんのかよ。


 ふと父は知っているのかと考えたがすぐに止めた。

 知られた所でどうでもいい。

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