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友人達と行くと聞いたので、レナートは彼等の元へと出向きくれぐれも何かしないか見張っていて欲しいと話したのだが、真剣に聴くものもいれば適当に聞き流す者もいて信用出来ない。
アシュの事を考えるとそう簡単には好きな様にさせない、そんな雰囲気を感じた。
――どうしたものか。
社長の事業、その子息の面倒と悩みは絶えない。
それでもこれ以上悪い方向へは向かわせたく無かった。
気掛かりなのは、あの場所の近くに例の街がある可能性が残っている事だ。
仮にライヤやアシュが見つけたとしてどうなるのだろう。
「迎えに行きます」
「はあ!?」
「ですから、アシュさんを私がここに連れて来ますので!」
出て行ったと思ったら勢い良く帰って来たレナートに、ライヤはいささかうんざりした様子で返事をする。
「なんだよ、やっぱ俺が信用できねえのか」
「そうではないですがあの、やはりあの場所には危険が潜んでいるかもしれないので」
「………」
行く気満々だったライヤが、簡単に引き下がる筈がないと踏んで、なるべく穏やかに話そうと努力する。
「わーかった」
「!」
「じゃあ俺、待ってるからよさっさと頼むぜ」
そう言うとベッドに寝転がって荷造りを放り出す。
「ライヤさんほんとうに」
「……あいつの顔見るの、もう少し先でもいいかなって」
何か企んでいるだろうと思っていたのに、どうもそうではないようだ。
何故か弱気になってしまっているらしい。
相変わらずの気分屋で周囲を振り回してばかりの青年だ。
忙しい時期に外出を許してもらえるか不明だが、社長に確認する為、部屋を出て行く。
残されたライヤは静かな表情で虚空を見つめていた。
そんな空気の所に元気な声がなげられる。
どうやら旅行に行く準備を整えた友人達がやって来たようだ。
ライヤは「中止になった」とだけ叫ぶ。
文句を言う声を無視しているとやがて声は遠ざかる。
自分と付き合うくらいの人間達だから、対して思考は変わらない。
気分屋なのは彼等も同じ。
本格的に眠気に襲われたライヤは眠りに落ちた。
少女は長くは生きられない身体だった。
本人はそれを自覚してしまったが、両親の愛に包まれて幸福な日々を送っていた。
けれど、世界が豹変して突然、生活がおかしくなってしまったのだ。
やがて住む場所を追われたくさんの見知らぬ人達と暮らす様になる。
しかし、両親は気味が悪い柄の服を来た人間達と話す様になり、何時の間にか少女は彼等に連れて行かれた。
長い階段を下へと歩いて行くと、両親が待っていた。
目の前には淡く光る大きな家。
に見えた。
『新しいお家だよ』
『入りなさい』
太陽の光が見えない場所の不思議なお家。
白くて綺麗な服を着た人達も一緒だった。
幸せな日々だった時と同じ様に過ごせた。
でも、長くは続かなくて。
少女は何時の間にか倒れていた。
水に浸る自分を両親が見ている。悲しそうな目で。
『一人にはさせないからね』
『目が覚めたらお友達がたくさんいるよ』
『『私たちの姿が見えなくても、ずっと傍にいるからね』』
涙を流す父と母を少女は記憶に焼き付けて瞳を閉じる。
目を覚ますとそこは変わらない世界。
ではなく、下を見ると、変わり果てた自分の姿。
「いやっ」
思わず悲鳴が上がった。
「大丈夫、テティー!」
宙に浮かぶ少女に紅い髪の女が呼んだ。
ゆっくりと目を覚ますテティーに歩み寄る優雅な影。
久しぶりに見る顔に大きな目がさらに開く。
「ベルタ」
「うなされてたけど?」
仰向けの形だったテティーは状態を直し立つ姿勢になってから改めて周囲を確認してみた。
周りには誰も居ない。
静かな空間。
オレンジの灯が部屋を包んでいる。
ここは休む場所として使っている部屋だ。
本来、重要な存在でなければ入れない場所。
此処に二人はそれだけ特別である証拠。
紅い髪の女、ベルタは微笑を浮かべてある人間についた問う。
「あのアシュってのどうしちゃったの?」
「会ったの?」
ベルタは髪を払うとテティーを見上げて言葉を紡ぐ。
「だって熱に浮かされているみたいにって。それって別れたヤツの名前でしょ?」
「その通りよ。でもこれは作戦なの。効率的で質の悪い」
ふわりと降りたテティーは一瞬の迷いを見せた後、そっとベルタに打ち明けた。
その内容に瞳を細めてベルタは肩を竦めて大仰に両手を振った。
「それで上手くいけばいいけどね」
「明日にでも迎えに行くわ」
「むしろ連れて行ってあげるわよ、私とレフでね」
ライヤの居場所なんてペネムの機能を使えばすぐに見つかるだろう。
それにテティーはなるべくなら此処から離れたく無い筈。
長い沈黙の後、テティーはようやく口を開いた。
「わかったわ。でも、アシュには発信器を付けるから」
「私がいるのに逃がすとでも? やめてよね」
軽く笑うとベルタは早速準備をするべくアシュを捜しに行った。
口元を楽しそうに吊り上げて内心で嘲笑う。
――莫迦ねあんた。人間の心なんてどう変化するなんてわからないのよ。
――それは、あんたが一番よく知ってるでしょうに。
先の方から「ライヤ」と呟くアシュが歩いて来るのが見える。
あれではまるで夢遊病。
常に微笑んでいるのが不気味だ。
ベルタは躊躇せずに歩み寄るとその手を掴んで囁く。
「これからそのライヤの元へ行けるのよ」
「本当に?」
「だから準備をしましょう」
頷くアシュを見つめてほくそ笑む。
次はレフの部屋へと足を向けて早速準備をするように伝えるが、怪訝な顔を向けられた。
「で、ザンはどうする?」
「まだ寝てるんでしょ? 置いて行きゃいいじゃないの」
「でもあれだけアシュを心配してるんだし、なんかしでかさないといいんだけど」
「何もできやしないわよ。これがある場所を知ってても見えないんじゃ入って来れないし」
あれから二人はザンを薬を使って眠らせる事にした。
常人とは逸脱した身体能力を持つ二人は、一般男性なぞに捕まる様な事は決して無い。
もともと贄自体に反対だった二人はザンよって更にその意志を強めた。




