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Breath~自分の愛が信じられない男と愛を理解できない男~  作者: 彩月野生
第一章〈出会い〉

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 中欧に在る大企業ヴィレ。

 表向きは様々な企業のシステムのサポートを受け持つという事業を展開しているが、衛星を駆使して、現状地球上で発達している通信システムを制御する事も可能な、スーパーコンピューターを所持している。

 だからこそ、価値あるシステムは全て知りたい。

 ヴィレの社長であるクラウス・バルテンが今まで放って置いた息子を呼び戻したのには理由があった。


「おまえが居た街の周辺にある筈だ」

「そんな事で俺を連れ戻す様にレナートに言ったのかよ」

「下手に通信システムを使えば、盗聴されてしまう可能性があるんでな」


 父――クラウスを睨むライヤは、広大なドームの中心にある白いテーブルに頬杖を付いていた。

 腰掛けている椅子も白く、ドームの天井には青空が見えている。

 そんなライヤの目の前に立って威圧感を醸し出す、白髪混じりの金髪の初老の男は息子の視線をまっすぐに受け止めた。

 跡継ぎの話しは今回は放置らしい。

 ライヤは相変わらず勝手な父に溜息をつきたくなっていた。


 ワンマンな所はあるがその強い信念には敵わないと認めてはいる。

 その為ライヤは父に苦手意識を持っていた。それには母も関係しているのだが。

 クラウスは手の平を空中に翳す。

 すると四角い物質が現れ、それは映像となった。

 このドーム全体は手を翳して脳内で司令するだけで自動的にモニターが現れて、映像を映せる様になっている。

 この技術は他の企業でも実現できていない。

 例のコンピューターの性能なのだろう。

 興味のないライヤはモニターに映される映像を退屈そうに見やる。

 そこにはライヤが居た街の住人達や、彼等が出稼ぎに行く市場が映っていた。

 そして知っている顔も見た。


「アシュ」

「おまえが一緒に暮らしていた男だろう」

「へえこんな事まで調べて盗撮してたのか」

「こんな無法地帯同然の地域で訴えても無駄だぞ?」

「それなりにルールはきちんとしてたぜ? こいつだってごく普通に暮らしてたみたいだし」


 ――俺が居座った所為で壊れちまったけどな、という言葉は吐き出さない。


「これって衛星使って撮ってるんだろ?」

「だからなんだ」

「盗撮しまくりじゃん、やっぱあんたの会社ってろくでもねぇな」

「別に私の企業に限った話しではない」


 世界中の機器がおかしくなり、衛星も故障してしまい何者も操作も監視もできない時期が続いた事がある。その間に一部の企業が勝手に衛星を奪取してしまうという事態が起こった。

 裁判にはなったが、ほとんどが元の企業に戻っていない。

 しかしヴィレが所有している衛星は自社開発の物だ。

 盗撮といえば聞こえが悪いが、特定人物の監視は今やどこの企業でも行っている、暗黙のルールが敷かれていた。

 それだけ個人情報や人権に関して危うくなっている時代なのだ。


「これを見ろ」


 映像が切り替わると淡くぼんやりと光る物体が見える。 

 その中心には少女がいた。

 ライヤはその隣にアシュが居る事に気付くと瞬く。


「コイツとあってたのか! でも、このガキがあんな香水なんて付けてるのか?」

「知っているのかこの少女を?」

「しらねえ。どこ行くんだ」


 坂道を下って行く二人。その先は真っ暗な映像になってしまって何も見えない。

 ライヤが訝しむとクラウスが簡単に説明をした。


「この先はノイズが入って何も映せない」

「へえ? こんだけの性能の衛星でノイズが入るってことは、とんでもない何かがあるって事か」

「恐らくな」

「で? 俺にどうしろってんだ」

「何も知らなければそれでいい」

「あ?」

「お前は大学に戻って経済を学び直せ。まだ席は取ってある」

「きったねぇなあ」

 

 やっぱり諦めてなかったのかと溜息を吐く。

 ライヤは席を立つとドームの入り口へと歩いて行き、ちょうどレナートと入れ違いになった。

 出て行くライヤをレナートは声をかけようとするが険しい顔つきに口ごもる。


「レナートか」

「ライヤさんとはお話を?」

「……本当の事を話さなかったなあいつは」

「まさか」

「あれを探していた筈だ。そうでなければ理由がわからん」


 偶然、あの街に足を向けた訳では無いだろう。

 わざわざアジアの貧困街に足を向ける理由があった筈だ。

 ライヤはこの場所で勉学に励みさえすれば、いずれヴィレの事業を受け継ぐのだから。

 将来は安定しているのだ。


「私が悪いんだな」

「社長?」


 ワンマン社長が見せた弱気な一面に秘書は心配そうに声をかける。


 〝空に浮かぶ街なんて本当にあるのかしら〟


 青空を見上げて囁く美しい母。

 それを幼い頃のライヤは何も言わずに見つめていた。

 繋いだ手はただの紐代わり”だった。

 事業を受け継ぐ息子が逃げないようにと。


 〝見たいわね〟

 〝あの人が言ってた空に浮かぶ街を、この世でもっとも尊い人類の箱舟を〟 


 ライヤがまだ三歳の頃。すでに母はおかしくなっていた。

 強い意志と信念で事業を拡大させていく夫。

 彼に尽くすたけで喜びを感じていた妻。

 しかし愛情が空回りしてとうとう母は、自分が夫に向ける愛の中に篭ってしまった。

 

 ――あの人の夢が壊れない様に。事業を受け継ぐ存在を守らなければ。


 ライヤは母に名前を呼ばれた記憶がない。


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