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そんな憶測を喋る様子に、レナートは異様な気配を覚えて険しい顔つきになった。
ほんとうにただ遊んでいただけなのかと残念な気持ちにさえもなる。
アシュは大人しい青年であり、一見するととても遊んでいる様には見えないのだ。
ライヤの過去を知るレナートは複雑な想いでアシュを見つめ、立ち上がるとそっと部屋を出て行く。
――もしもと考えたが。
仄かな期待はあっけなく散った。
残されたアシュはソファから腰を上げると、ぼんやりとした表情で部屋の中を眺めた。
自分の気持ちを伝えずに離れてしまった。
例え伝えたとしても叶う筈も無い。そうは思う。
自分の愛を信じる事ができない。
誰かを愛し切る自信がなかった。
――それでもずっと傍にいて好きでいれば、いつかはライヤは、解ってくれたのかな。
そしていつかはライヤを愛し切る事ができたのだろうか。
自問自答に疲れてベッドに横たわる。
「アシュ! 大丈夫か?」
寂しい空気を揺さぶる声が聞こえて来る。
外で待っていたザンが自分を心配してくれている。
声も無く泣いているアシュはザンの顔を見れそうも無い。
「ごめんね」
「アシュ?」
「今は一人にさせて」
窓越しからの声はいつしか聞こえなくなる。
アシュの気持ちを察してくれたのだろう。
シーツに顔を埋める様にして眠りに落ちた。
もう二度と会えないという事実を受け入れる事が怖い。
濡れた頬が渇いた頃。
何かが開く音が響いた。
その音にうっすらと両目を開けたアシュは、見慣れた小さな姿に安堵して上半身を起す。
「テティー」
「お目覚め? そろそろ行きましょう」
手招きをされるとアシュは明るい笑顔を浮かべてベッドから降りた。
少女のその小さな身体は僅かに宙に浮いており、その姿は透けている。
そんな光景に動揺もせず後に続くアシュ。
壁の影に隠れていたザンは、不思議な少女と歩いて行くアシュを見ていた。
よくよく観察してみればその少女はあの時、声をかけてきた少女だ。
――あの子はあの時の! どこに行くんだ?
坂を下って行く二人の後をそっと尾行する。
道を照らす人工灯は充分とは言えず、気を抜くとすぐに見失いそうだった。
そうでなくとも機器が壊れる奇異現象の所為で、この町の通電も滞ってしまっているのだ。
しかし更に妙な光景をザンは目の当たりにする。
少女の身体がぼんやりと輝き始めたではないか。
アシュへと微笑みかけるとアシュの歩調が早くなった。
――やばい。
巻かれると焦ったザンはとにかく気付かれない様にと慎重に動いた。
静まり返った市場を抜けて、その先にある荒れた地へと辿り着いた。
充分な水を得ない渇いた土地には、今にも枯れそうな草が頼りなく風にそよいでいる。
何もないのにその地を歩いて行くアシュ達。
やがて立ち止まったかと思うと、彼等の目の前の空間が歪んだように見えた。
ザンは唾を飲んでその様子を見つめていると、まるで空気が渦を巻いてそこに吸い込まれる様に二人は消えて行くのだった。
声も出せず、ザンは渇いた土の上に膝から崩れ落ちる。
――な、なんだいまの!?
アシュを助けようとかそんな考えよりも恐怖の方が勝って一歩も動けなかった。
近寄って確かめようとは思ったが、二人が消えた空間にはわずかな間だけ火花が散っていた。
何かがある。
そう直感したザンは身の危険を感じて、ひとまずその場で様子を見る事に決めた。




