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007.彼女の素肌に触れる

 ソフィアから、彼女の素肌に日焼け止めクリームを塗ってほしいと頼まれた。


 今まで服の上から身体に触れたことはあっても、直接素肌にということはなかった。


 オレはどうしたものかと、手渡されたクリームの容器を思わず握りしめている。


「あの。できそう……ですか?」


 返事をせずに固まっているオレに不安を覚えたのか、ソフィアはこちらの顔を覗き込みながらおずおずと尋ねてきた。


 ええい、こんなことで彼女を不安にさせてどうする!

 オレはソフィアの顔を見てハッキリと言い切った。


「もちろん大丈夫。優しく丁寧に塗るから安心して身を任せて」


 しまった。

 身を任せて、などと調子に乗って言い過ぎてしまった。


 これは引かれるかな〜、と思ったが、彼女は気にする様子もなく、長い髪を2つに分けて前に持っていって、オレに背を向けて肩からカーディガンをはだけていく。


 水着の背中の紐が見えそうなところまで肌を出すと、穏やかな声で返事をしてくれた。


「……わかりました。それでは、よろしくお願いします。でも……恥ずかしいので、とりあえずこのままでやってもらえますか?」


「わかってるって。それじゃいくよ」


 また不安にさせないようにと努めて余裕のある受け答えを心掛けているが、それとは裏腹に両手が震えて容器のキャップを開けるのも覚束ない。


 現代日本のチューブ型のやつみたいにキャップをポンと開けるだけならそうでもないが、この世界にあるのは容器にねじ式で蓋をするキャップしかない。


 と、ここで閃いた!

 もしかしてチューブとキャップを開発して売れば大儲けできるんじゃ?


 どうせなら前世で読んだWeb小説みたいに現代日本からネットショップで買って取り寄せられたらいいのになあ。


 まあそんな都合のいいスキルは与えられてないので、やるとしたら自力開発だな。


「……どうしました? なにか問題でも?」


 おっと、余計な妄想をして待たせてしまった。


「ゴメン、ちょっとキャップが固くて手間取った。今から塗るよ」


 ようやくキャップを開けた容器の中からクリームを指で掬い、それを彼女の後ろの首筋につける。


「んっ……」


 肌に指先が触れただけで、彼女から甘い吐息のような声が出て、一瞬手が止まった。


「もしかして触り方が気持ち悪かった?」


「いえ。少しくすぐったいというか、敏感に感じてしまいました。気にしないで続けてください」


 よかった、変な触り方ではなかったらしい。

 それはともかく、肩の上からソフィアの胸元が垣間見えて、今度はそちらが気になってしまう。


 淡いブルーのビキニ……で包まれた胸は思ったよりも大きな膨らみで、真ん中には谷間も見える。


 オレが学校にいたときの記憶では、スレンダーな体型の彼女は胸の膨らみがあまり大きく無かった筈だけど、どうなってるんだ?


 会わなかった2年の間にこんなに膨らんだということか。

 オレはそこから目が離せなくなっていて、それに気づいたかのようにソフィアは首を左から後ろに向けて回し呟いた。


「……前、というか胸が気になるのですか?」


 うおぅっ!

 図星を当てられてズキュゥーンッ! と自分の胸が射抜かれたような衝撃を覚えた。


 ヤバい、ここは誤魔化さねば。


「いや、そうではないというか、たまたまだな」


「……つまり気になる程ではない、ということですか?」


 少し悲しげな表情を見せるソフィア。

 ど、どう答えるのが正解なのかわからなくなってきた。


 ここはもう正面突破しかない。


「ゴメン、嘘をついた。自分の彼女の水着姿、やっぱり胸に目がいってしまう。というかそれだけ可愛いっていうか」


 ああ、結局しどろもどろになってきた。


 どうなることかとヒヤヒヤしたが、ソフィアは意外にもクスクス笑ってオレを責めなかった。


「私もなんて言えばいいかわからないのですけど……見られるのは恥ずかしいのですが、その反面、貴方にはこの水着姿を見てほしいとも思います。自分でも複雑な気分ですが、この場で少し見られたからといって気にしたりはしません」


「そ、それなら良かった」


「……でも、ジッと見続けるのは、やっぱり恥ずかしいです」


「ああ、それは気をつける。とにかくクリームを塗ってしまおう」


 ソフィアはいつもの微笑みに戻って前を向いた。


 さて、気を取り直して作業再開だ。

 クリームが均等になるように手で慎重に延ばしていく。


 肌に触れるたびに、聞こえるか聞こえないかくらいの吐息が断続的に起きて、始めのうちは気になった。

 でも均等に塗る作業に集中してるうちに気にならなくなってきた。


 首紐に手が当たって解けたりしないように注意を払いながら、クリームを背中と肩まで肌につけては広げるを繰り返し……ようやく背中の紐から上は塗り終わった。


「そ、それでは……あの、続けて腰のあたりまで、同じように……お願いします」


 ソフィアはカーディガンから両腕を抜いてそれを前に抱えると、少し震えながら背中と腰までをオレの前に露わにした。


 彼女のクビレ部分を近くでまじまじと見るのはこれが初めてだ。


 なんというか、背中から腰にかけて見事なS字の曲線になっていて、ずっと眺めていたくなるくらい綺麗なラインなのだ。


 あっ、ジッと見続けると彼女が恥ずかしくなってしまう。

 引き続きクリームを指に取って肌の上に広げて、を繰り返す。


 それにしても、ソフィアの素肌はきめが細かくて輝くような美しさ、そしてなんとも言えない触り心地。


 単調な作業の筈なのに楽しくなってしまう。


 そして、いよいよあとひと塗りを残すのみ。

 名残惜しいが、さっとクリームを広げて完了した。


「お待たせ。塗り終わったよ」


「ありがとうございます。これで安心してパラソルの外に出られます」


 やっぱりソフィアの笑顔は最高に癒やされる、疲れが吹き飛んだ。


 その後オレが少し寝転んで休憩している合間に、彼女は顔と前の首元、腕と脚に自分でクリームを手際よく塗っていく。


 それからカーディガンを着直したところでギーゼラが戻ってきた。


「ソフィア! クリーム、ちゃんと塗り終わった?」


「……はい、お陰様で」


 あれ?

 ギーゼラの奴、なんでソフィアが日焼け止めクリームを塗ったのを知ってるんだ?

 その前に波打ち際へ駆けていったくせに。


「タツロウ。ギーゼラがしばらく荷物番をしてくれるので、私たちも出掛けましょう」

 

「そうだな。とりあえずそのへんをブラブラして、その後はまた考えよう」


 丁度お昼時で太陽が一番高いところから容赦なく照りつけてくる。

 少し散歩して、ちょっと休めるところで一緒に軽食でもとって。


 それだけなのに、ソフィアと2人で行くというだけで、オレなんだがワクワクしてきたぞ!


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