052.悪知恵と親友の勘
「おらあああっ!!」
「がはああーっ!?」
「な、なんでコイツがここに……ぐほおおっ!」
「フッ……他愛ない」
「タツロウー! カッコつけてないで、後ろ!」
「死ねやコラァー!」
「おっと。勝手に転んどけ!」
「うわっ! 足が引っ掛かって……!」
最後の一人は、攻撃を避けながら足払いしたら顔面から勢いよく地面に叩きつけられて勝手に気絶しちまった。
「それにしても、こんなに上手くいくとはな」
「ぬふふふ。タツロウの悪知恵が役に立った」
「悪知恵じゃねーよ! 作戦を立てただけだっつーの!」
オレとロベルト、アルヌルフが倉庫に閉じ込められてから3日経過した。
まともな食事を与えられず、このままでは体力的に限界を迎えてしまう……そこで思い切った手段をとったのだ。
倉庫とはいっても中は身を隠すような場所はおろか武器になりそうな物すら落ちていない。
だが高い天井には所々に棒状の何かが下に向かて生えている。
恐らくは荷を移動するための滑車台の名残り。
食事を持ってくる時間に合わせて、オレの風の魔力『つむじ風』でロベルトたちをそこまで巻き上げてしがみつかせたのだ。
途中で目がまわらないように前日から特訓させておいたので、何とかぶっつけ本番で見事成功した。
オレは扉の上部の壁に張り付いて奴らが開けるのを待った。飛行魔法ではジェット気流のような音がしてバレてしまうから。
ちなみにどうやって張り付いたのか……魔力で両手に一旦空気を溜めて、壁に手のひらを押し付ける際に今度は吸い出して……要するに『吸盤』だ。
まあ左腕は無理したおかげで完全に動かせなくなったけど。
そして一見誰もいなくなったのを見て奴らは驚き、確認のため鍵代りの鎖を解いて中に入った……そこですかさず外に出て背後を取った。
やれやれ、とりあえず作戦の第一段階は無事終了っと。
「おーい! 何でもいいから早いところ俺たちを降ろしてくれ〜!」
「おれ、も、もう腕が……もっとダイエットしとけばよかった〜!」
「わかってるって! だけど、そろそろ奴らが騒ぎに気づいて出てくるはず……もうしばらくそこで耐えろお前ら!」
「タツロウ! また後ろ! タンクトップが!」
「テメェは……まだくたばってなかったか!」
「やべっ!」
ブーン! と首筋目掛けて放たれたタンクトップ男の左フックを、寸前でしゃがんでかわす。
もちろんすぐさまカウンター攻撃だ!
「靴の裏でシャツの上から蹴り飛ばしてやんよ! オラァッ!」
「ゴフアッ!」
ざまあみさらせ! 痺れと変色が酷くなってまともに動かない左腕の仇だ!
と満足しかけたのだが。
「んっ……な、なんか足が熱っちいッ!!」
「靴から煙が出てる! すぐ脱げっ!」
ロベルトの呼びかけで慌てて靴を脱いだけど、底に穴が空いて焦げ臭い煙が立ち込め……ゲホゲホと思わず咳き込む。
「あーあ。おもくそ腹を蹴ってくれたからよぉ、思わず酸の毒を分泌しちまったぜ。あとで全身痒くなるから嫌なんだよなー。おまけにシャツも溶けて台無しになったじゃねーか!」
タンクトップ男は腹を指で掻きながら不気味な笑顔を見せやがる。
さっきの蹴りがほとんど効いてねえとはな……毒の魔力抜きでやり合っても簡単には倒せそうにない。
かといって周りに武器になりそうな物は……。
「タツロウ……テメェー、派手にやってくれたなァーッ! だが逃がしゃしねェ……ここで今すぐ死ねやタコが!」
タコ野郎も来やがったか。ならばちょっと交渉してみよう。
「おい、わかってんのか? オレらを殺せばお前らの親分が逆に都合が悪くなるぞ!?」
「うっせーんだよ! お前を始末したら、あの2人の直下に死体を置いて……全員転落死したことにすりゃいい。お前こそ小賢しいマネして裏目に出たなァ、タコ助が!」
「というわけだ。これで思いっきりヤれる……ゲヒャヒャ!」
ちくしょう、そうきたか。どうにか自力でこの場を切り抜けるしかなさそうだ。
そして自分の酸でボロボロになったシャツを脱ぎ捨てた毒男は、肘から先がない右腕を前に向けて構える……まさか?
「毒液をタップリくらいなぁーっ!」
ヤバい、いきなりこう来るとは想定外……周りの仲間がどうなってもいいのかよコイツ!
「おおおっ……で、出るぅーっ! イテテ! ウヒョー!」
ゲェェー! 腕の古い傷口みたいなのがパカッと開いて、ブバアーッ! って紫色の液体が飛んでくる!
「うわああああーーっ!!」
「タ、タツロウー!!」
◇
「ソフィア! 何とか間に合って良かった〜!」
「シャツハウゼンに着いたらさ、臨時の出張公演が決まってバズールの方で出演するって聞いて……急いで戻ってきたんだよ」
「あっ……サンドラ、それにマルコ君……!」
バズールでのファッションショー出演と波乱の展開となった慰労パーティでの一夜……。
それらの疲れを癒す間もなく翌日、次の公演先へと向かうために慌ただしく馬車に乗り込もうとしていたソフィアに、神学校時代の友人たちが声をかけてきた。
この数日に立て続けに起きた出来事によって沈みがちだった彼女の表情がパァッと明るくなっていく。
「ごめんなさい二人とも……本当に急遽決まったことだったので、手紙を送ってお知らせするにも既に間に合わなかったのです」
「そんなのいいって、気にしないで。あたしたちは向こうのファッションショーを楽しんできたから。ところでギーゼラはどこ?」
「彼女がデザインした服もショーで着てるんだよね、確か?」
「……それについても申し訳ありません。ギーゼラは今、服を手直し中なので。今回はどちらにも出品していないのです」
「そうだったんだ……残念だなあ、久しぶりにあの子とお喋り楽しもうと思ってたのに」
「まあ、そのうちまた会えるさ。ところでソフィアはこれから次の所へ移動するところなのかな?」
「……はい。ですのでもう行かないと……また改めて手紙を送ります。サンドラ、またの機会にゆっくりとお話ししましょう。もちろんギーゼラも一緒に」
「うん……あ、あのさ。ソフィアにちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「だめだよサンドラ。もう時間無さそうだし、それにこんなところでその話題は」
「……いえ、まだ少しくらいなら問題ありません」
「それじゃあ遠慮なく……この街に着いたらさ、変な噂を聞いたんだけど、本当かなって」
「噂……ですか? 私に関係あることでしょうか?」
「うん。オルストレリア大公の嫡男って人とソフィアが……その、婚約したって。もちろん嘘だよね?」
「ソフィアにはタツロウがいるんだし。彼と別れたとはこれまでもらった手紙にも書いてなかったしさ」
まさかそんな話がもう街中に。タツロウの身の安全と引き換えにひとまずフランツの要求に従ったソフィアであったが、正式な手続きをしたわけでもないのに広がっていることで、改めてフランツへの不信感が強まった。
しかし今は友人たちの誤解を解くほうが先。意識していつもの微笑みを浮かべてから、質問に丁寧に答える。
「……それは誤解です。殿下とは慰労パーティでワルツを踊っただけですから。もちろんタツロウを裏切ったりなど……そのうちはっきりする話なので待っていてください。ですが二人に心配をかけてごめんなさい」
「あたしはソフィアを信じてる。こうやって実際に会って話を聞けて確信した。それにしてもタツロウの奴……ソフィアをほったらかしにしないでキチンと向き合えっての!」
「しょうがないよ、アイツもヴィルヘルムさんの元で仕事に追われてる毎日なんだろうから」
「そんなの、彼女の方が大事に決まってるでしょ! そんなことだから踊っただけの相手とあらぬ噂が立ったりするんじゃない! 今度会ったら張り飛ばしてやるんだから!」
「まあまあ、落ち着いて。そういえばタツロウはファッションショーを見に来たりしないの?」
「ブランケンブルク市内の開催されたファッションウィークでは来てくれましたが……彼は元々ファッションには疎いですから。それでは、そろそろ行きます」
「うん。また会える日を待ってる」
「はい、私も楽しみにしています」
「……行っちゃったね。俺たちも帰ろうか」
「一旦戻るのはいいけど。オルストレリア領のファッションウィーク最終地点……ウェーインにあたしは必ず行くから。マルコも一緒に来て!」
「え〜? でも君のご両親が何ていうか」
「そんなのどうとでもなるわよ! それよりもソフィア……あの子、絶対に何か隠してる。あたしの……彼女の親友としての勘がそう言ってるの……!」
「わかったよ。わかったからさ、とにかく腹ごしらえしてから戻ろうよ」
「そうね。待っててソフィア……あたしが必ず追いつくから」
<あとがき>
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